為すべき正義を為す話【鑑賞「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」】

事実上の前作「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」では正直、ついていくのが大変だと思っていたけれど「キャプテン・アメリカ」シリーズを見た上で今作に臨んだところ、いやー面白かった!クロスオーバーを続けるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)で一番の出来ですよこれは。

【あらすじ】世界を危機から何度も救ってきたキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースらヒーローチーム「アベンジャーズ」。だがその陰で失われた命もまた多かった。世界は彼らに国連の指揮下に入るよう命じる。アイアンマンことトニー・スタークらは従おうとするが、スティーブは迷う。そんな中、国連を狙ったテロが勃発。犯人と目されたのスティーブの親友で悪の組織ヒドラ党に洗脳された「ウィンター・ソルジャー」ことバッキー・バーンズだった。バッキーを捕まえられるのは自分しかいないと動き出すスティーブ。それを独断だとして止めようとするトニー。キャプテン・アメリカとアイアンマン、アベンジャーズたちの対決は避けられないのか…。

キャップの現相棒「ファルコン」もいいキャラでした
キャップの現相棒「ファルコン」もいいキャラでした

見る前は「マーベルヒーローのあいつとこいつ、戦ったらどうなるのか、見てみたいでしょー見せますよー」程度で製作された作品だと思っていた。ヒーローが集まる「アベンジャーズ」とは真逆のお祭り的内容ってことで。ところが今作は話がどんどんシリアスになっていく。「キャプテン・アメリカ」シリーズ前作「ウィンター・ソルジャー」もシビアな展開だったけど(予習としてビデオ鑑賞)今作はそれ以上。シリーズ一番の激渋話です。

興味深いのはDCコミックのシリーズ化「スーパーマンvバットマン ジャスティスの誕生」でもモチーフになっていた「正義の執行に伴う犠牲者」の存在が、今作でも中心に据えられていたこと。「エイジ・オブ・ウルトロン」ではアベンジャーズたちが一般市民を助ける場面が印象に残っていただけに「マーベルもそっちに舵を切ったか」と思いました。それもかなり深く舵を切っている。今作の敵の最後の切り札には驚かされました(ひょっとしてアメコミに詳しければそうでもないのかな?)。

その切り札、一歩間違うとご都合主義的でもあるんだけど、そこで説得力を持たせるのがキャラクター描写。話のほぼ全般は正義と情に厚いスティーブが持って行き、後半でトニーが熱情をほとばしらせて盛り上げる。トニーについても今作で必要な背景説明はされている一方、トニーが主役だった「アイアンマン2」も思い出され、説得力がいや増す。

そもそもキャプテン・アメリカというキャラクター自身、MCUの中では一番、正義を為そう為そうとしているんだけど、やればやるほど自身が拠り所とする組織から望まないのに飛び出してしまう悲劇の存在でもある。今作ではとうとう社会全体から飛び出すようなことになってしまった。

でも自身が信じる正義を為そうとし続ける彼には、離れてしまう友もいるかもしれんが、新たな出会いもあるのですよ。

何が言いたいかというと新キャラ「ブラックパンサー」最高ってこと!

今作を観る前には「また『黒豹』とかいう一般日本人には馴染みのないマーベルヒーローが出るのか面倒臭いな何モンだこいつ」と斜に構えてました。これまで鉄人間も蟻人間も米国主将ですら受け入れてきたくせにね…。

いいんですよブラックパンサー!なんであんなに強いのか分からない(正体は明かされる)けど、ヒーローの能力を説明するより正体キャラを魅力的に描くことに注力したのが素晴らしい。行きがかり上それぞれの正義にこだわってしまい分裂したアベンジャーズたちに代わって、今作で本来為されるべき正義をきっちり果たしてみせた姿に惚れました。一生服従ですw。

また「エイジ・オブ・ウルトロン」以降のマーベルヒーローではアントマン、スパイダーマンも登場するんですが彼らはまぁ、賑やかし、かなw。話の本筋には関わらない。

ただしこの二人、めっちゃ盛り上げてくれます!アクションシーンでは大活躍!某映画をネタにするスパイダーマン最高。(文字通り)大技炸裂のアントマンに対し「こっちで誰かあんな隠し技持ってる奴はいないのか」とぼやくアイアンマン最高。先述した通り話は最終的にどんどんシリアスになっていくんだけど「ヒーロー対決のお楽しみ」もきっちり描いたのも素晴らしい。斜に構えた観客も結局見たいんですよそういうのをさ!

