絵の魅力は永遠な話【鑑賞「生賴範義展Ⅲ」】

宮崎市のみやざきアートセンターで2017年1月15日まで開催中の「生賴範義展Ⅲ」を見てきました。

最終章となる本展示では328点を展示。見どころは「ジュラシック・パーク」単行本表紙かな。個人的には「ファウンデーション」シリーズ、「ハイペリオン」シリーズ、「虎よ!虎よ!」などのSF小説表紙の原画にグッときました。冒険心をそそるんですよねー。

そのほか、小松左京・平井和正コーナーは第1回の再展示だったりと、過去2回の開催と比べると「商業品」としては地味な構成かもしれません。

しかし今回のポイントは「未完の油彩群」と称した未発表品のコーナー。署名もない一連の作品たちは、自画像だったり息子さんをモデルにしたとおぼしき少年画、絶筆画(泣ける…)、そして薩摩川内市歴史資料館に所蔵されている大作「破壊される人間」のための習作群。

グロテスクなのになぜか惹かれる「破壊される人間」習作

このコーナーだけ他とは違う雰囲気を出している。一人の人間がこんなに色々なものを描くのかという振幅の大きさに圧倒されるのです。絶筆画に引かれたマス目にも心惹かれる。空母の絵を依頼されていたそうですが、正確に描こうとしていたのがわかるんです。

そして「小松左京・平井和正」「未完の油彩群」コーナーが撮影可(フラッシュ不可)なのもウレシイ点。「小松左京・平井和正」コーナーは第1回では撮影不可でしたからねー。

幻魔大戦シリーズから。数少ないパステル画

そこで改めて感じたのは、生賴作品で描かれる人物たちの目力。写真を撮ろうと作品を見つめると、男も女も真正面からだったり振り向きながらだったりとポーズは様々だけど、こちら以上の力で作品側から見返されていることに気づく。生賴作品の普遍性を感じた瞬間でもありました。

生賴作品については、宮崎市などが一般社団法人を組織して保存、定期的な公開に乗り出すそう。また2018年1月には東京・上野の森美術館で作品展が決まったとのこと。これからますます再評価が進みそうです。あくまで仕事として描かれた数々の作品群ですが、その突き抜けた魅力は永遠です。堪能した!

2016私的ベスト3

週1回ペースで更新している当ブログも3年目。2016年を振り返ってみたいと思います。映画に良作が多かったような…?

MCUや再始動したスター・ウォーズなどもみていて楽しかったのですが、単体としてエイヤッと絞ったらこの3本になりました。エンターテイメントの皮を脱ぐことなく偏見と差異というギリギリのテーマに挑んだ「ズートピア」、過多な情報量とスピード感という現代風の面白さで突き抜けた「君の名は。」、そして今の若者の生態を描きつつ人の成長を捉えた「何者」。就職活動は自分を見つめること、とはいうけれど、あんなにシビアに見つめたらもう立ち直れない…しかしそこからでないと再起動もできないのですよ。

今年はあまり本を読まなかった…と思っていたけど、振り返るとまぁまぁ手には取っていましたね。今は「カラマーゾフの兄弟」を少しずつ読んでいるので、最近は本を読み切っていないからか。この3冊からは当事者として眼前のことに臨むことの重要性を読み取りました。それが広く社会のためでもあるし、1対1の個人の関係でもそう。そして眼前のことに臨むにはプロでなければならないのです。

イベントもそこそこ行ったのですが、印象に残っているのは40回目の開催にして初参加の「UMK SEAGAIA JAMNIGHT」。夕方、酒を飲みながらの野外ライブで夏を満喫したのでした。音楽の気楽な楽しみ方を再確認。ブログには書きませんでしたが、Perfumeの幕張オールスタンディングライブやルノワール展(東京)、鳥獣戯画展(福岡)などにも行ったのでした。

とはいっても公開中なのに見てない映画(「スター・ウォーズ ローグ・ワン」!)や行けてないイベント(生賴範義展3!)、読んでいない本もまだまだいっぱい。焦らず、じっくり味わって自身の栄養にしていきたいと思います。

