「かわいい」は省略の中にという話【鑑賞「原田治展 かわいいの発見」】

みやざきアートセンターで2024年1月28日まで開催中の「原田治展 かわいいの発見」見てきました。

ミスタードーナツの景品やカルビーポテトチップスのパッケージに描かれたキャラクターで有名なイラストレーター。「anan」創刊時からイラストを描いて注目を集め、その後の活躍は先述の通り。ある一定の世代から上は「知ってる」「持ってた」「持ってる」という馴染み深い人です。

制作の際は「かわいいの中に寂しさや切なさを隠し味として入れていた」とのこと。その絶妙な塩梅を、お手本にしていたアメリカンカルチャーの中に感じ取ったんでしょうねぇ。依頼主の要望に応じて5種類くらいのパターンで絵を描き分けられたそうだから、才人はやはり違う。子供の頃に描いた風景画からして「これくらい描けたら気持ちいいだろうなぁ」と思ってしまう上手さ。晩年住んだ離小島のアトリエも素敵でした。省略の美を感じた展覧会でした。

いつかは終わる話【映画「Perfect Days」】

映画「パーフェクトデイズ」見てきました。決して裕福ではないけれど自分で選んだ生き方をしている人は魅力的に見える(けれど…)という話でした。

役所広司演じる「平山」はトイレ清掃員。都内の古いがこざっぱりしたアパートに住み、仕事のある日もない日も規則正しく生活する。そんな彼の周りでもちょっとした変化はあり、彼の心中も揺れ動く…。

ぱっと見は貧乏そうな平山だが、整然とした部屋で古い小説や洋楽を好む彼の暮らしぶりからは、「育ちのよさ」を感じさせる。頑固に自分の世界に閉じこもるのではなく、仕事中フッと木漏れ日を見つめる心の余裕もある。周囲の人と必要最低限(ホントに最低限)のコミュニケーションもある。話が進むにつれ、何か過去に辛い体験があり今の暮らし(パーフェクトデイズ)を選んでいるようだ、と伝わってくる。

そんな日々がいつまでも続くのだろうか、続かないからこそこの暮らしが尊いのではないか。映像の美しさと相まって、最後はそんなことを感じさせました。

※このブログもまたぼちぼち更新したいと思います。

変化は向こうからやってくる話【書評「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか?」】

2018年の春節(旧正月)は2月15〜21日。大勢の観光客が中国から日本に来たようです。地元でも日本語圏以外のアジア人観光客が増えてるなー、という印象があるこの頃、受け入れる側とやってくる側、双方に目を配った誠実なノンフィクションでした。

【内容紹介】
流行語大賞で経済用語部門で唯一ノミネートされた「爆買い」――。日本の観光地から、新宿、銀座、梅田、なんば、名古屋栄、札幌、博多……といった商業都市に中国人旅行者が殺到し、ドラッグストア、家電量販店、コンビニはもちろん、空港、高級ホテルからビジネスホテル、流行レストランまでその来客数はすさまじいものになっている。「爆買い」効果で街の商店から一部上場企業までが恩恵を受けることになったが、いったいこの「現象」はブームで終わるのか、それともここしばらくは続くのか?中国取材29年のベテランジャーナリストの著者が、消費を享受する中国人から「インバウンド消費」に湧く日本の関係者までを丁寧に取材し、「爆買後」いったいどうなるのか、を予測すべく現場を歩いた。
【著者紹介】
中島 恵(なかじま・けい)
1967年、山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、96年よりフリージャーナリスト。中国・香港・台湾など、主に東アジアのビジネス事情、社会情勢等を新聞、雑誌、インターネット上に執筆。
著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中央公論新社)などがある。

Amazonの著書紹介ページより)

著者の基本的なトーンは「(中国人が)自分の目で日本を見て、日本人の優しさやサービスに直接触れれば、少しずつ誤解は減り、反日的な感情は必ず薄らいでいくのではないか」というもの。電化製品や日用品まで日本製への信頼、ホテルスタッフの振る舞いなどに代表されるサービスなどが中国人の心を掴んでいるほか、所得や資産を持った中国人の中には日本の病院で検診を受けたい人、終の住処を日本にする人もでてきたそうだ。モノからコトへ、中国人観光客の関心も移っているようだ。

