遊びが世の中を良くするかもしれない話【書評「気づいたら先頭に立っていた日本経済」】

「日本スゴイ本」のようなタイトルですが似て非なるもの。中身は(前向きに)考えさせられる本でした。

【内容紹介】
金融を緩和しても財政を拡大してもデフレは一向に止まらない。それは先進国に共通した悩みである。しかし悲観することはない。経済が「実需」から遊離し、「遊び」でしか伸ばせなくなった時代、もっとも可能性に満ちている国は日本なのだから。ゲーム、観光、ギャンブル、「第二の人生」マーケットと、成長のタネは無限にある。競馬と麻雀を愛するエコノミストが独自の「遊民経済学」で読み解いた日本経済の姿。
【著者について】
吉崎達彦 双日総合研究所チーフエコノミスト。1960年富山県生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、日商岩井(現双日)に入社。同社調査・環境部、ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役、日商岩井総合研究所主任エコノミストなどを経て現職。「かんべえ」のハンドルネームで、ホームページ「溜池通信」にて情報の発信を続けている。

アマゾンの紹介ページより)

競馬好きで仕事や休暇で国内外に足を運んで現場を楽しむ著者ならではの考察が読んでいて楽しい。著者は一人当たりのGDPが3万ドルを超える先進国になってくると、その国が目指す豊かさは一様なものでなくなる、として、それなのに従来の尺度にこだわって「もうバブルを起こす余地がなくなった!」と騒いでいるのが「長期停滞論」ではないか、と疑問を呈する。その上で高齢化が進む先進国で「人を楽しませる産業」をどう作るかが「遊民経済学」なのだという。

「遊民経済学」は「こういう方向で日本経済を発展させていく」という骨太のストーリーになりうるものなのだ。

「どう遊ぶか」を考えたくなる本でした。

一方で「遊民経済学」=遊びの産業化=自体にもストーリーが必要、というのが読むと分かってくる。質の良いストーリーが必要な映画産業しかり、ひとり旅でもネットを通じて友達と経験を共有できるSNSしかり。地方の観光PRだって「我が郷土の良さ」を再確認しなくては始まらない。日本経済は「ものづくり」と言われてきたけど、爆買いだけでは行き詰まるんですね。

一方で「おもてなし」だけでなく、日本人一人一人がもっと積極的に旅行に行くことも大事、と著者は言う。そりゃそうだ、お金が回りませんものね。

「当遊民経済学の視点から行くと、おカネのある人はなるべく盛大に、おカネのない人もそれなりに旅行を楽しむということが、これからの経済活動にとっては重要になってくる。それはもちろん、ひとりひとりの人生を豊かなものにしてくれる行為でもある」

スマホに押されながらも、家庭用の新型機がまた出るゲーム産業はどうか。「ものづくり日本」の代名詞だった産業だと思うが、これも著者はゲーム機からスマホに進出した「ポケモンGO」を引き合いに「ゲーム機やスマホは10年もたてば産業廃棄物になってしまうが、物語の寿命は永遠である。これこそゲーム産業のすごさではあるまいか」とやはりモノよりストーリーの重要性を説く。

一人一人が熱中するものを探し、金を使って楽しむ。熱中するものは人によって違う。洋服、シガー、シングルモルトウイスキーに借金してまで金をつぎ込む人もいたのを思い出した(ちなみに著者は「遊びは量より質」「遊びは借金してまでするものではない」と言っておりますw)。

著者の言う遊びにはストーリーがついて回る。ストーリーには起承転結がある。小説や映画しかり。ゲーム、ギャンブルは「短時間で勝者と敗者を選別する」。これも起承転結。特にギャンブルには「大人の知恵」、学校の授業では教わらない暗黙知が生じる隙間がある、と著者は言う。正論にすがってリスクを回避するばかりではダメな時もある、のでしょうね。最近のメディアの主張の基本的なトーンって、そんな感じだなぁとも思ったり。

喜んだり悲しんだり、遊びを通じて自分の中に様々なストーリーを持てば、人生だけでなく社会も豊かにするかもしれない。遊びが閉塞感を打ち破るキッカケになるとしたら、なかなか痛快ですよね。

気づいたら先頭に立っていた日本経済 (新潮新書)
吉崎 達彦
新潮社
売り上げランキング: 29,113