謎が人をつなぎとめる話【鑑賞「三度目の殺人」】

宣伝上「サスペンス映画」と謳ってはいますが、実際はサスペンス映画でも社会派映画でもサイコ映画でもない、なんとも言いようのない作品でした。

【イントロダクション】
カンヌ国際映画祭・審査員賞受賞から全世界へと広がった「そして父になる」の熱狂から4年。是枝裕和監督×福山雅治主演というタッグに加え、名優・役所広司が是枝組に初参加。さらに「海街diary」に続き是枝組2度目の出演となる広瀬すずを加え、日本を代表する豪華キャストの共演が実現した。弁護士が覗いた容疑者の深い闇。その先に浮かび上がる、慟哭の〈真実〉とは。心震える心理サスペンスが完成した。
【ストーリー】
それは、ありふれた裁判のはずだった。殺人の前科がある三隅が、解雇された工場の社長を殺し、火をつけた容疑で起訴された。犯行も自供し死刑はほぼ確実。しかし弁護を担当することになった重盛はなんとか無期懲役に持ち込むため調査を始める。調査を進めるにつれ重盛の中で違和感が生まれていく。三隅の供述が会うたびに変わるのだ。金目当ての私欲な殺人のはずが週刊誌の取材では被害者の妻に頼まれたと答え、動機さえも二転三転していく。さらには被害者の娘と三隅の接点も浮かび上がる。得体の知れない三隅の闇に呑み込まれていく重盛。弁護に必ずしも真実は必要ない、そう信じていた弁護士が初めて心の底から知りたいと願う。その先に待ち受ける真実とは?

公式サイトより)

観客の「こういう話だろうなー」という甘い期待を最後まで裏切り続ける話です。人によっては「これで終わり?」と思うでしょう。結局何?何が言いたかったの?って。観客に対し不親切な一本だなぁとは思います。

福山雅治の困惑する様が今回も見所ですね

最初に「サスペンス映画でも社会派映画でもサイコ映画でもない」と書きましたが、gむしろそれらの要素が全部入っている、とも言えるのです。とくにタイトル「三度目の殺人」が象徴するのは、殺した動機が曖昧なまま下される三隅への判決なのでしょうから。その点から司法制度への疑問を投げかける社会派作品、と言えなくもない。裁判官、弁護士、検察の公判前整理手続きとか出てくるし。広瀬すず演じる被害者の娘の告白もそう。

いっぽうで小鳥のエピソードを留置所で話す三隅の様子にはサイコ映画の香りも濃厚。話している時の役所広司のあの手!怖かったですねー。

でも、特に三隅と重盛の留置所のシーンで顕著なのですが、三隅をあたかも聖者のように明るく映したり三隅と重盛が同じような存在かのように重ね合わせて映したりと、被告人・三隅の描き方は非常に凝っている。もちろんストーリー上も殺人の動機について周囲の発言はおろか三隅本人もコロコロ変えていく。変えていく理由もはっきりしない。あげく最後には…とこれ以上書くのは野暮か。

ただ三隅最後の告白が観客側からすると「はぁ?!」と困惑してしまうのは避けられない。なおかつその告白に重盛が乗ってしまうのもますます困惑させられた。被告にとって最大限の利益を引き出さればオッケーという立場だった弁護士が、そんな告白に乗ったら裁判上圧倒的に不利だってのは一般人でも予想がつきそうなものだけど。で、実際その通りになってしまう。重盛が三隅に強く影響を受けたのだろうな、とは察せられるのだけど違和感がかなり残りました。この辺、人を選ぶだろうなー。

鑑賞後に解放感を味わえる作品ではありません。困惑させられたまま放り出されてしまいます。でもこれって是枝監督の本を読んだ後の印象にも繋がるのです。「これが答えだ」と示されないのは監督の考える現実観の反映か。それを示してしまうことこそが「三度目の殺人」になるのか。もやもやとしたものを引きずっていくことで三隅は重盛や観客の中で生き続けるのでしょう。