男の生き様は切ない話【鑑賞「ブレードランナー2049」】

あの伝説的映画のまさかの続編はいきなり完全版を見せられたような長尺作品でしたが、思いの外楽しめました。

【作品紹介】
2049年、貧困と病気が蔓延するカリフォルニア。人間と見分けのつかない《レプリカント》が労働力として製造され、人間社会と危うい共存関係を保っていた。危険な《レプリカント》を取り締まる捜査官は《ブレードランナー》と呼ばれ、2つの社会の均衡と秩序を保っていた。LA市警のブレードランナー“K”は、ある事件の捜査中にレプリカント開発に力を注ぐウォレス社の巨大な陰謀を知ると共に、鍵となる男にたどり着く。彼はかつて優秀なブレードランナーとして活躍していたがある女性レプリカントと姿を消し30年間行方不明になっていたデッカードだった。デッカードは何を知ってしまったのか。デッカードが命をかけて守り続けてきた秘密-人類存亡に関わる真実が今、明かされようとしている。

公式ホームページより)

前作「ブレードランナー」にハマった人はもう何度も見ているわけで、なおかつ「ブレードランナー」で示された『現在と地続きの退廃した未来社会』という世界観は当時から新鮮で、今ではある種のパターン、お約束とまで化している。それくらい強烈なビジュアルでした。デッカードと女性レプリカント・レイチェルの逃走という結末もその先を知りたいと思わせつつ、1本の映画として形になっていた。

なので、そんな映画の続編なんて、誰が得をするのかというハイリスク企画です。それでも期待できたのは監督が「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴだったってことです。クールなSFを見せてくれたし今作の予告編も悪くはなさそうだったし。

で、オープニングショットですよ。目のドアップ。前作と同じ。ロサンゼルスの街並みも前作を踏襲しつつ雨だけでなく雪も降らせたりしてきちんと世界観をバージョンアップさせているのに好印象。今作の主人公・Kの孤独さを雪が表してましたねー。

重苦しい低音が主体のサウンドトラックも印象的でした

難点は上映時間2時間46分という長さでしょうか。振り返ってみると「長い…!」と感じたわけではない。ただ長さの割に話の展開が中盤まで遅かったような印象がある。後半バタバタと話が進んだような。回収されない設定が出てきたのでそう思ったのかも。もっとも、前半は作品世界をじっくり楽しめたので良かったし、回収されない設定も、それは主人公Kのエピソードとは絡まないから、と理解はできているんだけど。

でも結末は語りすぎではなかったか。建物の中の描写は不要ではなかったか。デッカードとウォレスのエピソードもなくて良かった気がする。そんな場面を刈り込めばそれなりの長さに落ち着いた気がするんですけどね。

前作のデッカードがレプリカントより弱いとはいえタフさ、荒さが魅力だったのと比べ、今作のKはレプリカントでありながら繊細さ、もろさが印象に残った。自分が何者であるかへの不安、自分がどれだけ孤独かということに思いすら及ばないようだったKが変わっていく様が悲しく切ない。演じたライアン・ゴスリングが良かったですね。Kを支える立体映像の女性の名が「ジョイ」でKと闘うウォレス社の女性レプリカントの名が「ラヴ」なのも皮肉が効いている。

見よう見ようと思っている間に上映回数が減ったのは上映時間の長さのせいだと思うけど(その割に上映期間は長かった)、前作同様、今作ももう一度見たい、この作品世界に浸りたいと思わせる一本でした。そういう意味では誠実な続編だったと言えますね。回収されなかった設定を基にすればこの先の話も描けるのかもしれない。でもセカイの行く末ではなくあくまで一人の男のドラマを描いたのがこの2作の特徴。悲劇的結末とはいえ、今作もきちんと語りきった一本でした。