生命力が世界を変える話【書評「男性論 ECCE HOMO」】

「いい男」も「いい女」も中身で決まる。好奇心と熱さが必要だと思わされた本でした。

<内容(「BOOK」データベースより)>
古代ローマ、あるいはルネサンス。エネルギッシュな時代には、いつも好奇心あふれる熱き男たちがいた!ハドリアヌス、プリニウス、ラファエロ、スティーブ・ジョブズ、安倍公房まで。古今東西、男たちの魅力を語り尽くす。

<著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)>
ヤマザキ/マリ
漫画家。1967年、東京生まれ。17歳でイタリアに渡り、フィレンツェにて油絵を学ぶ。その後、エジプト、シリア、ポルトガル、アメリカを経てイタリア在住。『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で手塚治虫文化賞短編賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(以上、アマゾンの著書紹介ページより)

「テルマエ・ロマエ」も「プリニウス」も読んでないのに読んでしまいました。それでも著者の選ぶ古今東西の「いい男」〜ローマ皇帝ハドリアヌスからスティーブ・ジョブズ、(連ドラ「とと姉ちゃん」にも登場した)花森安治まで〜は読んでなるほど、見習いたい部分はあると思わされた(一緒にいたいかはまた別の話)。

本文中のイラストもいいです。
本文中のイラストもいいです(電子版表紙はこんなんですが)。

日本を飛び出しイタリアで絵を学び結婚、離婚、再婚し漫画家デビューする著者の言う「いい男」は、古代ローマ時代が象徴する「生きる喜びを味わうことに貪欲で、好奇心がひじょうに強く、失敗もへっちゃら、活力がむんむんとみなぎっている熱い男」。皇帝だけでなく一般の人々もそんな熱い男が多かったという。そして中世イタリアにルネサンスが起こったように「文化や技術があらゆる場所で芽吹いてくるダイナミズム」を今の日本にも起こってほしいと願う。

ルネサンスは暗黒の中世時代の反動から生じたもの、と著者は言う。ならばそろそろ、失われた二十年を経て日本にもルネサンスが起こる時期が来るのかもしれない。しかし起こるのを待つのではなく、起こす側になるのが著者の言う「いい男」。そんな男の「共犯者」−「なにか自分が新しい局面に立ったとき、背中に隠れているのではなく、一緒に手を取って飛び込んでくれるひと」−になれるのが知性があり成熟した「いい女」なのだそうだ。

好奇心は周囲に興味を持ち、常識を疑い、枠からはみ出す力になる。もちろん枠からはみ出すのは楽ではない。著者自身「フィレンツェでの青春時代はもがき苦しみの一〇年」と振り返る。最初の夫との思い出は本の中で「苦い話」と表しているが相当にキツい体験だった様子。そんな苦労も糧にするくらいでないと枠からははみ出せないのかもしれない。

いろんなものをまぜこぜにして行くうちにもようやく自分なりのものを掴んでいく。その増長する細胞分裂の感覚を、「気持ちいい!」と思えるかどうか。絶頂をきわめても、どん底を経験しても、「まだまだ理想像を追い求めていくぞ」というときの心地のよさ、エクスタシーを感じられるかどうか。

そんな生命力、可能性にはやはりあこがれる。自分の生命力はいまいかほどか…?

男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)

男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)

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ヤマザキ マリ
文藝春秋
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