野外フェスは楽しい話【鑑賞「ジャムナイト2016」】

40回目の区切りの回に、初参加となりました。

今年は前売りチケットに特別ポスターもついてました。お得!
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宮崎のテレビ局UMK(テレビ宮崎)が40年前から開いている音楽イベント「UMK SEAGAIA JamNight」。当初はオールナイトだったんですよね。毎年「やってるなー」と気にはしてたものの行く機会はないままでした。

がしかし、40回目の今年はロバート・グラスパー エクスペリメントと日本ラストツアーのマリーナ・ショウが出演するというびっくりのラインナップ。新旧のスターを一同に見られるとは!と慌てて前売り券を買った次第。

当日は曇りで日差しも強くなく、酒を飲みつまみを食べながらの鑑賞。客席エリアはもっとまばらな感じかと思っていたけど、ステージ正面はさすがにぎっしり。エリア周辺は空いていたので飲食物の購入で混雑することありませんでした。

ロバート・グラスパー エクスペリメントは「BlackRadio」、マリーナ・ショウは「Who Is This Bitch Anyway?」から。最先端からレジェンドまで音楽を堪能。レイドバックした「Lovely Day」が夜空に消えていきました。個人的にはT-SQUAREも懐かしかったw。日野皓正もすごかった。

地方で40年続く野外音楽フェス(歴史だけならFUJI ROCKの倍w)、規模は決して大きくはないんでアーティスト招聘も楽ではないんでしょうが最近はブッキングも頑張っている感じ。去年はメイシオ・パーカーも呼んだようで。都会型のフェスとは雰囲気が違うんだろうけど、野外で飲食しつつ音楽を聞くのはやはり楽しいものですね。次回はアウトドア用の椅子やテーブルを準備して、もっと優雅に楽しみたいものです。リーフィーチェア、買おうかな…。

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人生は笑って泣く話【鑑賞「TOO YOUNG TO DIE!」】

地獄が舞台だけど明るく楽しく(?)ちょっとジーンとさせる音楽映画でした。

<作品紹介>

映画『謝罪の王様』や『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」など話題作の脚本を手がけ、日本のエンタテインメント界を牽引する、宮藤官九郎。彼が完全オリジナル作品で、待望の監督最新作の舞台に選んだのは、ズバリ【地獄】。17歳でこの世を去った大助が、大好きなクラスメイトにキスしたい一心で、赤鬼と一緒に地獄からの生還を目指して大奮闘するという、宮藤監督らしいバカバカしくも清々しいストーリー。

大助に地獄の仕組みを教え、彼を導く地獄の赤鬼キラーKを演じるのは、長瀬智也。特殊メイクでみんなの<鬼>像をブチ壊す、超ハイテンションでロックな<赤鬼>に大変身! キラーKが率いる地獄のロックバンド・地獄図が演奏する、映画オリジナル曲にも要注目!
キスもせずに死んじゃった高校生・大助を演じるのは神木隆之介。二枚目のイメージを封印して、地獄で四苦八苦する残念な高校生役で新境地を開拓! 地獄図の一員として、猛特訓したギターの腕前と歌声も披露する! さらに、尾野真千子、森川葵、宮沢りえらの超豪華キャストに加え、驚きの実力派ミュージシャンも多数出演!

迫り来る地獄の責め苦の数々が、笑いの責め苦となって観る者すべてに襲いかかる、世界初!【超絶地獄コメディ】が誕生した!!

<ストーリー>

フツーの高校生・大助は、同級生のひろ美ちゃんのことが大好き。修学旅行中のある日、大助は不慮の事故に遭ってしまう。目覚めるとそこは―深紅に染まった空と炎、ドクロが転がり、人々が責め苦を受ける、ホンモノの【地獄】だった!! なんで俺だけ!? まだキスもしたことないのに、このまま死ぬには若すぎる!!

慌てる大助を待ち受けていたのは、地獄農業高校の軽音楽部顧問で、地獄専属ロックバンド・地獄図を率いる赤鬼のキラーK。
キラーKによると、なんと、えんま様の裁きにより現世に転生するチャンスがあるという!
キラーKの“鬼特訓”のもと、生き返りを賭けた、大助の地獄めぐりが幕を明ける!!!!!

(以上、公式サイトより)

鑑賞中思ったのは「ロッキー・ホラー・ショー」「ブルース・ブラザース」などのおバカ系音楽映画に連なる作品だなぁ、ということ。

今作オリジナルなのは、おバカの感覚が思春期男子中学生的ってことですね(特にエロ方面)。先述2作のバカは大人の味わい。

音楽とギャグをブレンドできるのがクドカンの強みでしょうねー
音楽とギャグをブレンドできるのがクドカンの強みでしょうねー

一方で主人公が死んだところから始まる話にも関わらず、成長(?)や帰還も描かれるのが、エンターテイメントのツボを押さえていてうまいところ。主人公以外の死も描くなどシビアな展開もあり、地獄のシーンで連発されるギャグと対比になった。ギターコードのギャグは最高。笑いも涙もあるのが人生なんだなぁ。