爆買いまでは過去の日本人も通って来た道ですが、その後は違う道が待っているようです

一方で「爆買い」に対応するためバスの手配に追われたり、日本のマナーを伝えるのに苦労する日本人側の話もある。その中で東京・銀座の商業者が「(観光客の)ベースが増えれば自然と消費行動も変わる。自ら“育っていく”ようになる。だからベースが増えるのは大歓迎」「もし中国人客が全然来なくなったら?その時は元に戻せばいい」といっていたのが印象に残った。

ちょっと論点がずれるが、銀座の基本姿勢についても印象深い発言があった。大手海外ブランドの旗艦店が続々進出したことを受けて

「銀座が目指しているのは“対立”ではなくて“共存”なんです。強い勢力が出てきたら、それをだしにして、2軒目はうちに来てもらおうと…。そういう努力をする気概があるのが商売人というものです。力があるものを排除しようというのは、銀座の精神ではないのです」

…これはもちろん、自動車社会である地方都市の商業圏には単純に当てはまらないかもしれない。でもこういったしたたかな気概はなんだか応援したくなる。

中国人のマナーの改善も驚くほど早い、とも著者は言う。実際、今年も悪天候で飛行機が飛ばなくなった空港で抗議する中国人団体客の振る舞いに対し、出来事を知った同じ中国人が批判の声を上げるというニュースがあった。

先日紹介した「わかりあえないことから」で隣国同士はたいてい仲が悪く、その理由は「文化が近すぎたり共有できる部分が多すぎて摩擦が顕在化せず、『ずれ』がつもりつもって抜き差しならない状態になったときに噴出し衝突する」という仮説を述べていた。微妙な文化の違いがかえってイラつかせる。バンドが解散するときの「音楽性の違い」ってやつに似てますね。でも解散するバンドとは違い隣国同士の個人レベルの付き合いは、深まるにつれ良い方向に変わる可能性があるようです。

アジア圏の観光客をショッピングモールや街角、観光地で見かけることは増えた。買い物だけでなく、日本の暮らしそのものを評価して海外から訪れる人も増える、と著者は予想する。日本では民泊の解禁も間近。国際交流とは外国人に会いに行くこと、と思っているのはもう古い。向こうから会いにくる時代が来たのだ。それを脅威に捉えるのではなく、どうせなら自身への変化のきっかけにもしたい、と前向きに思わされる一冊でした。

「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?―中国人のホンネ、日本人のとまどい
中島 恵
プレジデント社
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社交性は嘘から生まれる話【書評「わかりあえないことから」】

鳩山由紀夫内閣で内閣官房参与に就任、所信表明演説のスピーチライターも務め、演説の文言「いのちをまもりたい」が話題になった劇作家の本。タイトルに惹かれて買ったはいいものの、読む前は正直薄っぺらい理想論が綴られているのだろうと思っていた。いやいやどうして、骨太の読み応えある本でした。

【内容紹介】
【新書大賞2013第4位】 日本経団連の調査によると、日本企業の人事担当者が新卒採用にあたってもっとも重視している能力は、「語学力」ではなく、「コミュニケーション能力」です。ところが、その「コミュニケーション能力」とは何を指すのか、満足に答えられる人はきわめて稀であるというのが、実態ではないでしょうか。わかりあう、察しあう社会が中途半端に崩れていきつつある今、「コミュニケーション能力」とは何なのか、その答えを探し求めます。(講談社現代新書)
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
平田オリザ
1962年東京都生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。現在、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。二〇〇二年度から採用された、国語教科書に掲載されている平田のワークショップの方法論により、多くの子どもたちが、教室で演劇をつくるようになっている。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

Amazonの著書紹介ページより)

一度舞台を観たくなりました

著者の作、演出の舞台は見たことはないんだけど、この本を読む限り劇作家として当初は既存の評価軸に収まらず苦労された様子。そこから独自の演劇スタイルを組み立て、コミュニケーションとの関連、教育との関連についても思索を深めたようだ。

まず著者は、今の子供たちはわかりあう、察し合うといった温室の中のコミュニケーションで育ったため「伝わらない」という経験が不足している。そのため、伝える技術をいくら教えても意味がないと説く。でありながら、成長し社会に出るにつれ急に異なる意見を持った人と付き合う必要が出てくるので、それに対処できないという。子供のうちに異なる意見の人との付き合い方を学ぶ必要があるという。

