小さな世界を深めたい話

思えば今年は「毎週1回はブログを更新しよう」と考えてほぼ実行できた年でした。読書録ならネタには困らないけれど、エントリを仕上げるのはまだまだ苦労しています。

自前でサーバを確保してSNSと連携させるようにして。そのおかげでTwitterなどで著者から感想を頂戴することもあり。ネットの人を繋げる力を実感したこともありました。

毎日1本はエントリを挙げるブロガーもいらっしゃいますが、自分の場合、それをやると明らかに質が落ちる…。日記、つぶやきなどの「コンテンツ」ならTwitter、Facebook、tumbler、instagramなど、それにふさわしいネット上の場所があるわけで、そんなサービスを使い分けるのも今年のちょっとした課題でした。まずまず出来た気はしております。

あとは…セミナーなどに参加したものの、ホームページそのものの学びが足りなかったな。「ブログエントリは週1本」と考えたのも、余った時間はWEBの勉強、と考えていたんだけど。何をやるべきかちょっと見えなかった、のがいけなかったか。このブログの修正はプラグインなど入れてちょこちょこしたんですが。

やはりここはブログと同じく、「週1回はどこか手を入れる」ようにするべきかも。学び(発信)の量を来年以降も増やしていかんとなぁ。

というわけで自分が行って見て読んで考えたこの小さな世界、2015年もよろしくお願いします。

物から作り手が見えた話【感想・Zine It! Vol.5】

手作り雑誌の販売イベント「Zine It! Vol.5」。終了ぎりぎりに会場に飛び込みました。

終了間際でもにぎわってました

売り切れているZineもあった中、気に入ったZineをいくつか購入。以下はその感想です。

今回は5冊

【2014 CINEMARGIN Renewal issue Vol.1】
映画の感想Zine。宮崎県内で公開された作品から取り上げているので「あぁ…これ見たかったんだよ…見てねぇなぁ…」と(映画館にご無沙汰な自分に)がっくりしてしまった一冊です。「これは見なくてよかったな」というような取り上げ方はしていないのもいい。それにしても、いくらスコセッシとはいえ興味がなかった「ウルフ・オブ・ウォールストリート」まで見たくなってきたので責任をとってほしい。

【はたらくくるま】
展示されていた見本には「あとがき」が封入されていなかったので「まさか、実は、実在してたりは、しないよな…?」と若干冷や冷やしたんだけど、やっぱり空想の重機でした。やっぱり東宝特撮からヒントを得たZineでした。パラボラって少年心をくすぐるなぁ。それにしても最近ご無沙汰だった東宝特撮映画を見たくなってきたので責任をとってほしい。

【art A MOTORSHOW】
フォトブックとガイドブックの2冊構成のZine。車好きの二人がTVゲーム「グランツーリスモ」で撮った車の写真(CG)がフォトブック、車への愛を語ったのがガイドブック。受付で注文した際、偶然に作者さんのお一人と対面できたのですが、なんと女性でした。カッチョイイですな!自分の今の車に何の不満もないしスーパーカーはさすがに…。それにしてもガイドブックの中の「いずれ買う車の話をしよう」という惹句がこっちの物欲を刺激してしまったので責任をとってほしい。

【packet story】
ミシン目入りのケースに封印されていて、開けると八角形の版になる凝った作りのZine。角がやけに多いZineに書いてあったのは、角を曲がったことで気づきを得た女性の話でした。なるほど、だからこんな判型なのだな。それにしてもちょっとせつなくなったので責任をとってほしい。

【MESSEAGE FOR U】
ポストカードサイズのフォトZine。手作り感たっぷりなのにピンときて購入。センスのいいフォトZineはやはり一冊は買いたくなってしまう。それにしても写真が撮りたくなったので責任とってほしい。

…と作り手さんたちの責任を無責任に追及してきましたがw、Zineの魅力はコンテンツの出来そのものより、作り手さんが「見える」こと。ものすごく凝るのもよし、「手抜きじゃねーのこれ?」と驚かせる(?)のもよし。

