朱に交われば赤くなる話【書評・年収は「住むところ」で決まる】

邦訳の際に突飛なタイトルにしてないかと…
邦訳の際に突飛なタイトルにしてないかと…

身も蓋もないタイトルの本ですが、中身はきわめて真っ当。これまで紹介した「なぜローカル経済から日本は甦るのか」「機械の競争」にもつながる本でした。

個人の年収は「住むところ」ー地域に影響され、地域に格差が生まれるのは新しいアイデアと製品を生み出す「イノベーション産業」をどれだけ誘致できるかにかかっている…として、イノベーション産業の特徴と影響を分析した本。

他に類がなく革新的なものを生み出すイノベーション産業の特徴は、一つの地域に集まることで知識が伝播され、競争上の強みが生まれていくこと。優秀な労働者が集まり、ますますその地域は発展していく。

イノベーション産業は世界市場を相手にしたグローバル経済でもあるのだが、そんな産業が活発な地域でしか小売り関連の雇用は生まれない。逆に言うと、経済の大半はローカルが占めているけれど牽引役にはならない。経済が繁栄できるかはイノベーション産業にかかっている。

新しいテクノロジーの登場(イノベーション)は高い技能を持つ人が有利になる一方、中程度の技能者の職を減らす(技能の低い人には影響がない)。そしてイノベーションの恩恵は広く伝播するが、雇用面での恩恵は限られた地域だけ。

イノベーション産業がどこに集積するかははっきりしない。行政が多額な資金を継続的に適切な対象に補助するしかない。何の手も打たずに地域経済は発展しないが、産業に補助しても成功例は少ない。コミュニティが絶えず破壊と再生を繰り返すことがイノベーションの究極の原動力なのだ…。

著者が指摘する「メリーランド州ボルチモアの平均寿命はパラグアイやイランよりも低い」という地域間競争の厳しさは重い。住むところで決まるのは年収どころか寿命にまで及ぶのである。

著者は今のアメリカは教育や研究に十分な予算が投じられていないため給料の上昇ペースが減速し、格差が広がりはじめているとも指摘する。一人一人が能力を磨き、顔を合わせて交流することでイノベーションが生まれ、産業が生まれる。その生まれ方にも地域差がでる。雇用が生まれローカル産業も活性化し、コミュニティが発展する。そしてコミュニティに元気があるうちにコミュニティを支える産業の転換も図らないと衰退してしまう。

人任せにしていては今手にしているものも失ってしまうかもしれない。自分はコミュニティにイノベーションを起こせるか。その必要性を感じさせた一冊でした。

年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学
プレジデント社 (2014-04-23)
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