そこで「常に他者を演じる」演劇の出番になる。

「無理に自己を変えるのではなく、自分と演じるべき役柄の共有できる部分を見つけていくことによって、世間と折り合いをつける術を子供たちは学んでいる」

著者のコミュニケーションの定義は「きちんと自己紹介ができる。必要に応じて大きな声が出せる」程度のこと。「慣れ」のレベルだが「慣れも実力のうち」と厳しいことも言う。

「いい子を演じることに疲れない子供を作ることが、教育の目的ではなかったか。あるいは、できることなら、いい子を演じるのを楽しむほどのしたたかな子供をつくりたい」

なんて、既存の理想論ぽいことをずらしながらも教育の本質に迫る言葉だと思う。

子供の頃は「ごっこ遊び」などで自分とは違う存在に変身する面白さを感じていたはずなのに、教育を受ける頃になると自我の確立、「本当の自分」を探すことが求められ、一方で協調も必要になる。結果、「扮する」ことは嘘をつくことと似た意味になっているような気がしてきた。

しかし著者は演劇を通して扮することの重要性を改めて説いている。そこから社交性、様々な意見をうまくまとめるリーダーシップにもつながるという。

空気を読んで他者を忖度する、のとは違う。自分を少し手放し他者との接点を探る。今から舞台に立つことはないだろうけど、立ったつもりで日々を送ってもいいのかもしれない。

僕らはみんなドラマチックな話【鑑賞「THIS IS US」】

いやぁ…(溜息)。シーズン1全18話、やっとの思いで見終わりました。

【作品紹介】
恋愛、家族、仕事…。人生の岐路に立つ36歳の男女のせつなく心温まる物語。生きているって大変だけど、すばらしい! 国を超えて誰もが共感でき、勇気づけられる! 涙と笑いと感動のヒューマンドラマ。アメリカで大ヒットした話題作が日本初登場!
誕生日が同じ36歳の男女3人。自分が演じる役に嫌気がさしているイケメン俳優、“脱肥満”を目標に努力する女性、幸せな家庭を築いているエリートビジネスマン。置かれている状況も性格もまったく異なる彼らには、同じ誕生日以外にも共通点があった…。それぞれが人生の壁を乗り越えようとする中で、大切なものを見つけだす。そして、3人の運命の糸がたぐりよせられる。
日本語版でケヴィンの声を演じるのは、海外ドラマ吹き替え初挑戦の高橋一生。

NHKオンラインより)

最近海外ドラマ見てなかったなー、と軽い気持ちで第1話を見たらいきなり打ちのめされた。何に打ちのめされたかというと、劇中ショッキングなエピソードやドラマチックな場面が起こらなかったにも関わらず感動しちゃったことに打ちのめされたのだ。

綴られるのは「(アメリカのドラマなので)こんな出来事はアメリカのどこかで起こってそうだなー」という複数のエピソード。一見するとそれぞれ地味な内容。そんな複数のエピソードが最後で重なった途端、非常に劇的な感動を呼ぶ。登場人物の台詞に味わいが増す。構成の妙ですね。普通の話しか語られていないのにジーンとしてしまうので、見終わると毎回ぐったりしてしまうw。なので見るのには気合が必要。複数回続けて見るのは無理でした。

海外ドラマとしては地味だけど、日本のドラマと比べるとリッチな内容だな、とは思う。日本なら登場人物の独白で済ませそうなところを一本のエピソードとして描くのだから。出演者がその分増えるし撮影も必要だ。でもその分、普通のドラマなら一度限り登場のチョイ役と思われる人のバックグラウンドも描かれ、ドラマに厚みが増しているのだ。色々な人が生きているんだよなぁという当たり前のことを再認識させてくれる。

各エピソードの繋げ方も自然で、それが見る側にいい緊張をくれる。上質な映画を見ているかのような気分になる。日本のドラマなら字幕や編集でつなぎ目をはっきりさせがちな気がするけれど、見る側に親切すぎやしないかな。親切すぎると感動の押し付けにも繋がるんだよねー。

このドラマの登場人物はみなどこかにいそうな人だし、主な舞台もドラマが起こりそうな病院や捜査機関ではない。ましてやゾンビや宇宙人など出てこない。それでもこのドラマを見てしまうと否応でも自分の暮らし、人生も振り返ってしまう。今の自分があるのも過去のちょっとした出来事の積み重ねで、自分の人生も見方によっては結構ドラマチックなのかも、と。

アメリカでも評判でシーズン3までの製作が決まり、現在シーズン2が放送中。日本でも早く放送してくれー。

骨格を変えにかかった話【鑑賞「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」】

賛否両論だった本作。個人的には◎でした。そんなにダメだったかぁ?

