孤独な男に胸打たれる話【鑑賞「LOGAN/ローガン」】

ヒーロー映画シリーズ「X-MEN」の人気キャラクター、ウルヴァリン(ローガン)を主人公にしたスピンオフ第3弾。ジャンル映画の枠を越えようとした意欲作でした。

【作品紹介】

野性味あふれる風貌、アダマンチウム合金の爪であらゆるものを切り裂くアクション、そして内に秘めた熱き激情。大ヒット・シリーズ「X-MEN」において最高の人気を誇る“ウルヴァリン”ことローガンは、スパイダーマン、バットマン、アイアンマンらとともに2000年代以降のアメコミ映画の興隆を牽引してきた孤高のヒーローである。国際的なスーパースターとして揺るぎない地位を築いたヒュー・ジャックマンにとっては、ハリウッドでの成功をたぐり寄せた最も思い入れの深いキャラクター。そのジャックマンが撮影に全身全霊を捧げ、「本当に全力を出し切った」と語る最新作「LOGAN/ローガン」は、まさしく“最後のウルヴァリン”の雄姿を刻み込んだ入魂の一作だ。アメコミ映画の常識を突き破った過激な世界観と衝撃的なストーリー展開が大反響を呼び起こしている。

【ストーリー】

ミュータントの大半が死滅した2029年の近未来。長年の激闘で心身共に疲れ果て、不死身の治癒能力が衰えたローガンは、生きる目的さえも失ったまま荒野の廃工場でひっそりと暮らしている。そんなローガンの前に現れたのは、強大な武装集団に追われるローラという謎めいた少女。絶滅の危機に瀕したミュータントの最後の希望であるローラの保護者となったローガンは、アメリカ西部からカナダ国境をめざして旅立ち、迫りくる最強の敵との命がけの闘いに身を投じていくのだった…。

公式サイトより)

特殊能力を持った登場人物が自身の能力や社会との関わりに悩みながらも悪と戦い、秩序を取り戻す−のがヒーロー映画の基本線。アメコミではヒーローが老いた姿を晒す話もあるのだけど、今作は死に真正面から向き合ったのが大きな特徴。「ウルヴァリン」シリーズ過去2作、X-MENシリーズとの関連性はあまりない感じで、単独作として鑑賞するのが正しいのでしょう。

ヒュー・ジャックマンも良かったがローラ役のダフネ・キーンの目力も素晴らしい。

今作はヒーロー映画の中で格段に「死」を印象付けられる一本となっている。切断されたり貫かれたりとグロい殺害シーンが多いのです。老いたローガンには相手へ配慮する余裕がもうない、ということか。

「アイアンマン」などの一連のマーベル映画(MCU)、「スーパーマン v バットマン」などのDC映画(DCEU)では正義をなす重み、痛みを描くようになってきたけれど、今作はさらに直接的に、(彼らにとっての)正義をなすことはとんでもなく残酷な暴力でもあることが伝わってきます。一方で自分の後に続く幼い世代をたった一人でボロボロになりながらも懸命に守ろうとする姿も印象深い。

ローガンやプロフェッサーXがどんな能力を持ったキャラクターかという説明はない分、単独作とは言ってもいきなり今作から見るのは難しいかも。また、アメコミのキャラクターは別のシリーズでまた登場することもあるので、今作が最後とは言っても映画でウルヴァリンやプロフェッサーXをもう見られないなんてことはないんじゃないかなーとは思います。

ただアメコミ映画、ヒーロー映画として今作が孤高の一本になったことは間違いない。前作「ウルヴァリン:SAMURAI」が正直なんじゃこりゃという出来だったのによくここまで持ち直したなぁ。ヒーローは孤独。だからこそ魅力的なのです。

色もいろいろという話【鑑賞「カラフル展」】

高鍋美術館で2017年7月2日まで開催中の「カラフル展」を見てきました。

高鍋美術館は面白いねー

「宮崎アーティストファイル」シリーズ第3弾。過去2回の「ガール」「リアル」と比べ「カラフル」がテーマだと単調になりがちだけど、会場にはモノクロームの作品もあり変化をつけていました。「色のない作品にどんな色が見えるか?」という問い掛けと解釈しました。