甘い生と死を扱った不条理劇だった処女作「真夜中の弥次さん喜多さん」からすると、ずっと万人受けになっている。でもクドカンの根本の部分は変わっていないなぁ、とも思ったり(特にエロ方面)。

本人が丸くなった、というより、世間とのバランスがうまく取れているように思います。スムージーが飲めるのって幸せですね。おそらく次回作以降もコメディなはず。脚本を手がけたTVドラマ「ゆとりですがなにか」もギャグとグルーヴと真面目な部分のバラスが高いところで保たれた名作でした。クドカンは唯一無二の存在になりつつありますね。次回作も楽しみです。

努力と修養の意味を考えた話【書評「私の財産告白」】

スマイルズ「幸福論」にも似た、努力の尊さを説く本。大きく異なるのは努力の尊さを財産作りにも当てはめて説いた部分でしょうか。

<内容紹介>
誰でも豊かで幸福になれる!日本人が書いた最高の人生哲学。貧農に生まれながら苦学して東大教授になり、「月給4分の1天引き貯金」を元手に投資して巨万の富を築いた男、本多静六。停年と同時に全財産を寄付して、働学併進の簡素生活に入った最晩年に語った普遍の真理は、現代を生きるわれわれにいまなお新鮮に響く。「人生即努力、努力即幸福」をモットーに生きた人生の達人による幻の名著!

<著者について>
本多 静六(ほんだ・せいろく)
1866(慶応2)年、埼玉県生まれ。苦学の末、1884(明治17)年に東京山林学校に入学。一度は落第するも猛勉強して首席で卒業。その後、ドイツに私費留学してミュンヘン大学で国家経済学博士号を得る。1892(明治25)年、東京農科大学(現在の東大農学部)の助教授となり、「月給4分の1天引き貯金」と1日1頁の原稿執筆を開始。研究生活のかたわら植林・造園・産業振興など多方面で活躍、日比谷公園の設計や明治神宮の造林など大きな業績を残すだけでなく、独自の蓄財投資法と生活哲学を実践して莫大な財産を築く。1927(昭和2)年の停年退官を期に、全財産を匿名で寄付。その後も「人生即努力、努力即幸福」のモットーのもと、戦中戦後を通じて働学併進の簡素生活を続け、370冊余りの著作を残した。1952(昭和27)年1月、85歳で逝去。

(以上、アマゾンの書籍紹介ページより)

勤勉と貯蓄を説く人はいても、同じ口で投資の重要性、財産の処分の問題まで説く人はなかなかいない。著者は金の増やし方から使い方まで一貫して堅実に生きることを説く。

本当に勉強し、本当に実力を養うもののためには、その進むべき門戸はいつも開かれている。

大切なのは、一生涯絶えざる、精進向上の気魄、努力奮闘の精神であって、これをその生活習慣の中に十分染み込ませることである。

幸福は各自、自分自身の努力と修養によってかち得られ、感じられるもので、ただ教育とか財産さえ与えてやればそれで達成できるものではない。

そんな著者のリスク論は決して大穴狙いではない(手取りの四分の一を強制貯蓄して資金を貯めるのは大変な負担だがw)。

投資戦に必ず勝利を収めようと思う人は、何時も、静かに景気の循環を洞察して、好景気時代には勤倹貯蓄を、不景気時代には思い切った投資を、時機を逸せず巧みに繰り返すよう私はおすすめする。

…普通ですねw。一方で著者は第2次世界大戦での敗戦で財産をほとんど失った。しかし著者がすごいのはそれに腐ることなく、再び簡素な生活を基礎に貯蓄し、経済上の安定を勝ち取ったことだ。

やれるだけのことをやってきたのなら、その結果についてそうそういつまでも悔やむことはない。問題はそれを「よい経験」として次の仕事に生かしていくことである。

人生における七転び八起きも、つまりは天の与えてくれた一種の気分転換の機会である。これを素直に、上手に受け入れるか入れないかで、成功不成功の分かれ目となってくる。

地味だがスゴイ人がいたもんです。
地味だがスゴイ人がいたもんです。

著者は事業家ではなく投資家。つまり仕事の糧を自分から探したわけではない。でありながらただ与えられた仕事をこなすだけでもなかった。

前に引用した、著者が言う幸福を得るための「自分自身の努力と修養」には真面目に働く以上のものがある。自分の人生をどう描くか考え、実際に取り組み、一方で人生のつまづきにとらわれすぎず、次の機会をじっくり待つ姿こそ「自分自身の努力と修養」なのかもしれない。

この本の中で出てくる「散る花を追うことなかれ、出ずる月を待つべし」という言葉も印象深かった。

一方で著者は資産を持とうとする人に優しい一方で、金持ちを妬むだけの人に厳しい。

一代の商傑には、一代の商傑でしかたくらみ得ない大きな野望がある。世間というものは、どうしてこう出しゃばりやおせっかいばかりが多く、何故これを静かに見守って、心行くまで、その夢を実現させてやれないのだ。

日本の社会は、欧米に比してこの出しゃばりとおせっかいがはなはだしい。金持ちに気持ちよく金を使わせてやる雅量に乏しい。

今日の社会情勢は、資本家を抑え、大金持ちをできるだけ作らない方針が取られていて、いわゆる乏しきを憂えず、等しからざるを憂うというので、畢竟、共貧、共愚をめざすかのごとき傾向にある。