【作品紹介】
前作『フォースの覚醒』は銀河の独裁をもくろむファースト・オーダーと、それに抵抗するレジスタンスが戦う世界。描かれたのは、フォースを巡るドラマであり、ジェダイ騎士唯一の生き残り、ルーク・スカイウォーカーを探し求める冒険だった。ラストシーンで、万感の思いを込めてルークにライトセーバーを差し出すレイ。彼女をじっと見つめるルーク。そこに言葉はない。観る者の胸を感動で満たし、同時に様々な想像をかき立てずにはいられなかった、このラストシーン。――そして物語は、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』へと受け継がれる。
『フォースの覚醒』の興奮はそのままに、戦慄の予感に満ちた『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』が幕を開ける。

公式サイトより)

否定する人たちの言い分もわからんではないのです。レイアが助かるあの能力はいかがなものかとか、中盤からレジスタンスを指揮するホルド提督が撤退作戦の意図を語らない理由がなかったとか、ベニチオ・デル・トロ演じるDJがあまりにチョイ役とか、フィンのエピソードは全く本編と絡まなかったとか、ファースト・オーダー最高指導者スノークのあまりにあっさりした退場とか。

ただ鑑賞しながら思ったのは、今作で「スター・ウォーズ」シリーズは骨格を変えにかかったな、ということ。これまで基本的に「スカイウォーカー家の物語」だったものを変えにかかっている。それは「フォース」とよばれる一種の才能を巡る解釈の変更でもある。

今作もフィンが良かったなぁ。

フォースを使いはじめたレイがスカイウォーカーの血筋とは無縁なこと、最後のシーンでレジスタンスの指輪をもらった無名の少年がフォースの片鱗を見せることなど、今作では「フォースを一番うまく使えるのはスカイウォーカー家」という暗黙の設定を崩そうとしている。旧シリーズのキャラクターから今シリーズのキャラクターたちへ、シリーズにおける主役交代をするために、シリーズの骨格から変えようとしていると感じたのです。

それは中盤、「エピソード6で見たぞこんな場面」という、スノークの御前でのレイとレンの対決で頂点に。そこからのストーリー展開はもう過去の作品をなぞるようなシリーズにはしない、という決意を感じさせました。

レジスタンスの逃走作戦という本筋に全く絡まなかったフィンのエピソードも、個人的には「1本で2度美味しいなこれ」と悪くない印象を持った。一連のマーベル映画(MCU)が別々の映画を絡めて一つの世界観を作るように、今作は1本の映画で作品世界を広げようとしているとみた。今作の見所はフォースの使い手も含む様々な立場の人が奮闘する、と思ったのです。スピンオフ作品「ローグ・ワン」にも通じますね。

そしてクライマックス。ルークがついにファースト・オーダーの前に登場した場面では「もういい!ここで終わって続きは次回で!」とゾクゾクしながらも話がまだ進む高揚感を味わいました。

次が一応の完結編ということですが、テロップで出るキャリー・フィッシャーへの追悼メッセージが泣ける。ソロが退場した前作、ルークが退場した今作に続いて、本当は次作で退場してもらうことでシリーズが新世代中心のものになる…のが一番綺麗な完結だったのだろうけど。シリーズに新しい風を入れようとした今作の挑戦精神にはエールを送ります。次も楽しみだ。

何でもありだが軸はある話【鑑賞「バーフバリ 王の凱旋」】

バッカじゃないの?と画面にツッコミながらも胸が熱くなる、映画の醍醐味を堪能しました。

【作品紹介】
インド映画史上歴代最高興収を達成、日本でも限定公開ながら噂が噂を呼び異例のロングラン・ヒットを記録、多くのファンを熱狂させた驚異のアクション・エンタテインメント「バーフバリ 伝説誕生」。その待望の続編にして完結編、それが「バーフバリ 王の凱旋」だ。公開以来、インド国内興収歴代1位をはじめ前作のすべての記録を塗り替え現在も記録更新中、今も全世界で旋風を巻き起こしている話題作である。
古代インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」をベースに創造された神話的世界。数奇な運命に導かれた伝説の戦士バーフバリ。宇宙最強の愛と復讐が、ここに想像をはるかに超えた興奮と感動のフィナーレを迎える!