いわゆる「王道」なのが池部貴恵(宮崎市)、松田舞(宮崎市)の二人か。セロハン貼り絵の伊藤有紀恵(宮崎市)もシンプルさが印象に残りました。

一方、先述したモノクロームの絵を出品したクリストファー・トラウトマン(都城市・米テキサス州)など男性陣はテーマ「カラフル」を拡張するような作風が目立った。五十川和彦(都城市)はアクリルの箱の中に服を入れ、服の色をぼんやりと外部に漏らしている。色だけを抽出する試みというところでしょうか。

そして今回のゲストアーティスト・儀間朝龍(ぎま・ともたつ/沖縄県)。今回のキービジュアルにもなっているのだけど、切り抜いたダンボールの型にダンボールの表面の色がついた部分をモザイクのように貼り付けて作品にしている。スマイルマークやキャンベルスープ缶、企業ロゴをその色通りに再現しているのだけど、少しずつ色味を変えることで鮮やかなのに古びた感じ、くすんだ感じもある。制作工程のビデオも上映されていて、キャンベルスープ缶の縁も少しずつ色味のパーツを変え、貼り付けていく細かい作り方に感心しました。少しずつ色味を変えるところに個性が出るんですねー。

選択が自分を作る。「カラフル」の多様な解釈を感じさせるイベントでした。

見えない壁を越える話【鑑賞「光」】

「カンヌ映画祭」出品、審査員賞受賞作と聞くと高尚な映画ファン向けの作品のように受け止められがちだけど気負わずに見られる一本でした。

【作品紹介】
生きることの意味を問いかけ、カンヌ国際映画祭他、世界中から大絶賛をされた『あん』。河瀨監督と永瀬正敏のダッグが、ヒロインに水崎綾女をむかえて次に届けるのは、人生で多くのものを失っても、大切な誰かと一緒なら、きっと前を向けると信じさせてくれるラブストーリー。また、映画の音声ガイドにも焦点をあてた本作は、世界中の映画ファンに歓喜と感動をもたらしてくれる。 1997年に『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭新人監督賞カメラドールを受賞し、2007年の『殯の森』では同映画祭で審査員特別大賞グランプリを受賞した河瀨監督。10年の節目をむかえる2017年に ふさわしい感動作が、ここに誕生した。
【ストーリー】
単調な日々を送っていた美佐子(水崎綾女)は、とある仕事をきっかけに、弱視の天才カメラマン・雅哉(永瀬正敏)と出逢う。美佐子は雅哉の無愛想な態度に苛立ちながらも、彼が過去に撮影した夕日の写真に心を突き動かされ、いつかこの場所に連れて行って欲しいと願うようになる。命よりも大事なカメラを前にしながら、次第に視力を奪われてゆく雅哉。彼の葛藤を見つめるうちに、美佐子の中の何かが変わりはじめるー。

公式サイトより)

ヒロイン美佐子は視覚障害者向けの映画音声ガイド製作者。ガイドを製作するためにモニターとして集まってもらった観客の中にいたのが弱視が進んでいるカメラマン雅哉。雅哉の的確ながらも厳しい意見に美佐子は反発するが…と、舞台は必ずしも観客に馴染みのあるものではないけれど、話の骨格は反発しあった男女がひかれあう展開。一般の観客には身近といえない仕事が描かれる興味深さもありましたね。一方で見えているもの=光を、言葉=音に置き換える試みも描かれる。中心に映像ではなく音がある野心的な映画でもありました。

何が見えて、何が見えていないのか?と考えてしまいました。

雅哉の部屋でプリズムが輝く場面、雅哉と美佐子が夕日を見つめる場面など映像として「光」を表現する場面もあった一方で、クローズアップが多く圧迫感、緊張感が強いのも今作の特徴かも。雅哉は視界のほんの一部しか見えない設定なのだけど(彼の視点描写もある)、一般の観客に視覚障害の感覚を伝えようとしているようにも見えました。