とまぁこれまでのキャラクター描写の積み重ねとさりげない新キャラ登場があり、アクションも見てて楽しかったり辛かったりと盛りだくさん。シリーズ作を積み上げたMCUの底力が遺憾なく発揮された現時点での最高傑作でしょう。早く続きが見たい!ブラックパンサー単独作はまだか!次は「スパイダーマン・ホームカミング」!

動き出す物語世界に興味津々な話【鑑賞「スーパーマンvsバットマン」】

アメリカンコミックスの2大レーベルの一つで、スーパーマンやバットマンを持つ「DCコミックス」が、アイアンマンやスパイダーマンなどを持つ「マーベルコミックス」同様、異なるキャラクター間で同じ世界観を持たせるシリーズに本格着手した一本。前作「マン・オブ・スティール」で感じた違和感をかなり解消した、次回作も楽しみな一本でした。

【あらすじ】メトロポリスを舞台に繰り広げられたスーパーマンとゾッド将軍の激戦。多くの一般市民が犠牲になった戦いの現場に、バットマンとしてゴッサムシティの治安を陰ながら守ってきた男、ブルース・ウェインもいた。スーパーマンを危険な存在と判断しスーパーマンの秘密を探り始めるブルース。しかし彼に先んじて政府とも手を組みながらスーパーマンの弱点を突き止めた男がいた。その男の名はレックス・ルーサー。そしてブルースやレックスの間にちらつく謎の美女の正体は…。

新バットマンのベン・アフレックも違和感なかったなぁ
新バットマンのベン・アフレックも違和感なかったなぁ

最初に気になった点を指摘するなら、キャラクターの名称や外観で説明してしまっている箇所が散見されること。「レックス・ルーサー」という名前や、クライマックスで正体を明かす美女の外観でアメコミ読者ならピンとくるんでしょうが、読み慣れてない人には分かりにくいでしょうね。

とくにレックスとブルースは同じ目的で動いているはずなのに共闘しないのがちょっと不自然でさえある。最終的にブルースが拒否したとしてもレックス側からはっきり誘う場面があってもおかしくないので(におわせる場面はあったかな)。

途中でレックスの一味のトラックとバットモービルのカーチェイスもあるんだけど「トラックに発信器つけたんだから追う必要ないよね」という指摘も聞きました。おっしゃるとおりですw。予告編で出てきたシーンが本編では夢の場面だったりして残念だったことも指摘しておきたい。

とはいっても、全般的には結構満足したんです。

まずは前作で感じた「スーパーマンが周囲の地球人無視して戦いすぎ」という違和感をふまえた構成になっていたのが良かった。なのでクライマックス、人間社会に身を投じたスーパーマンがようやく受け入れられた様にちょっとじーんとしちゃうわけです。次回作ではなかったことになるんでしょうけどw。

その最後のスーパーマンの姿は「ダークナイト」クライマックスでのバットマンと二重写しにも見えました(バットマンはあえて敵役を引き受けたんだけど)。

スーパーマンの映画だった前作「マン・オブ・スティール」は「スーパーマンが(イメージに反して)暗い」という欠点があった。同じDCコミックのキャラクターで最近大ヒットしているバットマンの重厚なイメージに寄せていたんでしょうけどね。今作でようやく暗めのスーパーマンでもオッケー(だってバットマンがいる世界だし!)という整合性がとれた気がします。マーベルとの違いも出せるのではないかな。

今作から始まったクロスオーバーシリーズとして「メタヒューマン」たちの存在も提示。ただまぁそのキャラクターたち、日本ではほとんど馴染みがないwので今後しっかり描いてほしい。マーベルはそんなキャラたちも上手に映像化してアメコミに馴染みがない人にも間口を広げてますので。

そういう意味では「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」は、キャラクターをどう描くかについてマーベル側からの最新回答になりますね。「X-メン」も新作が夏に公開されるし、追いかけるシリーズが増えて困ったもんだなこりゃ。