公式サイトより)

近くの映画館では前編「伝説誕生」と同時上映もしていたのだけど、いざ観に行こうとしたらこの完結編だけの上映にスケジュールが変わってた。完結編の前に前編のダイジェスト版が上映されるとはいえ、全体を見る機会を逃したな…と思っていたらデジタル配信が始まっているじゃありませんか。iTunesStoreとAppleTVが役に立ちましたよ。配給会社も考えてますねー。

偉大な人物の息子も偉大かというと…いや、そこをツッコムのは野暮なのだ!

インド映画は「ムトゥ 踊るマハラジャ」くらいしか知りません。ムサいおっさんの主人公が必要以上に歌って踊るコテコテ感が印象に残ってました。今作も主人公はクドい。しかしヒゲ面のおっさんがなぜ主役を張れるのか、という点を乗り越えてしまえば、あとはめくるめくなんでもありの幻想世界。主人公バーフバリを讃える歌は冒頭から最後までことあるたびに流れまくり、ことあるたびにスローモーションでキメにかかるので「シヴァ神がついているバーフバリは何でもできるのだ!『んなことできるわけねーだろ』と突っ込むお前ら観客がむしろ間違っているのだ!」と何度も説得されます。

まぁ前編「伝説誕生」を見て臨んだのでこの作品への免疫はついている、はずだったのだが今作冒頭、バーフバリの登場する場面はやっぱり大爆笑(&心の中で大拍手)。「だから一人でXX(自主規制)できるわけねーだろ!」とツッコミつつ「来た来た!待ってました!」という感じです。

とまぁアクションの奇抜さとケレン味のくどさがこの映画の見所ではあるんだけど、ストーリー自体は決して奇抜ではない。前編で国を守った知的で力強い女王が、今作では色々と間違った判断をし悲劇につながるのだけど、そこに説得力がある。キャラクターの行動にツッコミを入れたくなることはないのです。オーバーでクドいアクション描写にだけツッコミを入れたくなるのです。ツッコミつつ拍手を送ってしまうのです。「何でもあり」の基準がしっかりあるんですよね。

惜しむらくはこの作品、国際版だったこと。インド国内版は前後編とも国際版より30分ほど長いらしい。一度見てしまうとどうしても国内版が見たくなる。前編同様、今作ももうすぐソフト化されるのだけど、完全版のリリースも期待したいぞ。エンターテイメントってこういうことだよなぁ。

アクションは切れ、余韻は残る話【鑑賞「キングスマン:ゴールデン・サークル」】

大人のアクション映画、今回も全開でした。

【作品紹介】
表の顔は、ロンドンの高級テーラー。その実態は、どの国にも属さない世界最強のスパイ機関だった!全世界が熱狂した「キングスマン」から2年。イギリスから世界に飛び出して、キレッキレの超絶アクションもギミック満載のスパイ・ガジェットも常識破りのパワーアップ!前作メンバーはそのままに超個性的な新キャラクターを加え、またもや世界をブッ飛ばした最新作がやってくる!
【ストーリー】
世界的麻薬組織ゴールデン・サークルの攻撃により壊滅したキングスマン。残されたエグジーとメカ担当のマーリンは、バーボン・ウイスキーの蒸留所を経営するコテコテにアメリカンな同盟・ステイツマンと合流。さらに死んだはずのハリーまで現れる!一方、上品な見た目に反して超サイコなゴールデン・サークルの女ボス・ボビーは世界中の麻薬使用者を人質にした驚愕の陰謀を始動させていた。一流エージェントに成長したエグジーの前に現れたハリーの秘密とは?エグジーは敵の陰謀を阻止することができるのか?

