言葉が人を解放する話【鑑賞「永い言い訳」】

人のダメな部分と愛おしい部分をぎゅっと詰め込んだ作品でした。

<ストーリー>

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族・トラック運転手の陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。子供を持たない幸夫は誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝きだすのだが…。

<作品紹介>

『おくりびと』以来7年ぶりに主人公・幸夫を演じるのは本木雅弘。歪んだ自意識とコンプレックスに溺れるタレント小説家をチャーミングな人物に昇華させた。原作・脚本・監督を手掛けたのは西川美和。卓抜したストーリーテリングと強烈な心理描写が研ぎすまされ、かつてない優しさと希望にあふれた「感動作」となった。観る者は主人公たちとともに悩み、迷い、たしかな幸福感に涙するだろう。

公式サイトより)

話が進み出すとピアノや弦楽器によるヘンデル作曲のクラシック音楽が緊張感を保つのだけど、オープニングのちょっと軽みのある曲が実は効いている。基調にあるユーモア、主人公・幸夫のチャーミングさを印象付けているように思う。

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幸夫は一言でいうと「いい人だけどメンドクサイ」。そしてメディアの人気者でありながら内実は空虚。妻を同じく亡くしていつまでもくよくよする陽一や陽一の子供にかける言葉も、正論だけどちょっと軽い。

そんな幸夫の言葉に感化されたのか陽一が新たな人生を歩み始めようとすると、陽一一家の中に自分の居場所がなくなりそうでひねくれ出す幸夫。バカ丸出しです。だけど客観的にはどうにも憎めない。娘の誕生日シーンは最高でした。

そんな幸夫は陽一の子供たちと関わるちょっとした間にノートに言葉を書き付ける。その瞬間の必死さが印象に残りました。作家である幸夫の誠実さが一番出てたかも。書くという形でまず言葉にすることで、自分自身を励ましている。言葉の力を印象付けた場面です。

ちょっと泣けたのは幸夫と陽一一家が海へ行く場面。海ではしゃぐ子供たちに幸せを感じながら突然「なぜユキちゃん(妻)がいないんだろう」と呟いてしまう陽一にグッときました。幸せを感じる瞬間に自分に欠けているものを強烈に思い出してしまうんですよねー。メンドクサイ性格の幸夫から決して離れない陽一が救いになっていました。

新しい人生に向かわねばならない様々な苦しみとそこからの緩やかな解放を描いた話でした。