生活は強くたくましい話【鑑賞・この世界の片隅に】

ついに、とうとう、ようやく、宮崎でも公開された2016年最後の話題作。アニメ作品なのに場内の平均年齢高かったなぁ(笑)

【作品紹介】
監督は片渕須直。第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞の前作『マイマイ新子と千年の魔法』(09)は観客の心に響き、異例の断続的ロングラン上映を達成しました。徹底した原作追及、資料探求、現地調査、ヒアリングを積み重ね、すずさんの生きた世界をリアルに活き活きと描き出した本作には紛れもなく今の私たちの毎日に連なる世界があります。原作はこうの史代。第13回メディア芸術祭マンガ部門優秀賞ほか各メディアのランキングでも第1位を獲得。綿密なリサーチによる膨大な情報と、マンガ表現への挑戦がさりげなく織り込まれており、その創作姿勢と高い完成度から多くのマンガファン・書店員から熱い支持を得ています。クラウドファンディングで3,374名のサポーターから制作資金を集めた本作。長く、深く、多くの人の心に火を灯し続けることでしょう。
【ストーリー】
18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉は日本海軍の一大拠点で、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続き、昭和20年の夏がやってくる―。

公式サイトより)

原作漫画は未読なのですが、戦時中の話を描くにしては可愛らしく描かれた登場人物たちがまず印象的。戦争の影が近づく中、人々が毎日を送る様が時にユーモア、ギャグも織り交ぜて綴られる。

「悲しくてやりきれない」のが日々の生活かも仕入れません。

コメを少しでもかさばらせようとして「楠公飯(なんこうめし)」を作る場面の飄々とした語り口。天秤棒で周りの人々を次々となぎ倒す勇ましさ(←違います)に爆笑。作中では年月日は字幕で表示されるが、その時に起こった出来事は伝えない。いつの間にか戦争は始まっている。戦争が生活の中に溶け込んでいるかのようにも描かれる。

ひやっとするのが晴美が戦艦にやたら詳しいこと。兄に教えられたとはいえ年端もいかない少女が戦艦を言い当てる様は、現代なら自動車や鉄道、飛行機を言い当てるのと同じものと理解しつつもそのギャップがおっかないのです。

中盤ですずが憲兵に取り調べを受ける場面も笑えるのだが複雑な印象。国家権力を笑い飛ばす庶民のしたたかさでもあり、一方で道端の写生も許さない時代の息苦しさに気づいてないようでもあり。戦争と生活が地続きであることの複雑さを感じさせる場面でした。

玉音放送を聞いてすずが一番激しい反応を示すのも忘れられない。生活が急に変わってしまうのを反射的に拒絶したかのよう。空襲など辛い目にあっても戦争はすずの生活に溶け込んでしまっていたんですね。

そして戦後、すずと夫・周作夫婦に新たな出会いが描かれて終わる。凄惨な世界から再び生活が静かに立ち上がることを物語っていました。

反戦のメッセージを前面に出した作品ではありません。ネットの反応ではそれが気に入らない人もいる様子。でも見終わると「生活に忍び込む戦争は嫌だなぁ」という思いが残る。そして毎日の生活の愛おしさも。当時の人々に寄り添おうとする姿勢に好感が持てました。大上段に構えなくても普段の生活から主張できるものもあるのです。