公式サイトより)

予告編でもちらりとでたように、今回もスタイリッシュな英国紳士がちょっと過激に活躍する話。その過激具合がマンガ的なのも前作同様。良識的な人は眉をひそめるような場面や展開が続出するので見る人を選ぶ一本ではあります。

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選曲がハマっているのが素晴らしい。

でもプロローグでプリンス「レッツ・ゴー・クレイジー」(フィギュアスケート羽生結弦選手がショートプログラムで採用した曲)にのせて派手なアクションシーンが繰り広げられると「もうどーでもいいやー最っ高〜」と楽しめてしまうのです。クライマックスのアクションシーンで流れる曲はキャメオ「ワード・アップ」だし。登場人物に気持ちを寄せてハラハラドキドキするより、客観的に非現実的なアクションを楽しめばいいわけですよ。エージェントたちが使う武器もマンガ的だし。傘ライフルは前作にも登場したけど、今作で登場したアタッシュケースも最高。ミサイルだけかと思ったら(爆笑)。バカみたいな武器で大真面目に戦うズレっぷりがいいですね。

このシリーズのズレは小道具だけでない。一般的な映画とくらべてもズレがある。特徴的なのは「キングスマン」メンバーがかなりあっさり「退場」すること。前作も今作も「キングスマン」のリーダーは消えるために登場するようなもので、「キングスマン」に危機が来たと表現する以上のものはなし。同僚たちも地味に姿を消す人が目立つ(見せ場がある人もいるけど)。それが「えっこの人、もう登場しないの…?」という喪失感やスパイ組織の非情さ描写にも繋がってはいるのだけど。そもそも前作はイギリスにおける階層間のズレ、今作はイギリスとアメリカの文化のズレ、を描写しているし。

で最もズレているのは今作の敵描写ですよ。麻薬組織「ゴールデン・サークル」のボスが悪い奴なのは当然としても、その陰謀に賛同する人物、むしろ利用しようとする人物も登場してきて何が善か悪かあいまいになっていく。主人公たちの行動は弱い人を助けるという意味では一貫しているけれど。観客ひとりひとりがドラッグというものをどう見るかによって、結末の解釈はズレまくる気がします。そこも狙って作られたのかな…だとしたら、なかなかの確信犯です。

次作への引きを残しつつ一件落着めでたしめでたしっぽく終わってはいるものの、ウイスキーをロックで飲んだかのようになかなか酔いが冷めない一本でした。

物語が人を救う話【鑑賞「クボ 二本の弦の秘密」】

日本の文化や風習をもとに紡がれた普遍的な物語が良かったですね。

【作品紹介】 アカデミー賞で『ズートピア』と共にノミネートされ脚光を浴びた本作。数々の傑作を送り出してきたスタジオライカが今回テーマに挑んだのは、古き日本の世界。情感あふれる日本の風景や風習を息を飲む美しさで描く壮大な旅絵巻は、呪いや犯した禁忌の代償など日本の寓話をベースに、大人にこそ観てほしい胸打つドラマとなっている。驚異の技術と超豪華ハリウッド声優陣で贈る圧巻のストップモーション最新作、遂に上陸!
【ストーリー】 三味線の音色で折り紙に命を与え意のままに操るという、不思議な力を持つ少年・クボ。幼い頃、闇の魔力を持つ祖父にねらわれ、クボを助けようとした父親は命を落とした。その時片目を奪われたクボは最果ての地まで逃れ母と暮らしていたが、更なる闇の刺客によって母さえも失くしてしまう。父母の仇を討つ旅に出たクボは、道中出会った面倒見の良いサルと、ノリは軽いが弓の名手のクワガタという仲間を得る。やがて自身が執拗に狙われる理由が最愛の母がかつて犯した悲しい罪にあることを知り──。かつて母と父に何があったのか?三味線に隠された秘密とは? 祖父である〈月の帝〉と相対したとき、全ては明らかとなる──。

公式サイトより)

話が進むにつれ、この映画が人形をコマ撮り撮影した「ストップモーションアニメ」というのに気づかなくなってくる。いったいどう撮影したのかわからない場面もあるし。でも思い出せば3Dアニメとは違う独特の空気感があるんですよね。

