背景の背景を知りたかった話【鑑賞・山本二三展】

写真「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」などの宮崎駿作品、「じゃりン子チエ」「火垂るの墓」などの高畑勲作品、細田守作品「時をかける少女」などで背景を担当した山本二三(やまもと・にぞう)氏の作品の展示会。みやざきアートセンターで5月18日まで開催中の全国巡回展であります。実際に使われた背景画、作品制作に当たって作品世界をスタッフ間で統一するためにつくられるイメージボードなどが展示されていました。

正直言うと、ちょっと物足りなかったなぁ。展示物のクオリティは極めて高く、こういった人物にスポットを当てた企画がよく成立したなとも思うのですが「上手だな」以上の感想を持ちにくかった。

アニメの背景画がどう描かれるか、普通の風景画とどう違うかなどについてももっと解説がほしかった。音声解説(有料)なら分かったのかもしれないけど…?

アニメの背景画って背景の前で動くキャラクターより目立ってはいけないし、しかし単なる書き割りとも違い場面の光と影も意図的に描いて作品世界をつくっているわけで。

そんな意味付けを理解したのは舞台が夏だった「時をかける少女」の背景画。部屋に差し込む光や夏の路地のまぶしさなども書き込まれていて、背景画の意味を再確認した。

背景画の意味についてもっと知りたかったのだが物販コーナーで目を通した図録にもそんな記述がなさそうなので、市販されている別の画集を買った。「二三雲」とも呼ばれる雲の描き方が解説されていたのはもちろん、家の壁や道路のひび割れなどにも現地取材の結果が反映されていることとか、映像化に当たってはCGなども合成され背景もさらに変化していること…などなど、実際の展示や図録でなく(涙)画集の方で理解した。

たとえば二三氏の背景画を使って完成した場面との比較とか、演出側からどんなリクエストがあってこんな背景画を描いたのかとか、アニメーション制作の裏側にまで踏み込んだ展示だったら背景画の意味付けがもっと分かった気がするのだけど。ちょっともったいない展示会でした。

見る側が試される話【鑑賞・アンディ・ウォーホル展ほか】

上京話の続き。六本木ヒルズの「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」メディア・アート展「Media Ambition Tokyo」についてです。

写真 1-1スープ缶や段ボール箱のパッケージを(ほぼ)そのまま模倣してアートにしてしまったアンディ・ウォーホル。かたや「Media Ambition Tokyo」は複数の作家によるメディア・アート展で音楽やテクノロジーを組み合わせて芸術の可能性を広げようとした企画。

どちらも現代的なアートでありながら「アンディ・ウォーホル展」は一見、アートとして分かりやすすぎて戸惑わせ、「Media Ambition Tokyo」はアートとして分かりにくすぎて戸惑わせる、そんな感じ。

もちろん、「分かりやすい/分かりにくい」がアートとしての優劣を決めるものではないんですが。鑑賞者を「何だこりゃ」と思わせるのがアートの特徴の一つであるならば、両者ともまさしくアート。アンディ・ウォーホルは1987年に58歳で亡くなっているけれど、何にでも興味を持った彼のこと、もしもう少し長く生きていたらデジタル技術にも興味持ったはず。この2つの展示は意外に共通点がある。

写真 2-1アンディ・ウォーホル展は著名な「キャンベル・スープ」「マリリン」「エルビス・プレスリー」などの作品や彼が創作の場にした室内すべて銀色の「シルバー・ファクトリー」の再現、映像作品の上映などもあり、回顧展として楽しめた。

彼の人を食ったようで本質をついているような発言の数々も会場のあちこちにちりばめられ、多様な創造性を示していた。「なんでオリジナルじゃないといけないんだ?他の人と同じがなんでいけないんだ?」「東京で一番美しいものはマクドナルド。ストックホルムで一番美しいものはマクドナルド。フィレンツェで一番美しいものはマクドナルド。北京とモスクワはまだ美しいものがない」あたりが、一番この人らしい発言でしょうか。そもそもあのトレードマークの銀髪もカツラだったそうだし。