マーベル、DC、X-メンと既存のキャラクターを映像化する手法についてハリウッドは方程式を掴みつつある気がします。日本はどうかなー。

シンプルイズベストな話【鑑賞「アーロと少年」】

冒険を通じて少年が大人になるお決まりの話ではあるんだけど、きっちり楽しませるところに作り手たちのとんでもない冴えを感じさせる一本でした。

【あらすじ】隕石が落ちてこなかった6500万年前の地球。世界の中心は恐竜たちだった。恐竜の子供・アーロは家族で蓄えていた食べ物を盗んでいた人間の少年を追いかけるうちに川に転落してしまう。川をたどって我が家を目指すアーロと少年。二人に待ち受ける運命は。

「恐竜と人間が」ではなく「恐竜が人間と」心を通わせる話、というのが今作の効果的なところ。見終わったときは「これ、逆じゃだめなのか?」と思った。しかし「ジュラシック・パーク」シリーズを思い出してほしいのだが、もし観客が少年の立場に置かれると、相手は自分より生物学的に圧倒的に優位なのだから、物語がどこまで展開しても「いつかコイツにやられちゃうのでは?」という懸念が消えず物語に集中できないはず。

その点今作では観客は恐竜側の立場で物語に参加するのでアーロが少年に危害を加えないと分かり、安心して話に集中できる。

アーロの肌感もかなりのものでした
アーロの肌感もかなりのものでした

物語自体、恐竜と人間を同じ世界に住まわせるため「隕石が落ちなかった地球」という設定。こういった舞台設定になるべく説得力を持たせようとするのはピクサーの特徴のような気がする。

また恐竜が主人公ということで、鼻先で畑を耕したり崖をよじ登ったりと、擬人的な動きが実に面白かった(走る様が馬っぽいのは今一つだったけど…)。

しかしなにより今作最大の見所は3Dで描かれた風景描写!「実写か?」と思わせるほどリアル。アーロの家のそばを流れる川面の表情にはっとさせられ、荒れ狂う鉄砲水や滝は大迫力で描かれている。

おそらくこの風景描写を生かすために、アーロと少年にとっての敵-勇気を発揮しなくてはならない相手-も大自然(自分たちが暮らす環境そのもの)になったと想像する。風景自体が非常に大きな存在感を放っていた。

クライマックス、アーロが鼻先で地面に円を描く泣ける場面があるのだけど(なぜ泣けるかは秘密)、その土の描写も実にリアルで印象的でした。鑑賞したときは春休みで子供たちが多かったんですが、もう客席の至る所で鼻がグジュグジュ鳴ってましたよw。

前作「インサイド・ヘッド」がかなーり設定の多い作品だったのに比べると、今作は「地球に隕石は落ちませんでした」程度の非常にシンプルな設定。話の基本的な骨格も既視感のある「主人公が行って帰る」話。しかし話の構造が類型的であってもきっちり細部にこだわれば(キービジュアルでもある二人のあの抱擁シーンの動きの素晴らしさ!)エンターテイメントとして十分成立するんだなぁ。お見事でした!

人間の武器を知った話【鑑賞「オデッセイ」】

リドリー・スコット監督作ではこれが一番気軽に見られる一本ではないか。エンタメとして楽しめる作品でした。

【あらすじ】第3次火星有人探査は突然の砂嵐で現地から急遽撤退を余儀なくされる。しかし撤退中にクルーの一人、マーク・ワトニーが行方不明に。ワトニーを探す時間もないまま、火星を離れる他の隊員たち。しかしワトニーは辛くも生きていた。火星に残った基地に戻るワトニー。第4次火星探査チームが来るのは4年後。しかし基地の通信機器は砂嵐で破壊され、食料は1年分しかない。ワトニーは生き延びられるか…?

