2016私的ベスト3

週1回ペースで更新している当ブログも3年目。2016年を振り返ってみたいと思います。映画に良作が多かったような…?

MCUや再始動したスター・ウォーズなどもみていて楽しかったのですが、単体としてエイヤッと絞ったらこの3本になりました。エンターテイメントの皮を脱ぐことなく偏見と差異というギリギリのテーマに挑んだ「ズートピア」、過多な情報量とスピード感という現代風の面白さで突き抜けた「君の名は。」、そして今の若者の生態を描きつつ人の成長を捉えた「何者」。就職活動は自分を見つめること、とはいうけれど、あんなにシビアに見つめたらもう立ち直れない…しかしそこからでないと再起動もできないのですよ。

今年はあまり本を読まなかった…と思っていたけど、振り返るとまぁまぁ手には取っていましたね。今は「カラマーゾフの兄弟」を少しずつ読んでいるので、最近は本を読み切っていないからか。この3冊からは当事者として眼前のことに臨むことの重要性を読み取りました。それが広く社会のためでもあるし、1対1の個人の関係でもそう。そして眼前のことに臨むにはプロでなければならないのです。

イベントもそこそこ行ったのですが、印象に残っているのは40回目の開催にして初参加の「UMK SEAGAIA JAMNIGHT」。夕方、酒を飲みながらの野外ライブで夏を満喫したのでした。音楽の気楽な楽しみ方を再確認。ブログには書きませんでしたが、Perfumeの幕張オールスタンディングライブやルノワール展(東京)、鳥獣戯画展(福岡)などにも行ったのでした。

とはいっても公開中なのに見てない映画(「スター・ウォーズ ローグ・ワン」!)や行けてないイベント(生賴範義展3!)、読んでいない本もまだまだいっぱい。焦らず、じっくり味わって自身の栄養にしていきたいと思います。

一人で創造はできない話【鑑賞・大河原邦男展】

福岡県北九州市・北九州市漫画ミュージアムで2017年1月15日まで開催中の「メカニックデザイナー 大河原邦男展」を見てきました。

大河原邦男氏はアニメに登場するロボットや航空機など、乗り物のデザインを続けているデザイナー。代表作に「機動戦士ガンダム」、ギャグアニメ「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」などがあります。

会場が駅から近いのがありがたかった

会場は大河原氏直筆の設定画を最初期の「科学忍者隊ガッチャマン」からズラーっと展示。機動戦士ガンダムの劇場版ポスターの原画もありました。星空を背に敵のロボット(モビルスーツ)が並ぶ中、後方にシルエットのように大きく描かれる主役ロボ・ガンダムという構図の「機動戦士ガンダム  哀・戦士編」のポスターは生賴範義の影響を受けていたそうで、実に興味深い。意外なところで繋がりましたねー。

もっとも、主に展示されているのはアニメ用の「設定画」なので、どの作品もサイズが同じ。新聞紙半分くらいの大きさか。展示としてメリハリがつきにくいのだけど、これはまぁ仕方ないですよね…。

そんな中でも、大河原氏が現役デザイナーとして活躍できているヒントが今回の展示でもわかりました。

一つはアニメという2次元で描かれるメカに3次元の魅力を与えたこと。昔のロボットアニメは主役ロボの変形合体が流行りだったのだけど、その合体変形システムを一枚の紙で説明してみせる手際の良さ。と、そのアイデア。今回展示されているその設定画を見ると、昔のロボットは腰が180度回転したり腕が逆方向に曲がったりしてパズルのように合体変形してましたわ確かに。見せ場だったよなー。何もないところから自身の頭の中だけでそういった発想をするのだからすごい。実際に立体を作っておもちゃメーカーに仕組みを説明したこともあるそうです。商業アニメですからおもちゃが売れてナンボですからね。

かっこいいメカもユーモラスなメカも描けるのが大河原氏の魅力

もう一つは自身だけで仕事を完結させなかったこと。先述したガンダムの場合、すでにあった主役ロボのデザイン案に大河原氏が「派手さが足りない」と全く別のロボットをデザインし、それに別のスタッフが「今回の場合ロボットに口があるのはリアルじゃない」と意見し、最終的に口がなくなったそう。敵側ロボの基本デザインもアイデアを出したのは監督で、大河原氏が仕上げていったということです。別の作品のコーナーでは、大河原氏のデザインに監督が細部にわたって赤鉛筆で修正を指示している設定画も展示されていました。