「ぼくの時間が終わるとき(中略)ぼくは何も残したくない。それに残り物にもなりたくないんだ」という発言を描いた部屋が、何でも溜め込み捨てられなかった彼の雑多なコレクションをまとめた「タイムカプセル」コーナーだったのも気が利いてる。

写真 3いっぽう「Media Ambiton Tokyo」はPerfumeの衣装にプロジェクションマッピングをしたパフォーマンスで有名なライゾマティクスや現在佐賀県で作品の展示をしているチームラボなどが参加。ライゾマティクスの作品はトヨタの高級スポーツカー、レクサスLFAを光とエグゾーストノイズ、風などで立体的に魅せる試み。アンディ・ウォーホル展でアンディ自身がペイントしたBMWが展示されていたのを思い出した。時代が変わると表現方法も変わるもの。

この2展示会、共通点もあるのだけど「アンディ・ウォーホル展」のほうがどうしてもある程度の年月を経た分「時代」や「風俗」を反映している。「Media Ambiton Tokyo」展は現在のテクノロジーを反映してはいるけれど、時代や風俗を反映する作品=名作、傑作になるかは時間が経たないと分からない。

なにしろこの2展を鑑賞した際に、会場の森美術館で(年配客を中心に)一番人が集まっていたのは「ラファエル前派展」だったものなぁ。

「Media Ambiton Tokyo」だけでなく「アンディ・ウォーホル展」も、まだ見る側を試す展示会なのかもしれない。でも「これもアートなのか?」と鑑賞する自分に問うことで、自分の可能性を広げることも出来る気はする。

世界を触って理解した話【鑑賞・3Dプリンティング展】

今月は2度の上京。今度は出張でした。会議が始まる前に「3Dプリンティングの世界にようこそ!」展(印刷博物館)、「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」(森美術館)、「Media Ambition Tokyo」(六本木ヒルズ)を見物してきました。

「3Dプリンティングの世界にようこそ!」展はタイトル通り、3Dプリンティング技術を紹介。以前、3Dプリンティングを中心にモノづくりについて書かれた「メイカーズ」を読んだこともあり興味のある分野。実際に3Dプリンティングで出来たモノを見たのも今回が初めてでした。

写真 1いやぁ、思ったよりシッカリズッシリしたモノが出来るんですねぇ。「どうせ作れてもすぐ壊れるようなヤワなモノしか出来ないんでしょ」と勝手な印象を抱いていたのだけど、それは間違いだった。

一部触れない展示品もある中、「これはぜひ全国で展開してほしい」と思ったのが本物と同じ色形、重さまで一緒の土偶のサンプル。宇宙人みたいな形で有名な遮光器土偶を実際にもって鑑賞できる。意外な重さにびっくりした。本物はなかなか触れないので、ケース越しに見ることは出来ても持つことは出来ないもんねぇ。視覚だけでなく触覚も使って鑑賞できるのはたいへんな進歩だと思う。

ほかにも義足とか、身近なところではスマホケース、アクセサリーなどもあった。本で読んだだけではピンと来なかった3Dプリンティングが現物を見ると少し分かった気がする。

個人的にモノづくりをしている人たちにとっては大変な技術革新には違いないし、一般の人でもたとえば家の中で、パッキンだのネジだの、ちょっと壊れたモノを3Dプリンターで作り直す、ってのはありなのではないかな。そんな例なら小型の3Dプリンターで良いわけだし…。そんな可能性を感じた展示会でした。

時代を超えるものという話【鑑賞・大浮世絵展、大友克洋ポスター展】

IMG_0994上京話の続きです。滞在2日目は2つの展覧会を見て参りました。

一つは江戸東京博物館でこの日が最終日だった「大浮世絵展」、もう一つは恵比寿で今月16日まで開催中の大友克洋のポスター展。

「大浮世絵展」は浮世絵の誕生から発展(昭和の錦絵まで)を紹介、大友克洋ポスター展は特殊印刷で作られた作品を中心に展示。時代こそ違え、どちらも一般向けに広まったアートという面では共通してました。