…まぁ結局、生き延びて地球に帰るわけですが。史実に基づいた「アポロ13」とは違い、本作はSF小説が原作なので、ワトニーがどうサバイブしていくか、ワトニーをどう助けていくかが見所になるわけです。

サントラも買いました
サントラも買いました

冒頭の砂嵐から隊員たちの火星撤退、行方不明になるワトニーの様子まで息をつかせず見せるリドリー・スコットの手腕はさすが。ワトニーが自分の腹に刺さったアンテナを抜いて縫合するシーンもそこそこグロく、リドリー・スコットらしい部分でした。

ただそこから、生き残ったワトニーの独白が増えてくる。ユーモアを忘れないワトニーの明るさがこちらにも伝わり、作品の基調を暗くシリアスなものにはしていない。

隊長が基地に残した音楽ライブラリーを「ダサい…」とグチりながらも聞き続けるワトニー。全編に流れる懐かしのヒット曲は、火星に一人取り残されたワトニーの過酷さとのギャップから、ワトニーの地球への思いを逆説的に語っているようで印象に残ります。アメコミ映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」でも昔の曲を劇中で使っていたけれど、使う意味があまり伝わらなかったんだよなー。

生物やコンピュータなど科学の知識を総動員して生き残っていくワトニー。ワトニーの生存を知ったNASA側の対応も、秘密会合を指輪物語の一節にたとえるスタッフがいたりする。(くじけてしまいそうな局面もあるけれど)困難なときこそユーモアを絶やさないワトニーら登場人物たちは等身大のヒーローとも思うのです。

だからこそ原作も英語版も「火星の人」というワトニーに焦点を当てたタイトルになっていたのに、邦題が「オデッセイ」ってのはどうにも負に落ちん。そりゃまぁ原題直訳で日本でヒットするか、といわれると難しいかなとは思うのだが…。

まぁタイトルはともあれw、困難なときこそ知恵とユーモアってことですよ!知恵やユーモアを持つのは人間だけ!シリアスになりすぎず人間を讃える、見終わって楽しくなる映画でした。

 

世界はより良くつながっていく話【鑑賞「ア・フィルム・アバウト・コーヒー」】

見た人全員そうでしょうが、見終わると「うまいコーヒーが飲みたい」と思う映画でした。

世界中で愛飲されるコーヒー。その中でも「スペシャリティコーヒー」は生産から焙煎、抽出まで人の手が絶えず関わる特別な一杯だ。スペシャリティコーヒーの最前線を豆の生産者からバリスタまで追ったドキュメンタリー。

良い世界を描く作品でした。
良い世界を描く作品でした。

1時間ちょっとの短い作品だけど、中身は濃い。空撮からクローズアップ、スローモーション、「サードウェーブ」とも称されるコーヒーショップ(日本含む)のオーナーたちのインタビューなどを通して、コーヒーを巡る人間模様を映し出す。

印象に残ったのは豆のバイヤーが語る「(ブラジル以外の)生産地では、豆はすべて手で採るのです」という言葉。何気なく飲む一杯のコーヒーも、最初は誰かが手で豆を摘むところから始まっていたのだ。

以前見たドキュメンタリー「いのちの食べかた」を思い出した。あちらは産業化された農業の模様を描いていたけれど、スペシャリティコーヒー用の豆の生産現場は採取から発酵、乾燥まで人の手がたっぷりかかっている。

男たちが歌いながら踊るように赤いコーヒー豆を踏んで発酵させ、白くなった豆は天日干しされ、不良品は一つずつ人の目で排除される。そして米ポートランドで焙煎されてあの見覚えのある豆になる。

良い豆を手に入れようとバイヤーたちは生産地の環境改善にも取り組んでいた。インタビューを受けていた人物が「いいものにはちゃんとお金を払ってほしい」と話していたのが心に残った。生産地から安く買い叩く悪いグローバリゼーションでない、良い形のグローバリゼーションと見た。

とはいっても生産者たちが初めてエスプレッソを飲むシーンは(思い出すと)少し複雑。彼らは自分たちの食文化にないものを栽培、生産しているというのが伝わるシーンなので。日本の農業従事者が(価格面ではいざ知らず)自分たちでは食べないものを生産することはまずないはず。それがいいことなのかどうか、ちょっと判断が付かないな…。

いっぽうでスペシャリティコーヒーではない一般的なコーヒー(コモディティコーヒー)についても、パンフレットの中ではあるが「おいしいコーヒーづくりに励む人々はいる」と伝えている。

スペシャル/コモディティと線引きするのでなく、コーヒーに携わる人すべてをたたえようとする姿勢が好印象なのです。

この作品はコーヒーについて語っているが、コーヒー以外でも生産地と製造者が一体になってより良い食品をつくろうとする流れは国内外で広まっている。この流れがもっと広まると世界中がより良くなるかも。

食べ物が人をより良くつなぐことを伝えてくれる作品でした。

(完全版)引き継ぎ引き継がれる話【鑑賞「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」】

もう好きなように書いていいよね公開から結構な日が経過したので…!

