教養が自分を深める話【書評「リベラルアーツの学び方」】

読みやすい筆致で教養を身につける意義を再確認できる本でした。

<内容紹介>
世代も国境も越えて通用する、現代を生きる知恵としての「リベラルアーツ」を、自然科学から社会・人文科学、芸術まで、学ぶ意味、方法とともに縦横無尽に語りながら、「知」の広野を駆けめぐる!ギリシア・ローマ時代にその起源を遡る、人の精神を自由にする学問である「リベラルアーツ」。本書ではそれを、実践的な意味における「生きた教養」として捉え、いまそれを学ぶべき意義はどういうものか、どのような方法と戦略で学ぶべきかを論じ、そして、いま学ぶべき「リベラルアーツ」、その具体的な書物や作品を、体系的、総合的に深く解説する。知識ではなく知恵の時代、教養のための教養ではなく、思考や行動に影響を与え、ビジネスや人生そのものを成長させていくための、本当の教養の学び方がここに。
<目次>
はしがき――リベラルアーツをあなたのものに
第1部 なぜ、リベラルアーツを学ぶ必要があるのか?
第2部 リベラルアーツを身につけるための基本的な方法と戦略
第1章 基本的な方法
第2章 実践のためのスキルとヒント
第3部 実践リベラルアーツ──何からどのように学ぶのか?
第1章 自然科学とその関連書から、人間と世界の成り立ちを知る
第2章 社会・人文科学、思想、批評、ノンフィクション――批評的・構造的に物事をとらえる方法を学ぶ
第3章 芸術――物事や美に関する深い洞察力を身につける
あとがき――リベラルアーツが開く豊かな「知」の世界
<著者について>
瀬木比呂志 Hiroshi Segi
一九五四年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。一九七九年以降裁判官として東京地裁、最高裁等に勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。二〇一二年明治大学法科大学院専任教授に転身。民事訴訟法等の講義と関連の演習を担当。著書に、『絶望の裁判所』、『ニッポンの裁判』(ともに講談社現代新書)、『民事訴訟の本質と諸相』、『民事保全法〔新訂版〕』、『民事訴訟実務・制度要論』(いずれも日本評論社、最後のものは近刊)等多数の一般書・専門書のほか、関根牧彦の筆名による『内的転向論』(思想の科学社)、『心を求めて』、『映画館の妖精』(ともに騒人社)、『対話としての読書』(判例タイムズ社)があり、文学、音楽(ロック、クラシック、ジャズ等)、映画、漫画については、専門分野に準じて詳しい。

(以上、アマゾンの書籍紹介ページより)

確かにこの本の主張を要約してしまうと「教養を身につけなさい」なのだが、頭の固いオヤジが偉そうなことを言ってる的な印象には決してなっていない。

自分を偉く見せるのでなくより良くかつ等身大に見せるのが教養なのかもしれません
自分を偉く見せるのでなくより良くかつ等身大に見せるのが教養なのかもしれません

この本が思いの外読みやすかったのは、メッセージが著者自身の言葉としてこなれていたから。「リベラルアーツの蓄積を元に自分は何を生み出したいのかというアウトプットの側面をも考えながら学ぶことが大切」として、受け手側が軸を持つ必要性に触れている。

「真剣勝負で向き合えば、漫画も法学も変わらない。あらゆる事柄は、あらゆる事柄に応用できる」として「古典のもっている時代を超えても失われない強靱な思考やメッセージの力と、同時代の大衆芸術のもっている生き生きとしたポップ感覚に裏付けられたメッセージの力」両方に目を向けているのも特徴か。

エルビス・プレスリーとオフスプリング(84年結成の米パンクバンド)を同列に取り上げたりしているほか、著書後半はなんと作品ガイド。「リベラルアーツ」の対象が本だけでなく音楽(海外ロック)、絵画、映画にまで及んでいるのも好印象。

作品ガイドに挙げられたものも古典に限らず選ばれており、触れてみたいものばかりで、著者の軸が見えて共感が持てた(一般的な原理原則を立ててそこから理論を導き出していく演繹法的な考え方はとっていない、というのにも同感)。

思えば大学時代は時間があると(というかヒマだったのでw)レンタルビデオでその頃の最新作以外にも「道」「第三の男」とか昔の映画を見てたもんでした。本もいろいろ読んだなぁ。映画に限らずいろいろな作品に触れるのはやっぱり楽しいんです。

先述した「受け手側の軸」というのも「自分が何者であるか」を確認すること、と理解できそう。「情報の海におぼれ、刹那的なコミュニケーションを繰り返しても、必ずしも人生は豊かにならない、そこには何か大切なものが欠けている、そのことに気付き始めている人々、また若者も、多いのではないでしょうか?」という著者の問いかけは大切だと思う。

自分が影響を受けたものは何か、どう影響を受けたのか、なぜ影響を受けたと感じたのか。そこを見つめることで(最大の謎である)自分が何者かがわかっていくのかもしれない。

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