シンプルイズベストな話【鑑賞「アーロと少年」】

冒険を通じて少年が大人になるお決まりの話ではあるんだけど、きっちり楽しませるところに作り手たちのとんでもない冴えを感じさせる一本でした。

【あらすじ】隕石が落ちてこなかった6500万年前の地球。世界の中心は恐竜たちだった。恐竜の子供・アーロは家族で蓄えていた食べ物を盗んでいた人間の少年を追いかけるうちに川に転落してしまう。川をたどって我が家を目指すアーロと少年。二人に待ち受ける運命は。

「恐竜と人間が」ではなく「恐竜が人間と」心を通わせる話、というのが今作の効果的なところ。見終わったときは「これ、逆じゃだめなのか?」と思った。しかし「ジュラシック・パーク」シリーズを思い出してほしいのだが、もし観客が少年の立場に置かれると、相手は自分より生物学的に圧倒的に優位なのだから、物語がどこまで展開しても「いつかコイツにやられちゃうのでは?」という懸念が消えず物語に集中できないはず。

その点今作では観客は恐竜側の立場で物語に参加するのでアーロが少年に危害を加えないと分かり、安心して話に集中できる。

アーロの肌感もかなりのものでした
アーロの肌感もかなりのものでした

物語自体、恐竜と人間を同じ世界に住まわせるため「隕石が落ちなかった地球」という設定。こういった舞台設定になるべく説得力を持たせようとするのはピクサーの特徴のような気がする。

また恐竜が主人公ということで、鼻先で畑を耕したり崖をよじ登ったりと、擬人的な動きが実に面白かった(走る様が馬っぽいのは今一つだったけど…)。

しかしなにより今作最大の見所は3Dで描かれた風景描写!「実写か?」と思わせるほどリアル。アーロの家のそばを流れる川面の表情にはっとさせられ、荒れ狂う鉄砲水や滝は大迫力で描かれている。

おそらくこの風景描写を生かすために、アーロと少年にとっての敵-勇気を発揮しなくてはならない相手-も大自然(自分たちが暮らす環境そのもの)になったと想像する。風景自体が非常に大きな存在感を放っていた。

クライマックス、アーロが鼻先で地面に円を描く泣ける場面があるのだけど(なぜ泣けるかは秘密)、その土の描写も実にリアルで印象的でした。鑑賞したときは春休みで子供たちが多かったんですが、もう客席の至る所で鼻がグジュグジュ鳴ってましたよw。

前作「インサイド・ヘッド」がかなーり設定の多い作品だったのに比べると、今作は「地球に隕石は落ちませんでした」程度の非常にシンプルな設定。話の基本的な骨格も既視感のある「主人公が行って帰る」話。しかし話の構造が類型的であってもきっちり細部にこだわれば(キービジュアルでもある二人のあの抱擁シーンの動きの素晴らしさ!)エンターテイメントとして十分成立するんだなぁ。お見事でした!