最近3D版でも見たので、2回見た感想を。公開直後に書くと野暮だった点も含め「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の感想を書いておくのです。

【あらすじ】銀河帝国は崩壊したが、その残党「ファースト・オーダー」と共和国から支援を受けるレジスタンスとの戦いは続いていた。そんな中、最後のジェダイ、ルークは姿を消した。ルークを探すファースト・オーダーとレジスタンス。居場所を示す地図はドロイドのBB-8に託された。ファースト・オーダーの脱走兵フィンと砂漠の星ジャクーに住む少女レイはBB-8と共にミレニアム・ファルコンを駆って逃避行をすることになる。そんな2人を捕まえたのはハン・ソロとチューバッカだった…。

この新3部作でちょっと残念な点は、敵が帝国の「残党」という設定。「話のスケールは旧エピソード以上にはなりません」と宣言したような気がする。使う武器は旧帝国以上になってはいるけども、むしろギャップが生じたような。

話に夢中になると3Dかどうか気にならなくなるんだなぁ
話に夢中になると3Dかどうか気にならなくなるんだなぁ

戦う相手も共和国支援下の「レジスタンス」。旧敵の残党と独立部隊の戦いという設定は既視感があるなと思ったら「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」と似てるんだな。旧設定を生かしてその先の話をなるだけリアルに書こうとするとこうなるしかないのかも。

いずれにせよ、新3部作はキャラクター間の関係を楽しむような話になるのでしょう。そうなるとまた気になる点が。それは「敵キャラの名前に迫力が足りない」ことです。

「カイロ・レン」に「スノーク」…うーむ強さが感じられん。濁音が欲しかった!だって旧シリーズは「ダース・ベイダー」に「ドゥークー伯爵」「グリーヴァス将軍」などなどと濁音入ってましたよ。

再びガンダムを引き合いにしちゃいますが、ガンダムの富野由悠季監督は「主人公が乗るロボットには絶対濁音を入れる」と話しておりました(「そうしないと玩具が売れん!」と説明してたかなw)。英語圏では気にならんのかもしれんけど、少なくとも日本語圏の人間としては残念なんですよねー。

特に敵方の親玉が「スノーク」って…。大概の人が思ったろうけど「ムーミンかよ!」とやっぱり思いました。

でも今作、良い点ももちろんあるわけです。

まずはカイロ・レン。思春期の少年のような性格描写が目立ちましたが、それが「こいつ何をやるかわからん」と思わされる。今作のクライマックスのような破滅的行動を次回作以降もとるか、あるいは改心していくのかが見どころになっていくのでしょう。

弱さと強さを兼ね備えたレイは魅力的だし、生き残りに必死なんだけど正義感もあるフィンも非常に親近感が持てました。そしてBB-8。これほど表情豊か(?)なドロイドがあったろうか。子猫っぽいんですよね。まさかの「いいね!」にハートわしづかみでしたわ実際。

そして何と言ってもエピローグ!2回見て2回とも泣けたw。ひとっことも喋らんのに表情だけで今作のエモーショナルな部分をほとんどすべて持っていったマーク・ハミル最高。2回目に見て気づいたが、その表情が出る直前、決意を示すようなレイの表情もまた最高です。「この2人、やはり…?!」と思わせて終わる、過去6本ではなかった次回作へ強い「引き」をもたせたエンディングでした。

過去6本はどれも一区切りついたところで本編を終わらせ、次作ではポンと時間が飛んだところから話が始まっていたけれど、次回作エピソード8はひょっとしたら今作の直後から話が始まるのかもしれないなぁ。

父親から受け継ぐことができず成長したルークは、自分が与える立場になった今、下の世代に引き継がせることに失敗してしまった。ルークやレイアら大人たちからレイ、フィン(レイとともにジェダイを目指すんだろうなきっと!)、そしてレンにどう引き継いでいけるか、若い世代たちは何を引き継ぐのか。

とまぁ、こんな視点で来年12月公開予定のエピソード8を待ちたいと思います。その前に今年の年末はスピンオフ「ローグ・ワン」だな!