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宮崎でも公開延長になりました

大陸風のデザインも取り込んだ異国籍な作品世界ではあるけれど、ベースは折り紙や灯籠流しなど日本の文化、風習。がしゃどくろのようなモンスターも登場する。折り紙が動き出すビジュアルの面白さはストップモーションならではの面白さだし、灯籠流しに代表される死者の追悼は作品のテーマに通じている。死者を悼むとき、そこには死者への解釈、物語があるわけです。

クボが折り紙を動かして語るのは父親の物語。物語を語ることで、人は過去をどう語るか、過去への視点を自ずと選んでいることがわかってくる。全ての戦いが終わった後、月の帝に降りかかる出来事は弱者である民衆の知恵、では穿った見方か。でも人を救うには真実だけでは足りない、ということがはっきり伝わる名場面。

クボたちと闇の姉妹が戦う様もアクションシーンとして十分楽しめる出来。サブタイトルの「二本の弦の秘密」もなるほど、と唸らされる。クボが持つ三味線も意味があったわけで。親子の情も合わせ、フィクションの持つ力を感じる一本でした。

クールに結集した話【鑑賞「ジャスティス・リーグ」】

公開からずいぶん日が経ちましたが。DCの新展開、楽しめました。

【作品紹介】
スーパーマン亡き後の世界。宇宙から侵略の魔の手が迫っていた。もう一人のヒーロー、バットマンは世界滅亡の危機をいち早く察知。一人の正義じゃ世界は救えない–バットマンの超人スカウト作戦が始まる。集められたのはオンリーワンな能力を持った4人の超人たち。突き抜けたチカラがつきぬけたチームをつくる!超にもほどがある連係プレイで強大な敵に立ち向かう-これぞまさしく正義のために戦う最強のリーグ(仲間たち)!倒すべき敵はステッペンウルフ。三つ揃えると強大な力を手にすることができる「マザーボックス」を集め地球制服をたくらんでいる。果たしてジャスティス・リーグは力を合わせ、世界を救うことができるのか!「バットマンvsスーパーマン」のザック・スナイダーが監督、「アベンジャーズ」の監督ジョス・ウェドンが脚本!

公式サイトより)

「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」では第3の超人・ワンダーウーマンがいきなり登場して一瞬「?」となった。その中でも存在を匂わせていた3人、フラッシュ、アクアマン、サイボーグが今回登場。ワンダーウーマンのように説明もなく登場したらツラいなぁと思っていたけれど、今回はそれなりに彼らの背景を紹介してくれたので助かりました。作り手側も説明が必要だと思ったのかなー。

新キャラの単独作も期待。

原作アメコミとの比較ではアクアマンを変えてましたね。アメコミでは金髪短髪の爽やかイケメン風なのに今作ではずいぶんとワイルド。メンバーの中ではフラッシュがちょっと格下でムードメーカーなのがよかった。彼の戦い方も悪くない。ただでさえ一体感のなさそうな一団の中でメンバーを繋げる役割になっていた。

今作はテーマ曲「カム・トゥゲザー」や英語の宣伝文句「UNITE THE LEAGUE」「YOU CAN’T SAVE THE WORLD ALONE」など全面にクールな雰囲気があった。とくに「YOU CAN’T SAVE THE WORLD ALONE」は各メンバーのシンボルマークを各語に振った凝ったもの。マーベル映画との差別化を感じましたね。

で、その「YOU CAN’T SAVE THE WORLD ALONE」の中でバラしていたスーパーマンの存在。今作で予想通り復活するわけですがその場面がちょっと長かったし、復活したスーパーマンが結局ずば抜けて最強で、彼一人いれば他のメンバーは不要じゃないの?とも思えちゃうのが難点ではありました。

とはいえ冒頭のワンダーウーマン様のご活躍にハートを鷲掴みにされるし、バットマンは今回も豪快なマシンで暴れるし、とお祭り映画として十分楽しめました。サイボーグも意外と「役に立つ」存在だったし。音楽の話題として、ティム・バートン版バットマンのテーマ曲がちらりと流れたのも書き残しておきたい。そういったキャラクターごとのテーマ曲をもっと掘り下げてくれると楽しいのになー。全米の興行成績は今ひとつだったそうだけど信じられんなー。このメンバーでもう1本見たいぞ。