手前のZineが台湾旅行記でした

そんな意味では、今回売り切れで買えなかったけど「あいすべきものたちへ」第2号は波消ブロック製造現場にまで取材したコンテンツファーストな感じだったし、台湾旅行記のZineは紙の一面に写真と簡単なキャプションをモノクロで印刷してホチキスで止めただけのものすごく単純な作り。「これでもいいんだ!」と驚かせるZineでした。

今回も結局買う側どまり。しかし物を作るというのは、作る前から完成品を予想できる場合もあるだろうけど、出来てみたら意外といい、なんてこともあるのかも?作ってみないとわからない事ってあるんだろうなぁ。

もてなしの意味を考えた話【鑑賞・上椎葉神楽】

宮崎県北部の山村、椎葉村で夜神楽(上椎葉(かみしいば)神楽)を見てきました。20年ほど前はよく行っていた場所でしたが、最近は高速道やトンネル、橋もできて、宮崎市から約2時間余りで行けるようになっていました。近くなった…!

村中心部近くにある上椎葉ダム
村中心部近くにある上椎葉ダム

上椎葉神楽は村の中心部・観光施設でもある「鶴富屋敷」で催される神楽。「客」として夜神楽を見たのは今回初めてでした。きちんと寸志を出し、婦人会お手製の弁当やそば、猪肉などを食べながら開始から日付が変わる間近まで見物。写真撮影も大丈夫とのことでした。

選挙中だったからか、今年は見物人が少なかったとか…
選挙中だったからか、今年は見物人が少なかったとか…
地元に根付いた舞を堪能…
地元に根付いた舞を堪能…

見ていて感じたのは、神楽はあくまで地元の方々のものであって、本来「客」も地元の方々のこと。我々外部の者はそこにお邪魔している、のだなということでありました。

神楽を舞う子供たちが出てきた途端、見物人が着物の紐を締め直したり、ババ様(←失礼)が「椎葉よいとこ一度はおいで」だの「今踊っている息子にゃ彼女がいない(意訳)」「早いとこ次の神楽をやれ(要約)」だのと、せり歌(即興の歌)を歌って盛り上げる。祝子(ほうりこ・舞い手)も酒が入ったのかちょっと苦笑しながら舞う一幕も。

鬼神の舞いは迫力がありました
鬼神の舞いは迫力がありました

でもそんなのも、神楽が基本、地域の人たちのものだという表れではないかと。観光化されすぎていない素朴さがあったわけで。

とくに東京オリンピック・パラリンピック決定以降、日本の「お・も・て・な・し」がクローズアップされているんじゃないかと思うんだが、もてなしにも、サービスを受ける側(客)が常に上になるサービス、客がサービスを与える側の文化をまず理解する必要があるサービスの2種類あるんだなと思ったのでした。どっちもアリなんだから、どっちも楽しめるようになりたいものです。

大久保のヒノキ。山村文化を体現しているようでした。
大久保のヒノキ。山村文化を体現しているようでした。

知の力で社会は変わる話【書評「天地明察」】

電子版は合本版も出てます
電子版は合本版も出てます

目の付け所がいいよね映画見たいねと思ったまま見逃していた一作。原作を先に読んでしまいました。江戸時代初期、天体の動きと全くあっていなかった中国でつくられた暦「宣明暦」をつくり変える使命を担い、幕府初代天文方(天体研究機関)となった渋川春海(しぶかわ・はるみ)の生涯を描いた時代小説です。

史実に基づいた話とあってチャンバラシーンなどはない。しかしこの作品の舞台は江戸幕府の発足間もなく、武士たちが力ではなく文化を用いて治める、社会の転換期として描かれる。暦の改定も同じ。800年にわたって使われた「伝統」を理の力で葬った出来事として描かれる。