匠の技を味わった話【鑑賞「ブリッジ・オブ・スパイ」】

久しぶりに見たスピルバーグ監督作。硬質で渋く、ユーモアも混じった洗練の極みの一本でした。

冷戦期、米国で逮捕されたソ連のスパイ・アベルの弁護を引き受けることになった弁護士のドノバン。非国民と罵られながらも法に則った弁護を貫いたドノバンに極秘依頼が届く。それはソ連領域でのスパイ活動中に囚われた米兵パワーズと、自身が弁護したスパイ・アベルとの交換。場所はベルリンの壁を築きつつあった東ドイツ。冷戦の最前線の地でアメリカは表立って動けない。ドノバンは母国の支援を表立っては受けられないまま東ドイツに赴く。折しも東ドイツでは西側に脱出しようとしたアメリカ人青年・プライヤーが東ドイツ当局に囚われてしまっていた。ドノバンはパワーズだけでなく、プライヤーも救おうとするが…。

まず、説明的なセリフが極めて少ないのが印象的。登場人物たちが見るテレビや新聞、そこで伝えられるニュースに対する一般市民の反応などで当時の雰囲気を醸し出す。

硬質な絵づくりが印象的でした。
硬質な絵づくりが印象的でした。

また脚本に参加したコーエン兄弟が持つ、独特のユーモアも作品にスパイスのように効いていた。クライマックスで米と東独当局のスタッフ間で見せる握手をめぐるやりとりや、東独でドノバンの前に現れる、いかにも怪しいアベルの家族たちが見せる「ほらやっぱり!」と言いたくなる退場シーン。東独でドノバンが接触する米政府諜報員との宿泊所をめぐる会話。要所要所にぷっと吹き出したくなるような場面が織り込まれている。

一方で祖国の敵を弁護するにも法に則って最高裁まで争い、東独でも米政府は「パワーズだけ取り戻せばいい。民間人なんか知らん」という態度の中、アベル対パワーズ&プライヤーの1対2交換を目論むドノバンの姿は、祖国でも外国でも政府の意向に染まることなく人道的立場を貫こうとする。その姿も仰々しくは描かれない。

むしろ、保険を専業とするドノバンが「交渉は1対1。向こうが何人いても1件は1件」と言っていたのに2対1の交渉に臨むことになったり、米国内の裁判では遵法意識の大事さを訴えていたドノバンが無法地帯とも言える国際交渉の矢面に立たされる様は、史実とはいえ歴史の皮肉を感じさせる。

そしてエピローグ。非国民から一転して国民的英雄となったドノバンが、列車の窓から柵を乗り越えて遊ぶ若者たちを複雑な顔で見つめる様子に、主要人物のその後をテロップでサラリと重ねて終わるのも心憎い。

淡々と進む話で、結末もおおよそ予想通りなのだが人質交換のクライマックスは緊迫感十分。「大人の映画」を見た充実感を持てる1本でした。スピルバーグは匠ですね、今更ながら。

個人も社会も多面性がある話【鑑賞「杉原千畝 スギハラチウネ」】

「あぁあの人…」という直球タイトルから「感動を押しつけようとする類の作品かな」と構えていたのだけど、意外に骨太な作りでした。

【あらすじ】第二次世界大戦中、国を追われ始めたユダヤ人に日本通過のビザを独断で発給し、多くの難民を救った日本人外交官・杉原千畝。そのエピソードを軸に、彼がどのような思いで混乱の時代を生きてきたかを描く。

「杉原千畝」パンフレット
ちゃんと「映画」になっていた作品でした。

杉原を単純なヒューマニストと描かなかったのは今作のポイントかも。戦争勃発直前のきな臭い世界情勢の中、最前線で諜報活動を続けた彼はロシアから「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」とマークされるほどの優秀な外交官でもあった。

