御大の言葉をかみしめた話【書評「富野に訊け!!」】

アマゾンの電子書籍「KINDLE」5周年セールで買った1冊。思いの外、読み応えがありました。

【内容紹介】
『機動戦士ガンダム』監督による破格の人生相談がついに電子書籍になりました! 対人関係から勉強、仕事、恋愛、生と死の深淵まで、富野監督が人生の大疑問に全力で答えます。「どうすれば、他人に優しくなれるのか?」「異性と普通に話ができるようになりたい」「仕事にやりがいが見いだせない……」。多くの人が抱える悩みに対して、時に厳しく、時に優しく語られる言葉の数々は、人生に惑うあなたにきっと一条の光を与えてくれるはず。今日厳しく感じられる言葉も、十年後には正しいアドバイスだったと実感します。人生に迷ったときは、富野に訊け!! (月刊「アニメージュ」連載・アニメージュ文庫『富野に訊け!!』を電子書籍化)。
【著者略歴】
富野由悠季
1941年神奈川県生まれ。アニメーション監督、小説家。64年に日本大学芸術学部映画学科卒、虫プロダクションに入社しテレビアニメ『鉄腕アトム』のスタッフとなる。67年に退社後、CMディレクターを経てフリーの演出家に。72年に『海のトリトン』で実質的に初のチーフディレクターを務め、79年に『機動戦士ガンダム』の原作・総監督となり、のちに世の中にガンダム・ブームを呼び起こす。以後、現在まで多数のオリジナルテレビアニメの原作・監督を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(Amazonの書籍紹介ページより)

作品自体は見たことがなくても「ガンダム」というアニメ作品の存在は広く知られているはず。「ガンダム」のほかにも著者はテレビ向けに数々のロボットアニメを制作してきました。作品に出てくる登場人物に共通の芝居掛かった独特の台詞回しや、あまりに個性的な著者自身の存在も話題なのです。

骨太オヤジっていつの時代にも求められるのです。

同じアニメ監督としてテレビに登場する人では、宮崎駿もなかなか口の悪いヒトでしたが、この著者は宮崎駿以上の毒を吐く。しかも表現がややこしいw。なおかつ自分のコンプレックス、妬みを臆面もなく晒す。下で働くのはまず間違いなく大変な人です。

しかしこの人には目を離せない魅力がある。先述した自分のダメなところも晒しながら周囲を批評しまくるので、強い部分と弱い部分がないまぜになる姿が正直でもあるし、主張に説得力を持たせているのです。

この本はアニメ雑誌「アニメージュ」に2002年から2009年にかけて連載された、読者からの人生相談。一番痛烈なのは「仕事にやりがいを見出せない」という質問への回答か。著者はこの質問者の手紙が読ませ方、見せ方についてまるで考えていない、質問者は社会人としての立ち居振る舞いが身についていないと批判した上で「治療法はない」「アニメ雑誌なんかにこういう質問を持ってくるのは甘え。もっと上等な雑誌に持っていくはず」と、けんもほろろ。掲載誌までとばっちりを食う始末。

でも質問者本人にとっては気の毒だけど回答の最後「ちょっとした文章だけでも人の品位や性格は伝わってしまう」という著者の言葉にはハッとさせられる。まずそういうところから鍛え直せ、ってことだろう。文面に書かれている以上のものを読み取ろうとするのが興味深い。

「アニメ監督になるには?」という高校生の質問への回答は内容が面白いように二転三転。「(著者自身が)高校生の時は絵や小説をどんどん書いていた。何もしてないなら君は普通の人。以上です。」とあっさり結論を下した上で「貴方がなぜアニメに簡単に興味を持ったか」に問いを変え、答えもくれる。それはアニメ雑誌を迂闊に読んだから。つまり…

あなたが世間に溢れかえった情報をそのまま受け止めてその情報を「良い」と判断してしまうのは、あくまであなたが受け止めているその情報の「量」が多いだけの話なのです。

この後の著者の真の結論は、だから若いあなたは色々な体験をして自分のやりたいことを探してください…となるのだけど、抜き出したこの部分、タコツボ化した今のネット社会への警告にもなっていないか。いろいろに読み取れる楽しさがあちこちにあるのです。

創作の世界に憧れた若者が就職難の中、当時は社会的に目立たない産業だったテレビアニメ制作プロダクションに入社し、いつか実写映画を撮る日の為にとアニメ監督の仕事を続け、実写の仕事はこないけれどアニメ監督として名をあげた。そんな自分に忸怩たる面もあるが悪くないとも思っている−。欲望と諦観を重ね持つ先達の姿はハードボイルド。人生の全てを体現しているような著者は、ファンが呼ぶ通り、まさしく「御大」なのです。

富野に訊け!! (アニメージュ文庫)
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ちなみにテレビアニメ「機動戦士ガンダム」の制作から打ち切り、その後の再評価の顛末はこのマンガで描かれています(キャラクター描写は誇張されてるけど)。

「ガンダム」を創った男たち。上巻 (角川コミックス・エース)
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