ちょっと残念なのが美佐子の母親のエピソード。本筋ともう少し絡んでほしかった。テーマとしては繋がっている、むしろ、光が失われることに前向きな意味づけをするエピソードなのだけど、ちょっと唐突だった気が。母親がそんなことを言ってもおかしくはない設定にはなっているど、(逆に)そう言わせたいための設定ではないか、という印象が残ったのです。

見えているものを言葉に置き換えることは簡単なようで難しい。映画ならなおのこと、フィルムに写っているもの全てを伝えようと言葉を盛り込んでもダメ、余韻を伝えようと言葉を省きすぎてもダメ。意味を考えないと伝わらない。ラスト、完成した音声ガイドが流れて終わるのですが、なるほどこう表現するか、と言うものでした。聞いてしまうと簡単な表現なんだけど的確な表現ってそんなもの。表現の技法を置き換えるのは簡単なことではないんです。

でもこの映画、外国語圏の人は作品の大部分を字幕=光で意味を理解するわけで、音声ガイドのニュアンスへのこだわり、試行錯誤がどこまで伝わるのかな、と気になってしまった。今作の意味を体感(理解ではなく)できるのは日本語がわかる人になるのかな。色々な「壁」が身の回りにはあるのです。でもその壁を越えようという試みが大事なのでしょう。

それでもなお、という話【鑑賞「メッセージ」】

空想科学の楽しさの先に人間を深く洞察した高度な一本でした。観客の理解力も問われるなー。

【イントロダクション】
SF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編の監督に抜擢されたことでも注目のドゥニ・ヴィルヌーヴ。彼の最新作『メッセージ』は、優れたSF作品に贈られるネビュラ賞を受賞したアメリカ人作家テッド・チャンによる小説「あなたの人生の物語」を原作に映画化された、全く新しいSF映画。謎の知的生命体と意志の疎通をはかろうとする言語学者のルイーズ役には、『アメリカン・ハッスル』を含め5度アカデミー賞にノミネートされたエイミー・アダムス。彼女とチームを組む物理学者イアンには『ハート・ロッカー』など2度アカデミー賞にノミネートされたジェレミー・レナー。軍のウェバー大佐役には『ラストキング・オブ・スコットランド』の演技でアカデミー賞主演男優賞を受賞したフォレスト・ウィテカーが扮している。
【ストーリー】
突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、“彼ら”が人類に<何>を伝えようとしているのかを探っていく。その謎を知ったルイーズを待ち受ける、美しくそして残酷な切なさを秘めた人類へのラストメッセージとは―。

公式サイトより)

前半で描かれる宇宙船との接触までの流れが非常に素晴らしい。軍人が学者に会いに来て現場に連れて行かれるというよくある展開なんだけど緊張感を十分に保ち、画面に現れる宇宙船のファースト・ショットがただただ美しい。

読み応えあるパンフレットでした。

鑑賞しながらジョディ・フォスターが科学者を演じた映画「コンタクト」を思い出しましたが、今作も「コンタクト」に似て、話を混ぜかえす分からず屋の「悪役」がいないのも良い。存在するだけの巨大宇宙船を前に高ぶってしまう人や国は出てくるけど、その程度。全員がその場その場で真剣に事態に向き合っているのがいいですね。「コンタクト」では日本がカギを握りましたが今作ではそれが中国なのは時代ですかねw。

本作のテーマに触れるとネタバレになってしまうので、感想を書くのは極めて難しい。ただ(未読ですが)この映画の原作が「あなたの人生の物語」と名付けられているのだけは知っていました。本作を見て原作がそう名付けられた理由がわかった瞬間はあまりの切なさにちょっと鳥肌。そして今作を見ている自分自身が、主人公・ルイーズが見てきたものを体感していたと気づいて驚嘆。

テーマに触れた時の悲しみ、切なさ、そして主人公・ルイーズのように生きられるか(生きてほしい)、というこの作品からの問いかけ(メッセージ)は見終わってもずっと残るでしょう。

まだ1回しか見ていないのだけど、また見返したら、かなり泣けるだろうなぁ。