一人で創造はできない話【鑑賞・大河原邦男展】

福岡県北九州市・北九州市漫画ミュージアムで2017年1月15日まで開催中の「メカニックデザイナー 大河原邦男展」を見てきました。

大河原邦男氏はアニメに登場するロボットや航空機など、乗り物のデザインを続けているデザイナー。代表作に「機動戦士ガンダム」、ギャグアニメ「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」などがあります。

会場が駅から近いのがありがたかった

会場は大河原氏直筆の設定画を最初期の「科学忍者隊ガッチャマン」からズラーっと展示。機動戦士ガンダムの劇場版ポスターの原画もありました。星空を背に敵のロボット(モビルスーツ)が並ぶ中、後方にシルエットのように大きく描かれる主役ロボ・ガンダムという構図の「機動戦士ガンダム  哀・戦士編」のポスターは生賴範義の影響を受けていたそうで、実に興味深い。意外なところで繋がりましたねー。

もっとも、主に展示されているのはアニメ用の「設定画」なので、どの作品もサイズが同じ。新聞紙半分くらいの大きさか。展示としてメリハリがつきにくいのだけど、これはまぁ仕方ないですよね…。

そんな中でも、大河原氏が現役デザイナーとして活躍できているヒントが今回の展示でもわかりました。

一つはアニメという2次元で描かれるメカに3次元の魅力を与えたこと。昔のロボットアニメは主役ロボの変形合体が流行りだったのだけど、その合体変形システムを一枚の紙で説明してみせる手際の良さ。と、そのアイデア。今回展示されているその設定画を見ると、昔のロボットは腰が180度回転したり腕が逆方向に曲がったりしてパズルのように合体変形してましたわ確かに。見せ場だったよなー。何もないところから自身の頭の中だけでそういった発想をするのだからすごい。実際に立体を作っておもちゃメーカーに仕組みを説明したこともあるそうです。商業アニメですからおもちゃが売れてナンボですからね。

かっこいいメカもユーモラスなメカも描けるのが大河原氏の魅力

もう一つは自身だけで仕事を完結させなかったこと。先述したガンダムの場合、すでにあった主役ロボのデザイン案に大河原氏が「派手さが足りない」と全く別のロボットをデザインし、それに別のスタッフが「今回の場合ロボットに口があるのはリアルじゃない」と意見し、最終的に口がなくなったそう。敵側ロボの基本デザインもアイデアを出したのは監督で、大河原氏が仕上げていったということです。別の作品のコーナーでは、大河原氏のデザインに監督が細部にわたって赤鉛筆で修正を指示している設定画も展示されていました。

アニメは集団で作るものという考えに基づき、スポンサーやスタッフの要望、視聴者(子供たち)の期待に応えて結果を出していく。そして「どう応えるか」に自分の個性を出す。大河原氏の場合、合体や変形のアイデアだったわけで。共同作業の意味と醍醐味を考えさせられた展示会でした。

前向きな思いが伝わる話【感想・Zine It! Vol.7】

宮崎市で7回目になった、手作り雑誌「Zine(ジーン)」の販売イベント「Zine It!」。今回は福岡での同種イベント「10Zine」とのコラボということで、より多くのZineを見ることができました。関係者のトークも聞けて楽しかったですねー。

関係者トークではZineの魅力として「自分のやりたい環境を簡単に作れる」「(Zineは)『アレ読んだ?』が通用しない世界」「作り手のバックグラウンドが紙や綴じ方に出る」などうなづける指摘が。今回買ったZineも作り手の思いを感じたものが中心でした。そういう一期一会な感覚が楽しい。

宮崎の「Zine It!」は7年目、福岡の「10Zine」は6年目。「楽しい環境を一つずつ作ってきた」というコメントが印象に残りました。「地域を盛り上げるぞ」と大上段に構えず、「楽しくやる」といういい意味での軽さが結果的に街に魅力を与えているように思いました。カルチャーって自分の衝動から始まるものだからね…。