アニメは集団で作るものという考えに基づき、スポンサーやスタッフの要望、視聴者(子供たち)の期待に応えて結果を出していく。そして「どう応えるか」に自分の個性を出す。大河原氏の場合、合体や変形のアイデアだったわけで。共同作業の意味と醍醐味を考えさせられた展示会でした。

前向きな思いが伝わる話【感想・Zine It! Vol.7】

宮崎市で7回目になった、手作り雑誌「Zine(ジーン)」の販売イベント「Zine It!」。今回は福岡での同種イベント「10Zine」とのコラボということで、より多くのZineを見ることができました。関係者のトークも聞けて楽しかったですねー。

関係者トークではZineの魅力として「自分のやりたい環境を簡単に作れる」「(Zineは)『アレ読んだ?』が通用しない世界」「作り手のバックグラウンドが紙や綴じ方に出る」などうなづける指摘が。今回買ったZineも作り手の思いを感じたものが中心でした。そういう一期一会な感覚が楽しい。

宮崎の「Zine It!」は7年目、福岡の「10Zine」は6年目。「楽しい環境を一つずつ作ってきた」というコメントが印象に残りました。「地域を盛り上げるぞ」と大上段に構えず、「楽しくやる」といういい意味での軽さが結果的に街に魅力を与えているように思いました。カルチャーって自分の衝動から始まるものだからね…。

というわけで今回買ったZineは…

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映画・映画館について語った「CINEMARGIN」

宮崎市で自宅ショップを経営する女性布作家を取材した「わたしを生きる」

鉄塔への愛に溢れた「鉄塔」

柿の実が熟して落ちるまでを写真と文章で見届けた「柿の半生」

宮崎と鹿屋のお気に入りの場所やイベントを紹介する「FOR」

投稿雑誌の編集部での思い出を漫画形式で振り返る「なかのひとのはなし」

白魚の踊り食いやものまねショーパブ、細島港ガントリークレーン突撃取材などをまとめた「初体験記」

自分が欲しいもの、買ったものをイラスト付きで紹介する「ほしいもののーと2016」

でした。

取材する、文章を書く、レイアウトを整えるなどなど、対象への愛が形になったものに惹かれますねやはり。作者の前向きな思いを感じるのがZineの良さなのでした。

言葉が人を解放する話【鑑賞「永い言い訳」】

人のダメな部分と愛おしい部分をぎゅっと詰め込んだ作品でした。

<ストーリー>

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族・トラック運転手の陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。子供を持たない幸夫は誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝きだすのだが…。

<作品紹介>

『おくりびと』以来7年ぶりに主人公・幸夫を演じるのは本木雅弘。歪んだ自意識とコンプレックスに溺れるタレント小説家をチャーミングな人物に昇華させた。原作・脚本・監督を手掛けたのは西川美和。卓抜したストーリーテリングと強烈な心理描写が研ぎすまされ、かつてない優しさと希望にあふれた「感動作」となった。観る者は主人公たちとともに悩み、迷い、たしかな幸福感に涙するだろう。

公式サイトより)

話が進み出すとピアノや弦楽器によるヘンデル作曲のクラシック音楽が緊張感を保つのだけど、オープニングのちょっと軽みのある曲が実は効いている。基調にあるユーモア、主人公・幸夫のチャーミングさを印象付けているように思う。

パンフレットはDVD付き
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幸夫は一言でいうと「いい人だけどメンドクサイ」。そしてメディアの人気者でありながら内実は空虚。妻を同じく亡くしていつまでもくよくよする陽一や陽一の子供にかける言葉も、正論だけどちょっと軽い。

そんな幸夫の言葉に感化されたのか陽一が新たな人生を歩み始めようとすると、陽一一家の中に自分の居場所がなくなりそうでひねくれ出す幸夫。バカ丸出しです。だけど客観的にはどうにも憎めない。娘の誕生日シーンは最高でした。

そんな幸夫は陽一の子供たちと関わるちょっとした間にノートに言葉を書き付ける。その瞬間の必死さが印象に残りました。作家である幸夫の誠実さが一番出てたかも。書くという形でまず言葉にすることで、自分自身を励ましている。言葉の力を印象付けた場面です。

ちょっと泣けたのは幸夫と陽一一家が海へ行く場面。海ではしゃぐ子供たちに幸せを感じながら突然「なぜユキちゃん(妻)がいないんだろう」と呟いてしまう陽一にグッときました。幸せを感じる瞬間に自分に欠けているものを強烈に思い出してしまうんですよねー。メンドクサイ性格の幸夫から決して離れない陽一が救いになっていました。

新しい人生に向かわねばならない様々な苦しみとそこからの緩やかな解放を描いた話でした。