気持ちよく返り討ちされた話【鑑賞「君の名は。」】

監督の過去作を見ていたので「どうせまた雰囲気だけなんでしょ」とたかをくくって臨んだのですが、とんでもない返り討ちにあいました。ひらたく言って傑作。うーん参った。素晴らしい。

<作品紹介>

『秒速5センチメートル』(07年)、『言の葉の庭』(13年)など意欲的な作品を数多く作り出してきた気鋭のアニメーション映画監督・新海誠。精緻な風景描写とすれ違う男女の物語を、美しい色彩と繊細な言葉によって紡ぎ出す“新海ワールド”は、世代や業界、国内外を問わず人々に大きな刺激と影響をおよぼしてきた。
新海誠監督の待望の新作となる『君の名は。』は、夢の中で“入れ替わる”少年と少女の恋と奇跡の物語。世界の違う二人の隔たりと繋がりから生まれる「距離」のドラマを圧倒的な映像美とスケールで描き出す。

<ストーリー>

千年ぶりとなる彗星の来訪を一か月後に控えた日本。山深い田舎町に暮らす女子高生・三葉(みつは)は憂鬱な毎日を過ごしていた。町長である父の選挙運動に、家系の神社の古き風習。狭い町で周囲の目が余計に気になる年頃だけに、都会への憧れを強くするばかり。
そんなある日、自分が男の子になる夢を見る。目の前に広がるのは東京の街並み。念願だった都会での生活を満喫する三葉。
一方、東京で暮らす男子高校生、瀧も奇妙な夢を見た。行ったこともない山奥の町で、自分が女子高生になっているのだ。
繰り返される不思議な夢、そして、明らかに抜け落ちている、記憶と時間。いく度も入れ替わる身体と生活に戸惑いながらも、現実を少しずつ受け止める瀧と三葉。時に相手の人生を楽しみながら状況を乗り切っていく。しかし気持ちが打ち解けてきた矢先、突然入れ替わりが途切れてしまう。自分たちが特別に繋がっていたことに気付いた瀧は、三葉に会いに行こうと決心する。辿り着いた先には、意外な真実が待ち受けていた…。

(以上、公式サイトより)

確かに、予告編を見ると「過去作に比べ、キャラクターに動きがあるな」とは思ったのです。でも正直言って「秒速5センチメートル」はつまらなかった。作品紹介で挙げたように「精緻な風景描写とすれ違う男女の物語」なのだが「雰囲気だけで何かを語ったつもりになっている」としか感じられなかった。主題歌に使われた山崎まさよしのプロモーションビデオかと思ってしまったのです。

英題が「your name.」なのは文法的に正しいのかな…
英題が「your name.」なのは文法的に正しいのかな…

で、大ヒットしている今作ですよ。鑑賞したのは日曜のレイトショーだったのですが、客席は8割がた埋まってたかなぁ。かなりの人でした。

でもヒットしているのはわかります。今作はしっかりと話に芯が通っていた。エンターテイメントとして語るべきこと、語らなくてもよいことがかなり仕分けられ、なおかつ監督の特徴も生かされた作品になっていた。

離れ離れの男女が運命の出会いをする、という基本は押さえつつ、その障害に意外なものを持ってきたのが今作の非常にうまいところ。ただの雰囲気作りで使ったんでしょ、と思っていた彗星をきちんと物語の骨格に据えたのが素晴らしい。長編映画にはサスペンスの要素も必要なんですよ。その障害を乗り越えるために主人公たちを含めた若者たちが大人社会に対して奮闘するのにもグッときた。男女の恋愛ドラマを超えて普遍的な成長物語とも解釈できる。

一方で物語を盛り上げるには順を追って話を語ってはつまらないわけで、どこかをあえて省いたり話す順序を入れ替える工夫が必要なわけだけど、そういう全体の話の組み立て方については、監督の過去作でも見られた散文的な手法が実に実に効いた。

精密な風景描写、盛り上がるところで邦楽(今回はRADWIMPS)を使うのも健在。正直なところ、歌が流れ出すと一気にプロモーションビデオ化してしまう(曲と絵を合わせ過ぎなのか?)のが微妙と言えば本当に微妙で、歌を聴けばいいのか絵を見ればいいのかわかんなくなってしまうのだけど、もうこれは監督の手癖、個性と好意的に解釈してしまいましょう。

パンフレットにあった監督インタビューでは「誰もが楽しめるようなエンターテイメントを作りたいという思いはずっとあった。自分自身の作劇の力も広がっている実感も持て、いよいよできるんじゃないかと思えた」とあった。確かに今作で大きく飛躍して、個人名で客を呼べる監督になったと思います(←上から目線)喜怒哀楽すべてを満たす高精度のエンターテイメントでした。青春最高!