味わいは複雑な話【鑑賞「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」】

一筋縄ではいかない厳しいビジネスの世界を垣間見る話でした。

【作品紹介】
世界最大級のファーストフードチェーンを作り上げたレイ・クロック。日本国内でも多くの起業家たちに、今なお絶大な影響を与え続けている。50代でマック&ディック兄弟が経営する<マクドナルド>と出会ったレイが、その革新的なシステムに勝機を見出し、手段を選ばず資本主義経済や競争社会の中でのし上がっていく姿は、まさにアメリカン・ドリームの象徴だ。手段を選ばず資本主義経済や競争社会の中でのし上がっていくレイと、兄弟の対立が決定的になる過程は、どこか後ろめたさを感じながらも、スリルと羨望、反発と共感といった相反する複雑な感情を観る者に沸き起こすに違いない。
熱い情熱で挑戦を続け、世界有数の巨大企業を築き上げた彼は英雄なのか。それとも、欲望を満たす為にすべてを飲み込む冷酷な怪物なのか。野心と胃袋を刺激する物語。

【ストーリー】
1954年アメリカ。52歳のレイ・クロックは、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回っていた。ある日、ドライブインレストランから8台ものオーダーが入る。どんな店なのか興味を抱き向かうと、そこにはディック&マック兄弟が経営するハンバーガー店<マクドナルド>があった。合理的な流れ作業の“スピード・サービス・システム”や、コスト削減・高品質という革新的なコンセプトに勝機を見出したレイは、壮大なフランチャイズビジネスを思いつき、兄弟を説得し、契約を交わす。次々にフランチャイズ化を成功させていくが、利益を追求するレイと、兄弟との関係は急速に悪化。やがてレイは、自分だけのハンバーガー帝国を創るために、兄弟との全面対決へと突き進んでいくー。

公式サイトより)

印象に残っているのは冒頭、レイが車にサンプルを積み、一人アメリカ大陸を駆け抜けて一軒一軒のドライブインでミキサー機を売る様子。またマクドナルドのフランチャイズを始めるにあたり、自身が加入していたゴルフ倶楽部の会員たちに投資を持ちかけたものの、会員たちが経営する店はレイの理想と程遠いものだったため彼らと決別し一人でフランチャイズ事業を進めるエピソードも忘れがたい。

平凡なセールスマン、事業家とは違うレイのガッツを感じさせる。理想のビジネスを実現するには従来の人間関係を断ち切っても構わない(「新しい友人を作ればいい」といったセリフがあったな確か)、変化を恐れない姿がある。

人間として全否定できにくいのが悩ましい。

だからこそマクドナルド兄弟やレイの妻の顛末はやるせない。マクドナルド兄弟は事業を考案したにもかかわらず「マクドナルド」という店の名前まで奪われてしまう。レイの妻は事業の助けになればと彼を倶楽部に誘いテーブルトークで売り込みのタイミングをさりげなく促すなどしたのに捨てられてしまう。

ではマクドナルド兄弟は愚鈍なのか。そうは思わせないのが今作の憎いところ。変化を恐れなかったのは彼らもそうだったのだ。映画産業に携わり映画館事業につまづいた後に新しい形態のハンバーガービジネスを考案し、実店舗として成功させる。マクドナルド兄弟がレイに語るこれまでの歩みは、それだけでも立派なアメリカン・ドリーム、成功譚なのだ。

だが兄弟の夢の本当の可能性を、兄弟より気づいていたのがレイだった。レイとマクドナルド兄弟、根本では同じ気質があったのだ。しかし描いた夢の大きさは決定的に違っていた。

またビジネスで巨大な成功を収めたレイが金にだらしない男としては描かれないのも興味深い。レイが妻と別れ、ビジネスパートナーの男性の妻を横取りして再婚するエピソードはあるのだが、それはレイが女にだらしない、のではなく、仕事を広げていく上での考え方の違いとして描かれる。レイはあくまでビジネスの規模を拡大することだけに長けている人間なのだ。その結果、彼についていけない人は振り落とされてしまう。

ビジネスにおける発明家と事業家の違いを考えさせられる。自分のアイデアを大事にする発明家、アイデアを広げることを大事にする事業家。アイデアの核は何か、という点を突き詰めておけばレイとマクドナルド兄弟の決裂はなかったかもしれない。レイはビジネス界のヒーローかもしれないし、人を蹴落として成功を掴んだワルかもしれない。自分はレイによりそうのか、マクドナルド兄弟によりそうのか。人によって見方は変わる、複雑な味わいの一本でした。