来なかった未来を見た話【書評「超発明 創造力への挑戦」】

現在入手できるSF小説の古典「レンズマン」シリーズ(E.E.スミス)の表紙絵は生賴範義氏なのだが、実は個人的には、レンズマンの表紙絵は生賴氏ではなくこの人、真鍋博で印象づけられている。一般的には星新一のショートショートの表紙絵、挿絵で有名でしょうか。線がシャープでヒトの顔はちょっと子供の落書きっぽくてシュールな雰囲気。シンプルな描き方が逆にレトロな感じを出している絵です。

51hxgcDhG1Lその真鍋博の著作がこの本。雑誌「Wired」で紹介されていたので読んでみました。真鍋博の空想と風刺の翼を広げて思いついた「超発明」が約120個収録されています。

生賴範義氏と比べると、生賴氏はイラストレーターとしてSF的センスがあったけど、真鍋博はイラストだけでなく発想そのものもSF的だったのが印象的です。

1971年に出た本なので、今では実現してしまっている「超発明」があるのが興味深い。たとえば「音声標識」はカーナビ、指紋に同調する「パーソナル把手」は指紋認証、1つのレコードに何億曲も収録できる「球体レコード」はiPod、描いたものが立体化する「三次元鉛筆」は3Dペン、「自在光軸写真機」はシータ。道端ですれ違った人の顔まで記録する「ダイアリー・メモランダム」も実用化された

実現した「超発明」を挙げてみると、デジタル技術の発展が凄まじいことがわかる。逆に言うと、真鍋の考えた未来の発想が何となく、アナログっぽい。今のところ実現していない「超発想」までみてみると、この本では良くも悪くも「モノ」で世界を変える/世界が変わるという発想が下敷きになっている。

でも今の暮らしを見てみると、デジタルを生かした「サービス」ばかり、という気がしてくる。こんなブログ然り、SNS然り。アナログというともっと極端に「自然回帰」に近くなっているかな。若者がIターンして農業、とか。

そう考えると、描かれた絵のどこか懐かしい雰囲気と合わせると、この本には「来なかった未来」が詰まっていました。副題「創造力への挑戦」が何だか重く響くなぁ。

超発明: 創造力への挑戦 (ちくま文庫)
真鍋 博
筑摩書房
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