というわけで今回買ったZineは…

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映画・映画館について語った「CINEMARGIN」

宮崎市で自宅ショップを経営する女性布作家を取材した「わたしを生きる」

鉄塔への愛に溢れた「鉄塔」

柿の実が熟して落ちるまでを写真と文章で見届けた「柿の半生」

宮崎と鹿屋のお気に入りの場所やイベントを紹介する「FOR」

投稿雑誌の編集部での思い出を漫画形式で振り返る「なかのひとのはなし」

白魚の踊り食いやものまねショーパブ、細島港ガントリークレーン突撃取材などをまとめた「初体験記」

自分が欲しいもの、買ったものをイラスト付きで紹介する「ほしいもののーと2016」

でした。

取材する、文章を書く、レイアウトを整えるなどなど、対象への愛が形になったものに惹かれますねやはり。作者の前向きな思いを感じるのがZineの良さなのでした。

普遍性と個性を考えた話【鑑賞「リアル展」】

宮崎県・高鍋町美術館で2016年11月23日まで開催中の「宮崎アーティストファイル リアル展」を見てきました。

一つのコンセプトに則り作品を選出する「宮崎アーティストファイル」。「ガール展」に続く第2弾となる今回は予想通り(?)男性作家だけの構成でした。しかしテーマを「リアル」とした今回は、様々な写実作品(造形物含む)が並び、なるほど作家の目が何を捉えているのかが興味深い仕立てとなっていました。

 

高鍋美術館、頑張ってますねー
高鍋美術館、頑張ってますねー

そもそも「絵の見方」って学校で習った覚えがない。宗教画とか風景画は見て「綺麗だ」「印象的だ」と感じるのだけど、静物画、肖像画は上手だとは思うけど「なぜこれを描こうと思ったのか」が伝わらなかった。

でも今回の企画展でようやく覚った気がします。純粋に光や色、形、筆使いの妙を楽しめばいいのでは、と。そこに作り手の個性を読み取ればいいのでは、と。

特に今回のゲストアーティスト・永山真策の油彩画は精密でありながら筆使いを全く感じさせない。「写真か?印刷か?」というほどフラットな作品。一方でピントをぼかしたように風景を描いているのもあった。梅下政良の油彩画でもピントを一部分にだけ合わせたような作品や、表情を極端にクローズアップして捉えた大作(迫力!)など、「作り手の感じたリアルとは何か」が様々な形で伝わってくる。

今回も中心は若手の作家たち。彼らを紹介する解説ボードも興味深かった。彼らにとって写実画は「表現の基礎」「ツール」などである一方、素材に感じる形の面白さを伝えようとするなど、作り手たちが今何を感じているのかがよくわかりました。

作り手一人一人の「リアル」はここまで違う。それが個性。ということは、作り手に限らず我々一人一人が持つ「リアル」も一人一人違っているかもしれない。自分の「リアル」の普遍性と個性の境目はどこか。普遍的と思っていたものが実は個性の名の下に歪んではいないか。自分にも問いかけを迫られた展示会でした。

小さな力が集まっている話【書評「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」】

まずはこの動画から。Googleのウェブブラウザー「Chrome」のコマーシャルビデオ。

個人で作った曲(1次創作)がイラストや動画など次の創作を生み(2次創作)、何千人が集まるライブにまでつながる、日本のムーブメント「n次創作」とは何か、このビデオは描いている。この本は、音楽における「n次創作」の誕生とこれからを書ききった一冊です。

内容(「BOOK」データベースより)
新しい文化が生まれる場所の真ん中には、インターネットと音楽があった。2007年、初音ミクの誕生と共に始まった三度目の「サマー・オブ・ラブ」とは。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
柴/那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンにて『ROCKIN’ON JAPAN』『BUZZ』『rockin’on』の編集に携わり、その後独立。雑誌、ウェブメディアなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー・記事執筆を手掛ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(以上、アマゾンの書籍紹介ページより)

「サマー・オブ・ラブ」とは音楽が新しい文化を生み出し、社会現象になった時期のこと。これまで2度あったとされ、1回目は1967年からの数年。米国でヒッピー文化や反ベトナム戦争運動や公民権運動を背景に伝説のイベント「ウッドストック・ミュージックフェスティバル」が行われた。2回目は1987年からの英国。テクノミュージックなどのクラブカルチャーが広まり「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と呼ばれる。