この本の出版は1951年、著者85歳。上記のような日本社会の情勢は、2016年の現代も変わっていないことに気づかされる。というか自分より年上の知識人の中には「日本はもう経済成長はできない」と断言する人も多くて憂鬱になる。

著者は幸福を実感する時をこう定義する。

人生の幸福というものは、現在の生活自体より、むしろ、その生活の動きの方向が、上り坂か、下り坂か、上向きつつあるか、下向きつつあるかによって決定せられるものである。つまりは、現在ある地位の高下によるのではなく、動きつつある方向の如何にあるのである。

過去の日本にはこの著者のように真面目に働き、貯蓄し、なおかつリスクも取って生活の動きを上り坂にしようとしてきた人がいたのである。こんな人が増えていけば、今からの日本もよりよい社会になるのではないか。

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本多 静六
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偏見もまたこちらを見ている話【鑑賞「ズートピア」】

絶賛の評しか聞こえてこない作品なんですが、なるほど確かに傑作でした。こりゃやばい。

【作品紹介】
ここは、動物たちが人間のように暮らす“楽園”、ズートピア──誰もが夢を叶えられる、人間も顔負けの超ハイテク文明社会。だが、あらゆる種類の動物たちが平和に共存するこの理想の大都会に、いま史上最大の危機が訪れていた──。ディズニーが、動物たちの“楽園”を舞台に贈る感動のファンタジー・アドベンチャー。ズートピア初のウサギの警察官のジュディが、夢を忘れたサギ師のキツネ、ニックを相棒に、大都会ズートピアに仕掛けられた恐るべき陰謀に挑む。“夢を信じる力”とニックとの友情の絆を武器に、彼女は奇跡を起こすことができるのか…?夢を信じて諦めずに進み続ければ、きっと世界は変わる。感動のファンタジー・アドベンチャー『ズートピア』が、世界に希望の扉を開く。
【あらすじ】
動物たちの“楽園”ズートピアで、ウサギとして初の警察官になったジュディ。でも、ひとつだけ問題が…。警察官になるのは通常、クマやカバのように大きくてタフな動物たちで、小さく可愛らしすぎる彼女は半人前扱いなのだ。だが、ついにジュディも捜査に参加するチャンスが!ただし、与えられた時間はたった48時間。失敗したらクビで、彼女の夢も消えてしまう…。頼みの綱は、事件の手がかりを握るサギ師のキツネ、ニックだけ。最も相棒にふさわしくない二人は、互いにダマしダマされながら、ある行方不明事件の捜査を開始。だが、その事件の背後にはズートピアを狙う陰謀が隠されていた…。

公式サイトより)

…と、公式サイトから基礎的な内容を紹介してみましたが、今作の真のテーマがここで語られていないのが惜しい。「夢を信じる力」とありますが、実際には夢に立ちはだかるものの一つ「偏見」という、かなりシビアな問題の提起に挑んでいるわけです。まぁそこを前面に出すと説教くさくなりそう、という懸念もありますが。

だから正直ネットで絶賛の声を聞くまで、見たい映画のリストには入っていなかったのです。キャラクターたちは擬人化された動物で子供向けな感じがして。実際は大人こそ見るべき一本ですね。

ソフト化されたら、買ってもいいかなぁ
ソフト化されたら、買ってもいいかなぁ

何が見事かといって、自分と異なる者への偏見は誰でも持ってる(主人公でさえ!)こと、その解消についてもさらりと描いていること(主人公以外は)。ジュディに必要以上にキツく当たった警察署長もジュディを認めているし、キツネには気をつけろと諭していたジュディの両親もキツネと仕事をしているし。

そして主人公ジュディの偏見の発露が記者会見というのも効果的。ちょっと非日常の場で話す必要に迫られると、予想外のことを口走ってしまうことってあると思うのです。この場合、ジュディに質問をぶつける記者側も同じで、雰囲気に流され必要以上に聞かなくてもいいことを質問してしまいがち。その結果、両者が共犯関係になって開けなくてもいいものを開けてしまうわけです。そして無駄に他者を傷つけることになる。

弱者だから、仲間が多いからといって独善は罰せられる一方、差異によるギャグも挑んでいるのが素晴らしい。ナマケモノのくだりはもちろん、マフィアのボスにあんな動物を持ってきたところに作り手たちの作為を感じます。我々観客はその差異にぷっと笑いつつ、自分の偏見にも向き合ってしまう。

そういったテーマの鋭く描く一方で、ジュディやニックをはじめとする擬人化された動物たちのチャーミングさもまた素晴らしい。見終わるとどのキャラでさえも(悪役でさえも!)愛らしく見えるのが本当に本当に恐ろしい。個人的にはニックが最高。皮肉屋だけど実にいい奴です。見えます…ディズニーランドで彼らがパレードしてたりズートピアがアトラクションになってたりする様子が。

普遍的なテーマを魅力的なキャラクターたちのドラマで描いた、ディズニー恐るべし、という一本でした。