そんな彼がユダヤ人にビザを発給するのは、映画を見終わった今思い返すと、不思議な話に思えてくる。もちろん作中では、ヨーロッパでのユダヤ人迫害に胸を痛め、外交官としてできることをした…ということなのだけど、映画ではこのエピソードの後にも彼が外交官として諜報活動を続け、日本にとって都合の悪い真実をつきとめたことが描かれる。

ユダヤ人へのビザ発給は彼の職責の延長線上にあった(日本本国に正式な許可を取ったわけではない)。そんな「やるときはやる」人物としての描写が杉原という人を多面的に見せていたように思う。杉原にビザ発給を促す在リトアニアのオランダ大使のセリフも良かったですね。

まぁ邦画だからか(?)それをセリフで説明されるのは興ざめ、という場面もありました。初対面でもないのに目の前にいる杉原の略歴をぺらぺらしゃべったりとか、杉原自身が自分の理想を語ったりとか、杉原の妻が理想主義的なことを語ったりとか。

逆に映画の前半、満州の鉄道を巡りロシア側の秘密を暴く場面は、ビザ発給のエピソードくらいしか知らないであろう観客にとっては何が起こっているのかわかりにくい部分になっていた。ここは逆に杉原に課せられたミッションをきちんと説明してほしかったところ。

とはいえ、生き延びたユダヤ人が杉原に語る虐殺のエピソードは見ているこちらがうなるほどむごいシーンだったし、ビザを発給されたユダヤ人全員が助かったわけではなかったというエピソード(創作かもしれんけど)は、混乱時のわずかな判断の違いが生死を分けるという意味で非常に残酷なんだがリアルでありました。

そして何より、杉原が発給したビザに不信感を抱きながらも日本行きの船に乗せたウラジオストックのシーンは今作の勘所ではなかったか。ただビザを出しただけで終わらせず、そのビザがちゃんと機能した場面も描いた。JTB職員役の濱田岳がすばらしい。そういえば「(ユダヤ人を)助けたい」とはっきり口に出したのは脇役である彼だけで、杉原には言わせてなかった気がする。そんな多面的な描写がこの映画の格をあげていたと思います。

変に斜に構えるのはもったいない。素直に鑑賞して楽んでほしい一本だと思いました。

(ネタバレなし)伝説が再び歩みだした話【スター・ウォーズ/フォースの覚醒】

なんとか年内に鑑賞することができました。この作品、百点満点で5億点っす。

J.J.エイブラムスが携わった作品はTVシリーズ「エイリアス」「LOST」、映画「スター・トレック」「SUPER8/スーパーエイト」「ミッション・インポッシブル 3」「スター・トレック イントゥ・ダークネス」などなど見てきた。「スター・トレック」でシリーズを魅力的に再生させたのを楽しんだ一方、完全オリジナル作「SUPER8/スーパーエイト」は「公開前に情報公開しなさすぎ。もったいつけすぎ」と感じてもいた。「事前の伝え方も王道で勝負してほしい」とも書いた。

そしたらアナタ、最新作はむしろ、作品がJ.J.の方に寄ってきた。事前に情報公開しなければしないほどファンが盛り上がる、大人気シリーズ作品の最新作ときた。

そうなるとJ.J.エイブラムスのお手の物、なわけで。ネット上では低い評価の意見も読みますが、そんな人は一体何を「スター・ウォーズ」に求めているのかと小一時間問い詰めたいw。お約束を外すと「違う!」とか言うくせに!(決めつけ)

一方で見ていて一番アガったのは「スター・トレック」評でも書いた「ここだ!」という所での一発逆転シーン。懐かしキャラを登場させてファンを喜ばせつつ、映画の一般的な構成として観客を盛り上げる工夫もされている。

ドッグファイト中のファルコン号に急にズームインするような「スター・ウォーズ」っぽくないカメラワークも、予告編では気になっていたが本編では違和感なし。派手なアクションシーンを見慣れた現代の観客に合わせたカメラワークになっていた。

「SUPER8/スーパーエイト」で感じた「(作品が)パイロット版のよう」という雰囲気も、次回作の製作が確定している本作ではばっちりハマる。そもそも公開前から「このあと2本作ります」と確定しているシリーズなんてもはや「スター・ウォーズ」しかない。その利点を最大限に生かしたエンディングになっているのも心憎すぎる。「評価はエピソード9まで見てからだな」と鷹揚に構えていた鑑賞前の自分を深く恥じる。あぁ早く続きが見たい!

