欲望を正しく回す話【書評「迷ったら、二つとも買え!」】

「二つとも買え!」というバカっぽいタイトルに惹かれて読んだら、思いの外よかった一冊でした。

内容(「BOOK」データベースより)
「節約」「貯金」だけの人生でいいのか?思い切り無駄遣いして、センスを磨け。お金は使ってこそ、はじめて「武器」となるのだ。人生の肥やしとなる無駄遣いは、自ら進んでするべきだ。無駄遣いの喜びと“知る悲しみ”を知ることで、センスは確実に磨かれる。そして、センスよく使ったお金は、必ず何倍にもなって手元に戻ってくる。その繰り返しこそが、豊かな人生を築く礎となる。柴田錬三郎、今東光、開高健らの薫陶を受けた元『週刊プレイボーイ』編集長が伝授する「上質な無駄遣い」のススメ。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
島地勝彦
1941年生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』の編集者を長く務め、柴田錬三郎、今東光、開高健を回答者に据えた「人生相談」で一世を風靡した。82年同誌編集長に就任、同誌を100万部雑誌に育て上げた。集英社インターナショナル社長を経て、現在はエッセイスト&バーマン(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(以上、アマゾンの著書紹介ページより)

著者の買い物哲学は、次の3つだそう。

①美しいモノをみたら迷わず買え
②どちらにするかで迷ったら2つとも買え
③金がなかったら借金してでも買え

端的に言ってヒドイ。この哲学どおりの買い物を続けていたら転落人生間違いなしである。

ただデフレ解消がなかなか進まないこのご時世、「退職までに◯万円の資産が必要」とか蓄財を勧めるエコノミストも多い中、個人に社会に散財を改めて問うているのが興味深いのであります。

多くの人は、何となく漠然とした不安感を払拭しようとして、ひたすらお金を貯め込んでいるのではないだろうか。そういう人は、間違いなく不幸な人生を送ることになる。なぜなら、お金を貯めるという行為には際限がないからだ。それは、欲望に際限がないのと同じである。

日本の景気がまだ低迷しているというが、その原因は、大勢の人がお金を抱え込んでいるからだ。自分がお金を使えば、それは他の人の収入になる。こうしてお金を回していけば、いつかまた自分のところに返ってくる。だから「お金は天下の回りもの」なのだ。ブーメランと一緒である。

カネを使うのも貯めこむのも結局は「欲望」からのこと、なわけですね。ならば無駄遣いと言われようと色々なものを買えばモノへのセンスも身につくはず、と著者は言う。

すべて価格に判断基準を置くようになると、モノを選択する目がどんどん衰える。

判断力の喪失は、生きていく力を失うことと同じだ。価格重視、安いモノ大賛成という近年の風潮は、生命力を喪失させている。

著者の姿勢はマネしきれないけれど、一つのロールモデルにはなってますね
著者の姿勢はマネしきれないけれど、一つのロールモデルにはなってますね

ところで著者のいう「借金」はあくまで「身の丈にあった借金」とのこと。具体的な借り先は「家計から拝借」と「質屋」。そして著者自身「これだけの生活をするためには金がかかる。だから、わたしは72歳になったいまも必死に原稿を書いて、金を稼いでいる。年金をもらって、「あとはのんびり生活しよう」などとは、毛頭考えたことがないのである」とも書いている。

だからって年金受給を断っているわけではないんだろうが、自分の稼げる範囲で贅沢をする、贅沢のため人を頼らず自分で金を稼ぐ、という著者の姿勢は、欲望の正しい回し方をしているなあと思わされる。端的に言って粋である。その逆ともいうべき、手持ちの金は欲しいが自分で稼ごうと努力や工夫をするのは面倒、という姿勢は端的に言って野暮と言えましょう。

著者が夢中になっているのは洋服、シガー、シングルモルトウイスキー、食事などだそう。著書の中で出てくるこれらにまつわるエピソードを読んでも正直、自分の趣味とは合わない。でもまぁそれでもいいのです。

浪費というのは、別に大金を投じたから浪費というのではない。大事なのは、身の丈に合った浪費をすることである。

身の丈に合った贅沢は、人生の肥やしになる。着るもの、食べ物に対する飽くなき興味は、肌触りや食感を愉しむだけでなく、それにまつわるストーリーを追いかけることによって、自分の知識を深めるきっかけを与えてくれる。

あてもなく貯めるより、自分なりの興味や好奇心を持って意識的に贅沢をする。消費の楽しみを再確認させる本でした。いずれにせよこの著者の3つの買い物哲学、ご利用は計画的に。

迷ったら、二つとも買え!
朝日新聞出版 (2013-08-01)
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