衝動は理屈じゃない話【鑑賞「夜明け告げるルーのうた」】

全国公開時は見られなかったのだけど再上映の機会がありようやく見ることができました。楽しい作品でしたねー。

【作品紹介】
ポップなキャラクターと、ビビッドな色彩感覚。観客の酩酊を招く独特のパースどり(遠近図法)や、美しく揺れる描線。シンプルな“動く”喜びに満ちたアニメーションの数々。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞した『マインド・ゲーム』(04年)で長編監督デビュー以降、鬼才・湯浅政明の圧倒的な独創性は、国内外のファンを魅了してきた。そんな湯浅が満を持して放つ、はじめての完全オリジナル劇場用新作。それが『夜明け告げるルーのうた』である。
「心から好きなものを、口に出して『好き』と言えているか?」同調圧力が蔓延する現代、湯浅が抱いたこの疑問がこの物語の出発点だった。
少年と人魚の少女の出会いと別れを丁寧な生活描写と繊細な心理描写で綴りながら、“湯浅節”とも呼ぶべき、疾走感と躍動感に溢れるアニメーションが炸裂する。1999年に発表された斉藤和義の名曲「歌うたいのバラッド」に乗せ、湯浅政明がほんとうに描きたかった物語が今、ここに誕生する。
【ストーリー】
寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイは、父親と日傘職人の祖父との3人で暮らしている。もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって父と母の故郷である日無町に居を移したのだ。父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。
ある日、クラスメイトの国夫と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われる。しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが3人の前に現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルー。カイは、そんなルーと日々行動を共にすることで、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。
しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらす存在。ふとしたことから、ルーと町の住人たちとの間に大きな溝が生まれてしまう。そして訪れる町の危機。カイは心からの叫びで町を救うことができるのだろうか?

公式サイトより)

まず印象に残ったのは音楽。映画はカイがサンプラーで作曲する場面から始まるのだけど、その曲がいい。この作品が音楽(リズム)を鍵にした内容だと印象付ける。

そしてカイも含めルーの歌を聞いた人々が足からリズムをとる様の不思議さ。足と頭が切り離されたかのように足が勝手にリズムを刻みだし、全身をぐにゃぐにゃにして踊りだす。ここが中盤の見せ場でしたね。

キャラのデフォルメもカワいくないのがよかったですね。

監督の作品ではテレビアニメ「四畳半神話大系」を見ました。文系ネクラ男子大学生の妄想と日常が暴走する様を主人公の高速ナレーションと極端に遠近感をつけた構図で描いており、非常にインパクトがありました。今作の主人公カイも根暗な男の子なのですが、クラさがユーモアにつながっていた「四畳半神話大系」と比べると正真正銘暗い。カイは周囲の人々と良好な関係を結べていないんですね。

そんな中、友人たちからバンドに誘われ、人魚のルーに出会う。友人たちの常識的な好意に加え、ルーも「好き!」と思いを真っ正直にカイに伝える。紆余曲折がありながらもカイが気持ちを込めた歌を歌うのがクライマックスになるわけです。

この「紆余曲折」が今作のちょっと弱いところかもしれません。何がどうなったかちょっとわかりにくい部分が散見される。大筋としてのストーリーは語られても細かい箇所で「?」となる部分があるんです。中盤登場するルーのお父さんがあんなにあっけなく受け入れられるの変じゃない?とか、ある場面でふさぎこんでた登場人物が次の場面でけろっとしている様に見えるんだけど?とか。人魚と人間たちが対立するきっかけになる事件の描写があっさりしすぎてないか?とか、終盤で舞台の日無町にだけ起こる事象の説明ってありましたっけ?とか。

それでもキャラクターだけでなく背景もぐるんぐるん動かして観客を掴みラストまで持っていくダイナミックな力量にやられます。細かい部分の整合性より勢いで勝負、という感じでしょうか。ルーたち人魚と人間の関係の顛末も驚くくらいさらっと済ませる。そこじっくり描けば泣ける場面になりそうなのに。でも描きたいのは顛末ではなくカイの成長なんですね。全てが終わり町が(文字通り)明るくなったのは、カイの心境ともシンクロしている様でもありました。

一方で思い返すと人魚と人間の間には死の影が付きまとっているのも忘れがたい。あくまで「影」。超えられない壁として、死に似た「影」。人魚と人間の関係を別のものにも置き換えられそうでもあり余韻を残します。

原作のないオリジナルストーリーでキャラクターデザインも少し幼い雰囲気。劇中の場面のショットなどを見る限り子供向けの地味な映画と思っていたのですがとんでもない。老若男女全ての人を捕まえて離さない快作でした。