で、あと一つ共通していたのが、絵と一緒に書かれた言葉の「古さ」でした。浮世絵に書かれた言葉が読めないのは時代が違い過ぎるからだけど、大友克洋のポスターの中にも「これは…」と苦笑してしまったキャッチフレーズがあった。絵自体は今でも鑑賞に堪えるのに。

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絵より言葉が表現力として劣る、と比較するのはそもそもナンセンスだし、(小説とかならいざ知らず)言葉もまずは、同じ時代を生きている人にちゃんと届かなくてはいけない。浮世絵もポスターもメーンは絵の方で、同じ紙に書かれた言葉は添え物なのだろうし。でもなぁ…。

「(小説とかならいざ知らず)」と先述しましたが、言葉は時代が経つとどんどん変わっていき意味が通じなくなる。現代語に翻訳しつづけないと意味が伝わらない。絵も(大浮世絵展で見せてくれたように)時代によって表現方法は変わっていくし、描かれた背景を理解するには言葉が必要なんだけど、絵の方が時代を超えて伝わる力があるのかな。そんな表現の特性について考えた2つの展覧会でした。

 

依頼に応えつづけた凄みを体感した話【鑑賞・生賴範義展】

IMG_0967  開催の報を聞いた時に「これは勝ったな(何にかわからんけど)」と思った企画。宮崎市在住のイラストレーター、生賴範義(おうらい・のりよし)氏の回顧展が宮崎市のみやざきアートセンターで開催中であります。さっそく行ってまいりました。

開催まで2年かかったというこの展示会、様々なジャンルの絵を一人で描いたとはとても思えない圧巻の内容でありました。

スターウォーズやゴジラなどに代表されるド迫力の映画ポスター。小松左京の小説の表紙では星々の大海と筋肉隆々の人間を対比させ、吉川英治「宮本武蔵」挿絵では点描で野性味溢れる武蔵を描写。同じ点描画で近・現代の著名人を描いたシリーズもあったかと思えば重厚な戦記物、広告担当者が写真と勘違いしたというクールにタバコを吹かす若者の絵まで。

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過去から現代、未来まで。西洋から東洋、異世界まで。描いた世界の幅広さに感嘆しかでなかった。

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本人は職人的に、依頼に可能な限り応えてきた日々だったと語っているそうだ。しかし、誠実に応えようと自宅には資料として女性の服や靴など何百点と集めたり、筋肉隆々の人間を描くのにミケランジェロの作品を参考にするなど、かけた努力も相当なものだったそうだ。

何よりイラストを依頼した映画制作者たちが生賴氏の絵から得たイメージを作品に反映させようとする(依頼は映画完成前だから)程の、生賴氏の表現力、空想力の凄み!

そう考えると、作品の多くが装丁やポスター、パッケージ画など、見た人に「読みたい」「観たい」「遊びたい」…ぶっちゃけちゃうと「金を出させる」衝動を呼び起こすためのものだったことに気付く。アートとして「いい絵だ」で終わっては駄目で、商品の売り上げに結びつかないといけない厳しい世界。生賴氏はそんな世界の第一線を走り続けた人なのだなぁ。

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こんな凄い人が宮崎にいるのが(身勝手ながら)誇らしい。実力があれば地方からでもこれだけの発信ができるんだ。今はインターネットやデジタル化で地方からの発信も敷居は低くなっているはず。生賴氏の作品群に圧倒されつつも「自分たちだってイマ、ココから何かできるはず」と勇気づけられる人も多いはず。

