リアルな選択に寄り添う話【鑑賞「板子乗降臨」】

2月15日から19日まで宮崎市で上演された演劇。笑えるけどちょっとやるせない、人々の暮らしを見つめた話でした。

【作品紹介】
宮崎を舞台に、その土地で生きる人々を描くシリーズが誕生!
第一弾は、京都の劇作家×宮崎の演出家のベテランタッグにより、自然豊かな地方都市の現実(リアル)を描く意欲作!!
【あらすじ】
宮崎市から車で一時間ほどの場所にある樅ノ町(もみのまち)。山の上にある樅の巨木と無農薬野菜が売りの、これといった特徴のないこの町に、県外から一人のサーファーが移住してきた。地元製薬会社が樅ノ町に計画する研究施設建設への反対運動を盛り上げようと奮闘するが、彼の存在がきっかけとなって、地元住民の関係性が少しずつ崩れていき…。

メディキット県民文化センターホームページより)

板子乗(いたこのり)はサーファーのこと。話はサーファー(板子乗)が宮崎に来た(降臨)ことから始まる。宮崎市が舞台ではあるんだけど話の内容は普遍的なもので、政治運動が崩壊していく粗筋だけ追うと「救いのない話」とも読み取れる。実際、クライマックスは結構ダークな展開になるし。沖縄でこの芝居は上演できるだろうか…とまで思ってしまった。

笑えて考えさせる芝居でした

でもこの話はギリギリのところで踏みとどまって、地方の町で暮らしていく人々に寄り添って終わる。寄り添うというのは、人々の愚かさにも目を向けるということで、大きなものに抑圧される正しく弱い存在とは描写していないということ。運動の大義と人情の間で人々が揺れ動き、自身でも思いもよらない選択をしてしまう様は痛々しくて笑えもするんだが実にリアル。「いそうだなこんな人」と思わされた。やるせなさを爆発させた最後のセリフ(叫び)が、印象に残りました。

主演は渡部豪太。テレビで見たことのある俳優さんで舞台経験も豊富なだけあり、登場した瞬間はパッと惹きつける魅力が十分にあった。でも他の出演者たちも負けてなかった。「宮崎出身の人だけあって方言が板についてるなぁ」と思って後でパンフレットを見直したら県外出身の役者さんで驚いた、なんてことも。

宮崎県立芸術劇場プロデュースのこの公演、年1回新作を製作していく予定とのこと。宮崎礼賛、地方礼賛では全くないリアルな(でも笑える場面も多々)作品を1作目に据えたところに本気さを感じました。宮崎の演劇界は頑張ってるんだなー(上から目線)。