2015年私的ベスト3

2015年ももう終わりますねー。自分が読んだり見たり行ったりしたことを綴ってきたこのブログ、週1回更新もなんとか2年続けることができました。

今年最後の更新になる今回は「本」「映画」「イベント」の3分野で特に印象に残った3点ずつを選んで2015年を振り返りたいと思います。

【本Best3】

朱に交われば赤くなる話【書評・年収は「住むところ」で決まる】

エンリコ・モレッティ著「年収は『住むところ』で決まる(プレジデント社)」は産業振興と地域社会の関連を考察した一冊。日本では繋げて考察されにくい分野の関連性を捉えた興味深い本でした。

世界の分岐点は今だった話【書評「イスラーム国の衝撃」】

池内恵「イスラーム国の衝撃(文春新書)」は今年初頭に日本人2人を殺害、フランスでは2度にわたって大規模テロを起こしたイスラム国を分析した一冊。イスラム国は2016年も国際問題の中心になっていくでしょう。冷静にアラブ社会を評した本でした。

心地よく分析された話【書評「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」】

吉田尚記著「なぜ、この人と話をすると楽になるのか(太田出版)」はニッポン放送アナウンサーによるコミュニケーション論。コミュニケーションについて目からウロコが落ちるような指摘を連発する一冊でした。「コミュニケーションは成立することが目的の強制スタートゲーム」は特に覚えておくといいんじゃないでしょうか。

【映画Best3】

過去は肯定するがましという話【鑑賞・バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)】

自分が思う「映画っぽい映画」だった作品。ハッピーエンドかどうかは微妙だけど、現実と付かず離れずの奇妙な世界が心地よかったのです。

人は丁寧に生きていく話【鑑賞「海街diary」】

登場する人物の暮らしぶりを丁寧に描いた作品。しかし「丁寧」は決して「地味」ではなく、むしろハッとするほど美しい…ということを映像で語った作品でした。

激烈!単純!しかし細心な話【鑑賞「マッドマックス 怒りのデス・ロード」】

ヒャッハー!砂漠を行って帰るだけの話がここまで美しく過激に描かれるとは思わなんだ!荒廃した世界を舞台に支配する者される者、そして抗う者の姿がうまく描かれたアクション映画のエポックメーキングな一本でした。

【イベントBest3】

イラストレーターとして生きる話【鑑賞「生賴範義展2」】

2014年に開かれた「生賴範義展」の第2弾。ゴジラやスター・ウォーズなど著名作が目立った第1弾に比べると展示作品は地味だったかもしれないが、生原画の迫力は全く変わらず。むしろ「こんなものまで描いていたのか」とイラストレーターとして働く意味を考えさせた展覧会でした。

創作とは前進だった話【鑑賞・日岡兼三展】

2015年の高鍋美術館は攻めていたと思います。漫画家東村アキコ氏の師でもあった日岡兼三氏の回顧展は、様々な製作手法に取り組んでいた日岡氏の前進っぷりが印象に残りました。前に進む、とはこういうことなのだな。

君臨する王を迎えた話【鑑賞・Rhymester “King of Stage Vol.12″】

ライブにもいろいろ行ったんですが、今年一番はこれかな。CDやDVDで見聞きするとは大違い。鹿児島の小さなライブハウスでヒップホップの楽しさを存分に味わいました。今度は宮崎にも来てくれー。

…最近見たものは2016年に報告するとして(あのシリーズ第7弾とかね!)、自分で印象に残っているのは、現実と理想の折り合いのつけ方、理想の追い求め方などについて考えさせられた(…というか、自分がそういうふうに解釈したw)ものでした。2016年もいろいろと見て読んで行って、自分の栄養にしていきたいものです。