何はともあれ、全国の大きなお友達の皆さんはぜひとも宮崎に着て見るがいいです。もしくはこの展覧会自体が全国を巡回するがいいです。

井手綾香さんの歌はしみじみしっかり盛り上げてくれるという話

IMG_0938宮崎県串間市在住のシンガー・ソングライター、井手綾香さんのコンサートに行ってきたのですよ。

今春2枚目のフルアルバムが出るという彼女の、宮崎市でのホールコンサート。幅広い年齢層を前に1曲1曲を大事に歌い、客も大事に聴く感じ。温かい雰囲気の2時間でした。

全国的な知名度はまだまだ、なのかもしれないけれど、ドラマやCMで曲は使われていて、今後の活躍にますます期待、といったところです。

音楽の素養も大してないのに書いてしまいますが、彼女の歌はサビできっちり盛り上げてくれる。代表曲「雲の向こう」やドラマ主題歌にもなった「きっと、ずっと」など、もう何回も聞いているのに今だに気持ちいい。ポピュラー音楽では大事な事だと思うのです。

機微があり解釈も幅広くとれる表現力豊かな歌詞もいい。とくに前述の「雲の向こう」。「太陽のように世界中に輝きを与えたい」と歌うんですよ。

「欲しい」側じゃないんですよ「与えたい」側ですよ。彼女、当時高校生ですよ。どんだけオトナなんだっていう。未聴の人はぜひ聞いて欲しい…のでリンクを張るのであります。

2枚目のアルバム「ワタシプラス」は4月16日発売!

手作り雑誌は面白い【Zine It! Vol.4 感想】

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12月15日に宮崎市であった手作り雑誌「Zine」の展示即売イベント「Zine It! Vol.4」。毎回顔を出して、面白げな雑誌を買っております。今回買ったものを紹介しつつ、簡単にレビューしようかな、と。

【あいすべきものたちへ 写真と絵とコメントの本】
作者が日常的に撮ってきたチョット気になる看板や品々「あいすべきもの」をまとめて紹介したZine。

「確かに気になる」と思わせるものから、「そう言われるとなんだか気になる」的なものまで、ほんわかしたイラストとあいまって読んで楽しいZineでした。

【あまくさしもしまとかみしま 近隣の島へ行ってみよう vol.1】
【Voyage Paris】
旅行記ものZineを2冊。「あまくさ〜」は天草、「Voyage〜」はパリへのトリップ。どちらも写真をふんだんに使い、旅の雰囲気が伝わる。どちらも最後は土産報告で締めているのも面白い。両方ともイラストも添えてあるんだけどイラストとZine自体の雰囲気が合っているのがイイですね。

【CINEMARGIN VOL.2】
映画評のZine。2013年に「見てよかった!」映画を紹介しています。変に気取らず、小難しくない文体で書いているのでサッと読めます。これ大事。手作り感あふれるZineでした。

【月刊 島崎和歌子】
タイトルだけで真っ先に購入を決めたZine(´Д` ) 人選だけで既に勝利。っていうか「月刊」シリーズでほんとに出てるんじゃないの?出てないの?っていうか「月刊」シリーズはまだ出てるの?(知りません)1ページ目にマツコ・デラックスの言葉として紹介している「意味のない美人」ってホントそうですよねこの人。ラフな感じのページデザインが「勢いだけで作りました感」があってまたよし、でした。

【僕の頭の中で思いついたこと】
ページレイアウトがとても整っていたZine。文章中心なので、文章を流す段を分割し、色を付けた見出しをつけ、余白と画像のバランスもページごとに工夫されている。レイアウトをちゃんとすると本当に読みやすいんだよなぁ。

【もじのうまれるところ】
【もじのうまれるとき】
同じ作者による、文字について考えた連作のZine。英語に見える日本語、日本語に見える英語、暗闇で書いた字、幼いころの字などを採録し、成長するにつれ字が汚くなったという作者が、自分の字を読むことに「自己との戯れ」を見出すのが実に面白い。「読めない文字は神聖だ」「私の字は私以外に読まれることを拒否している」なんて考えたこともなかった。悪筆家にとって自信が出るかも(?)

作者自身の独特(だが魅力的)な考え方があふれているのだが、よく考えるとこのZine、肝心の本文はきれいなフォントを使っている。この使い分けってどんな意味があるのか…それは読み手が答えを出してみましょうかね。

CIMG1900…購入したのは以上8冊。これ商業誌じゃないのっていうものからハンドメイドな感じのものまで一堂に集まる面白いイベントでした。