酒場では粋に振舞いたい話【書評「日本の夜の公共圏」】

「サードプレイス」って、日本にはその言葉が入ってくる前からとっくにあったんですね。

【内容紹介】
サントリー文化財団が奇妙な団体に助成金を出したと話題になっている。その名も「スナック研究会」。研究題目は「日本の夜の公共圏――郊外化と人口縮減の中の社交のゆくえ」という。
スナ研のHPによると、「日本に十万軒以上もあると言われる「スナック」について、学術的な研究がまったく存在しないことに憤り」を感じて決起したという。目指す到達点は以下になる。
〈スナックは、全国津々浦々どこにでもあるが、その起源・成り立ちから現状に至るまで、およそ「研究の対象」とされたことは、いまだかつて、ただの一度もない。本研究では、社会的にはおよそ真面目な検討の対象とはされて来なかった、このスナックという「夜の公共圏」・「やわらかい公共圏」に光を当てることで、日本社会の「郊外/共同体」と「社交」のあり方を逆照射することを目指すものである。〉
調べた結果は仰天するものばかり。人工衛星による夜間平均光量データまで駆使して出てきた統計結果にメンバーも困惑するしかない…。

Amazonの著書紹介ページより)

酒は好きだし独身時代は週末いつも歓楽街に繰り出していたものです。とはいえスナックは縁遠い存在。「オジサンの行く店」という印象がある。年齢的にオジサンと化した今では飲みに出る機会も減り、ますますスナックは縁遠い。

また飲みに行きたくなったなぁ。

とはいえこの本で語られる「様々な地位・年齢の人びととの交流によって、『社会人としての嗜み、人間関係のさばき』が身につく」場としてのスナックは、自分が飲みに行く場が持つ機能とほぼ同じ(カラオケはないけれど)。会社や同じ組織のメンバー同士でのアルコールを介したコミュニケーション(飲みニュケーション)とはまた違う個人の楽しみなんですよね。

またスナックが人々が文化・社会的討議をする場だった18世紀イギリスの「コーヒーハウス」とも異なり、人情を理解し「是非を厳しく論ずることなどせず、『なるほど、そういう場面・立場では、そのように思うものだな』と店の会話に加わるのが、スナックの楽しみ方」なのも納得。語るのではなく聞き役に回るのが粋です。

この本では複数の執筆者がスナックについて様々な角度から論じている。法規制だったり文化史だったり刑法犯認知件数との比較だったり。中には読み慣れないカタカナ語を並べた賢しらな論もあるのだけど、座談会もあって軽くも重くもスナックについて語っている。総じて普段語られることの少なかった「スナック」について色々な見識が得られます。女性が酒をサービスするスナックの前身とも言える(明治時代の)カフェーでは女中の人気投票があったりとか(!)。

まぁこの本に書いてあったことをスナックのカウンターで披露しても野暮なだけでしょうけどね。そもそも「今まで会ったかたたちでも、志に燃えてスナックを開店したなんて人は一人もいない」のだし。その場に合わせて酒を楽しめばいいのです。

ただ、人がふらりと飲みに行くのにはその人自身だけでなく、ひろく社会全般にも意味があるというのが分かる、面白い本でした。

日本の夜の公共圏:スナック研究序説
谷口 功一 スナック研究会
白水社
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