不満な点もないわけではない。エピローグが春海夫婦の往生なのだが、そこまで描く必要があったろうか。改暦を帝が認められるか否か、で始まるプロローグと比べ、ちょっと技がない。印象的な場面で締めくくってくれた方が小説の余韻を感じられた気がする。

また春海の描かれ方も終盤になって急に変わったように感じられた。話のクライマックス近くまで何かと狼狽する若者のように描かれていたのに、終盤で急に、先を見越して有力者への事前の根回しを上手くするなど、一気に大人になってしまった。で、プロローグで一気に老いて往生する…。

春海の周りには算術や天体観測に長けた先達、春海に使命を与える幕府の実力者などがいるのだけど、春海は囲碁の達人でもあったけれど、彼に世間知を示すような立場の人物がいると春海の成長が感じられたのではないか。

とは言うものの、旧態依然とした社会に対峙し、武力ではなく知力で社会を変えるため星々の動きを明らかにするという「天への真剣勝負」に挑み、見事読み切って「天地明察」に至った春海は、まちがいなく時代を超えるヒーローなのだった。

SF小説を書く人の作だけあって、人間ドラマだけでなく、算術(数学)や天体など科学の魅力と、科学を社会に広める意義-暴力ではなく文化の力が天下泰平につながる-も感じさせた一冊でした。

天地明察(特別合本版) (角川文庫)
KADOKAWA / 角川書店 (2014-06-20)
売り上げランキング: 7,832

時間は流れ物語は止まる話【鑑賞・横山裕一×シュルレアリスム展】

吹き出しにさらっと惹句が入っているのが笑える…
吹き出しにさらっと惹句が入っているのが笑える…

男子中学生の落書きのような見かけに騙されちゃいかんですよ…

宮崎県立美術館で12月7日まで開催中の「横山裕一×シュルレアリスム」展を見てきました。

横山裕一は2歳の時に離れたものの、宮崎県都城市の出身。「ネオ漫画」を提唱し、キャンバス1枚でなく漫画のようにコマ割りした紙に何枚も書き連ねて不思議な世界の時間の流れを表現している。

会場では目の高さに原画が何枚も展示され、列車の旅や着替え、ちょっとした会話の様子などが描かれる。

インタビュー動画やパンフレットで述べていたのだが、作者が描くのは一貫した時間の流れ。映画や漫画のように次のコマやショットで翌日になったり過去になったりと時制を飛ばさない。

続けてみていくと不思議な世界が広がるのです。
続けてみていくと不思議な世界が広がるのです。

…のだが、1枚の紙にコマを割って描く漫画の特徴である画角の転換はある。急にドアップになったりローアングルになったりと作品時間内の視点は作者に委ねられる。そして作品を我々がいくら見ても、時間の進行はわかっても連続した時間を書くことで生じる(と、見る側が勝手に思っていた)物語がなかなか生じない。

見る側をかき回す、そんな作者の意図が思った以上に面白いんですね。絵心が中途半端にある男子中学生が描いたようなヘンな絵、世界観と組み合わさって。

初期の「トラベル」には擬音が全くなかったけれど、次第に擬音表現も作風の一部になり、吹き出しも登場し、描く人間も覆面をかぶったようになって抽象性が増す。最新作ではなんだかわからない箱や球体がシュルシュル、キィーンと飛び回っているだけ。そんな変化を見るのも興味深かった。

いずれにせよ1枚で完結するのではなく1冊の本で体感する作品だなと思い「トラベル」を買いました。「時間」を意識した作品群だからか、会場での展示スタイルも通常と違い、反時計回り。写真撮影オッケー(フラッシュ不可)なのも興味深い試みでした。間もなく終了なので、行ける方は是非会場へ…。キービジュルを見て「好みじゃない」って人もいるんだろうけど、ビジュアル1点だけでは伝わらない作品世界なんだよな~

写真 2014-11-29 15 07 45
大型パネルになった作品もありました