著者は「セカンド・サマー・オブ・ラブ」の20年後、2007年からの日本に「サード・サマー・オブ・ラブ」が起こったと説く。

表題は「変えたのか?」だけど、これからも初音ミクは世界を「変えていく」のでしょうね。
表題は「なぜ世界を変えたのか?」だけど、これからも初音ミクは世界を「変えていく」でしょうね。

コンピュータを歌わせる基本技術「VOCALOID」の開発、「VOCALOID」をつかって架空の少女が歌うというコンセプトの元で開発されたソフトウェア「初音ミク」の発売。そして「初音ミク」を購入した一般人が続々とネット上にアップするオリジナル曲。その曲を気に入った別の一般人がイラストを描き、3D動画で踊らせ、実際に演奏し、踊り、それをネットにまたアップし…という日本のユーザーたちが自発的に起こしていった創作の連鎖が、当事者たちの声を隅から隅まで集めて描かれる。

この創作の連鎖、一貫して存在しているのは先達へのリスペクトだと思う。よいソフトを作った人への、よい曲を作った人への、よい動画を作った人へのリスペクト。一方でこの流れの「川上」にいる人は著作権など様々な権利も持つ。その権利を侵害せず創作に水を差さないようルール、マナーの整備(作品を使わせてもらったら作者に「ありがとう」と伝えましょう)を図ったこともすばらしい。

こうまとめてみると「サード・サマー・オブ・ラブ」は、消費者と製作者の壁がなくなっている点で、前の2度の「サマー・オブ・ラブ」とは大きく異っている。3度目、というより全く新しい音楽文化の始まりかもしれない。

以前「メイカーズ」という本を読んだ際「著者は「自分がほしい物を作ってそれを売る」ニッチなビジネスが先進国に広まっていく…と予想する。しかしスミマセン、「一家に一台3Dプリンタ」って世界は全く想像できない。だって使い道がわからないもの。」と書いた。日本でのメイカーズムーブメントって(「メイカーズ」が紹介した)レゴのアクセサリや自動車、ドローンより、「初音ミク」に代表される「n次創作」がそれにあたるの気がする(ビジネスとしてはあまり成立していないけど)。

この本の最後は「サード・サマー・オブ・ラブ」の終わりにも触れている。2013年頃からネットでの動画再生回数に落ち込みが見られてきたという。

いっぽうでブームとしては区切りを迎えても、デジタルの歌手が歌う文化としての側面、音楽とテクノロジーの研究開発としての側面はこれからも進むことも示している。

この本以降の出来事としては、「初音ミク」で作られた楽曲「千本桜」を2015年NHK紅白歌合戦で小林幸子が歌い話題になったり、ソフトウェア「初音ミク」が2015年8月、バージョン4になってシャウトやささやきも可能になったりした。また、キャラクターとしての「初音ミク」は2015年秋、シャンプーのCMに出演するという。

リオデジャネイロ五輪の閉会式で行われた次回開催都市・東京のデモンストレーションでは、ゲームやアニメのキャラクターが次々登場し、現代の日本のアピールに一役買っていた。「初音ミク」もその流れに乗りつつあるのかもしれない。

キャラクター、ひいては文化をみんなで育て大きくする。すぐに金にはならないけど「みんなの力」を集めて大きくできるのは今の日本の特徴なのだ。そういえば今夏大ヒットした怪獣映画もそんな話でしたね…!

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

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野外フェスは楽しい話【鑑賞「ジャムナイト2016」】

40回目の区切りの回に、初参加となりました。

今年は前売りチケットに特別ポスターもついてました。お得!
今年は前売りチケットに特別ポスターもついてました。お得!

宮崎のテレビ局UMK(テレビ宮崎)が40年前から開いている音楽イベント「UMK SEAGAIA JamNight」。当初はオールナイトだったんですよね。毎年「やってるなー」と気にはしてたものの行く機会はないままでした。

がしかし、40回目の今年はロバート・グラスパー エクスペリメントと日本ラストツアーのマリーナ・ショウが出演するというびっくりのラインナップ。新旧のスターを一同に見られるとは!と慌てて前売り券を買った次第。

当日は曇りで日差しも強くなく、酒を飲みつまみを食べながらの鑑賞。客席エリアはもっとまばらな感じかと思っていたけど、ステージ正面はさすがにぎっしり。エリア周辺は空いていたので飲食物の購入で混雑することありませんでした。

