見えないところで時代は変わる話【書評「ネーミング全史」】

自分の気付かないものにも歴史はあるんだよなぁ、という一冊でした。

【内容紹介】
「名前がなくて、売れたものってあるだろうか? ネーミングは、すべての始まりだ。」(糸井重里)
あのヒット商品、話題のネーミングはこうして生まれた! 時代を超えて生き続ける「ネーミング」を歴史と共に振り返ります。
◆AKASAKA SACAS(ビル街のネーミングは、いまや日本語の言葉遊び)、KITTE(郵便のシンボル「切手」で、親近感アピール)、お〜いお茶(語りかけるネーミングは、背景に自販機)、うどん県(自治体のネーミング意識に火をつけた)…あのヒット商品、話題のネーミングが生まれた背景をネーミングの第一人者で、現在も数々のプロジェクトに関わっている著者が解説します。
◆本書では、1990年以降、「ネーミングが主役になった」時代に生まれたヒットネーミングを、その開発プロセスを交えて紹介しています。写真をふんだんに盛り込み、見て読んで面白い一冊です。また、発想チャートなど著者独自のネーミング作成法を紹介。実務家にも役立つ内容です。
【著者紹介】
岩永 嘉弘
ロックスカンパニー代表・主筆
1938年生まれ。早稲田大学第一政治経済学部新聞学科卒。光文社編集記者4年半・明治製菓宣伝4年の後、ロックスカンパニー代表・主筆に。広告制作の最前線で広告コピーライター、クリエイティブディレクターとして活躍する一方で、ネーミングという新分野を拓いた。ネーミングから始まる、ロゴデザイン、パッケージ、C.I.展開に至る広範な仕事をこなす。ニューヨークADC賞・朝日広告部門賞・毎日広告部門賞・日経広告賞などを受賞。

(アマゾンの著書紹介ページより)

業界誌、業界紙の連載に加筆したものだそうで、その点では以前紹介した本と同じか。でも内容柄、こちらの方が軽く読めます。

でもこの本の底に流れる「コピーの時代からネーミングの時代へ」という指摘は重要。一つ一つの商品に宣伝費をかけられなくなってきたので、商品名で勝負する時代なのですね今は。

全てのモノには名付けた人がいたのです。

著者自身、洗濯機「からまん棒」「東急bunkamura」「日清oillio」などを名付けた第一人者。例えば洗濯機、「からまん棒」以前は「うず潮」「青空」「銀河」など洗濯→キレイ、というイメージ勝負だった。それが洗濯槽の中心に棒が据えられた「からまん棒」以降、機能を直接命名するようになった。プレゼン時は悪評紛々だったそうですが見事大ヒットしたわけです。「広告にコピーが少なくなった。なくなった。キャッチフレーズが衰退した。いや、キャッチフレーズさえ消えてきた」という著者の言葉は一消費者の立場からでもうなずける。確かに最近、印象的な広告コピーってないからなぁ。

だから本の帯を名コピーライター・糸井重里が書いているのがオモシロイ。もう糸井氏自身、コピーライターが本業ではありませんからね。

最後の章はネーミングのコツを伝授。「分野違いのキーワードを探す」「世間のネーミングの半分以上は、コンセプトを追求し、加工しなくても立派に目的を果たす言葉をそのまま使った素ネーミング」など基本ではあるが重要なことをまとめている。

読み通せば、あの時代あんな名前の商品があったと思い出せるのだけど、「全史」と名乗るくらいなら巻末に年表をつけて、当時の時代風俗と重ね合わせられれば面白かったのに、とは思いましたが。

そしてもう一つ心に残るのは、「とは言ってもこの本で紹介される商品の全てが『ブランド』にまでなっているわけではないんだよなぁ」ということ。先述した洗濯機「からまん棒」も過去の商品。bunkamuraのような場所名は長く残るけど「ブランド」とは言えない。

そもそも今、家にある白物家電やテレビの名前、知らないぞ。名無しになった商品たちはもはや差別化すら放棄された日常品、ということでしょうか。長く残るのが一概にイイコトかどうか一考の余地があるのかもしれないけど、意外とそんな名前の消えた商品、周りに多い気がする。「ネーミングの時代」の先がもう始まっているのかもしれない。

ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た

ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た

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岩永 嘉弘
日本経済新聞出版社
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