ロバート・グラスパー エクスペリメントは「BlackRadio」、マリーナ・ショウは「Who Is This Bitch Anyway?」から。最先端からレジェンドまで音楽を堪能。レイドバックした「Lovely Day」が夜空に消えていきました。個人的にはT-SQUAREも懐かしかったw。日野皓正もすごかった。

地方で40年続く野外音楽フェス(歴史だけならFUJI ROCKの倍w)、規模は決して大きくはないんでアーティスト招聘も楽ではないんでしょうが最近はブッキングも頑張っている感じ。去年はメイシオ・パーカーも呼んだようで。都会型のフェスとは雰囲気が違うんだろうけど、野外で飲食しつつ音楽を聞くのはやはり楽しいものですね。次回はアウトドア用の椅子やテーブルを準備して、もっと優雅に楽しみたいものです。リーフィーチェア、買おうかな…。

Black Radio

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目に見えないクリエイティブもある話【鑑賞「ピクサー展」】

過日上京の折、東京都現代美術館で2016年3月5日から5月29日まで開催中の「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」を見てきました。

ゾートロープは良かったですよ!
ゾートロープは良かったですよ!

「混雑するに違いない」と気合いを入れて開館間もない時間に行ったら案の定入り口は順番待ちの長い列。しかし見終わって場外に出たら入り口の行列は跡形もなしw。まぁ終了が近づいてくるともっと人が増えるのは間違いないでしょうね。

会場にはピクサーのこれまでの長編・短編作品、第1作「ルクソーJr」から最新作「アーロと少年」まで(えらい!)アートワーク約500点を展示。イメージ画や色味を見るカラー・スクリプト、「トイ・ストーリー」では初期の検討デザインなども展示され、意外とキモいウッディや3頭身のバズなど興味深い資料もありました。暗闇の中で人形が動いて見える「ゾートロープ」も見所でした。グッズ売り場はもう少し広くてもいいんじゃないかなー。

とピクサーの世界を堪能したわけですが、雑誌「WIRED」21号に掲載されたピクサーの最新レポートを読むと、東京都現代美術館では紹介されていなかったピクサーの一面があったと気付いたわけです。

それはストーリー作りについて。ピクサーが「(普遍的な)いい話」を産もうと、主要スタッフ間で討議を積み重ね、現場を調査し、時には監督交代も辞さないほど力を入れている点です。

先述の「WIRED」ではストーリーを練っている資料(画像)として、会議室に貼られたストーリーの要点を記した付箋紙を撮影していた。じゃぁこの付箋紙を東京都現代美術館に展示すればいいかというと…そうじゃないですよねw

ストーリーを生む作業は形に残らない。ストーリー自体もアートワークと同列には展示できない。

創造とは形に残るもの、残らないものがある。ストーリーとはデジタルにも残るのか、アナログにとどまるのか?そんな気づき、問いを得た展覧会&レポートでした。

自分の「好き」が大事な話【感想「青島デザインの学校 Vol.1」】

宮崎市青島・青島神社儀式殿能楽堂であったイベント「青島デザインの学校」に参加してきました。

青島に能楽堂があったなんて。
青島に能楽堂があったなんて。

第1回はプロの映像クリエイターを招いての「イメージをカタチにする、映像とデザインのチカラ」。動画を切り口に青島の魅力を再発見しようという催しでした。

ミュージックビデオの監督や劇場映画の編集を担当している大関泰幸氏が自作のミュージックビデオ撮影の裏話を紹介、ワークショップでは「青島を『ロケハン』するなら」というテーマで青島を紹介する写真を各自撮影、講師陣が講評する内容でした。

ワークショップで提出したのは駅前の階段と青島神社近くの波状岩(鬼の洗濯岩)。「波状岩の形に目が行ってしまうかも…」というコメントを頂戴しました。うーん、気づかないうちに奇をてらったショットになっていたようです。相手があっての写真ですからね。

ところで印象に残ったのはオープニングセッションとして話をされた、ウェブディレクター・安藤直紀氏のトーク。自身のパンクミュージック好きから転じたさまざまな活動ーZine製作から海外アーティストの招聘までーを紹介しつつ、こんな事を言われたのです。

「みんなが0.1%ずつ余計に頑張ると大きな動きになる」

先週紹介した本のことを思い出して、自分の中で何かがつながりました。自分の好きなことを少しでもやってみる。やってみることで当事者になる。すると仲間が増える(場合もある)。人間いつまでも挑戦、前進ですよ。

最後に安藤氏のトークで上映されたビデオとおなじものに基づいた、TEDでのスピーチ「社会運動はどうやって起こすか(デレク・シヴァース)」を紹介するのであります。リーダーとフォロワーの関係を端的に紹介するスピーチです。




振り返ると、写真を撮るのも「青島のここが好き」を再確認する機会になってたかも。

自分の好きなものは何か、もう一度自分を見つめ直してみようと思ったイベントでした。

言葉の力を考えた話【鑑賞「イキるコトバ」】

1月10日、宮崎市の宮崎市民プラザであった宮崎市文化芸術人材育成講座「イキるコトバ」に行ってみました。

うなづく点が多々あったトークでした
うなづく点が多々あったトークでした

3部構成のうち対談の1部、ワークショップの2部に出席。ワークショップは市内の高校、大学生による、歌のイントロに乗せての曲紹介(紅白歌合戦などであるアレ)で、なかなか楽しめました。

特に今回は第1部、歌人・伊藤一彦氏と放送作家・寺坂直毅氏の対談が良かったのです。幾つかのテーマに沿ってトークをしていった中でまずは「言葉との出会い」について。

「言葉との出会い」

【伊藤】高校時代は思い悩む時期。心には許容量があるのだから、言葉にして外に出さないと辛くなる。短歌は大学の同級生に勧められて始めた。東京は非定形・無秩序な所で、形が定まらないのが不安に思ったが、短歌という形式のある表現が拠り所になった。

【寺坂】中学、高校はラジオばかり聞いていた。深夜番組にハガキを投稿するようになり、採用されると、しゃべれなくても書くことで表現できると思った。

【伊藤】短歌もラジオも作り手、聞き手がいて成立するところは同じ。

「伝える上で気をつけること」

【伊藤】言葉は人が人である理由の一つ。自分に伝えたいことがあるか、それが明瞭になっているかが大事。また、こう言うと相手がどう思うかと考える余裕も持ちたい。もちろん感情的に反応することもあるわけで、それは生きている以上当たり前。どう修復するかが大事。いつも完全であろうとするとぎこちなくなる。

【寺坂】ラジオ好きなので何気ない放送が今の自分を作っている。今は作り手の側で、1番組で5000通のメールを読むこともある。書き手の必死さを感じる。そこでメールを選ぶ基準は、短くて、内容が的確で、喋り手に質問するようなもの。

「伝えたいけど言葉にしづらいときの工夫は」

【伊藤】心の中は奥深く広い。言葉にならないものをどう表現するかは一生かけて探すようなもの。言葉にしづらいからマイナスなのではない。それだけのものを持っていると自負すれば良い。

「言葉を磨く工夫は」

【寺坂】街を歩くこと。デパート好きなのだが、取材に行く際も店に直行直帰はしない。周辺の街を歩き回ってデパートがその街にとってどれほど大切か感じてから向かう。

【伊藤】現実体験はそれを言葉で自分のものにする必要がある。言葉にすることで「経験」になる。また本を読んで書き言葉を学ぶのも大事。

「よく聞くために心がけることは」

【寺坂】「徹子の部屋」の黒柳徹子さんのように、相手に尋ねる時に喜ばせる工夫をしたい

【伊藤】「聞く」の中心は相手。「見る」の中心は自分。相手の言いたいことを察して聴けるといい。一方的な質問では相手の気持ちの流れを妨げる

…高校時代の師弟関係でもあるという二人。年齢差もあるんで決して対等な立場でのトークとはならなかったが、スクールカウンセラーでもあった伊藤氏は熟練さ、現役放送作家の寺坂氏は自身の経験から感じた瑞々しさが良かった対談でした。

自分の言葉は自分の頭の中だけで成立しない。体を動かし体験し、相手の存在も踏まえて練り続けることが大事なのですね。