家からコミュニティが広がる話【書評「住み開き」】

自宅の一部をギャラリーやサロン、博物館、劇場にしてしまった人たちの暮らし「住み開き」ぶりをルポした本。東京、大阪を中心に31カ所が紹介されている。

著者自身、バンドマンとして音楽に携わった経験から表現一般に関心が転じNPO活動に参加、そして地域コミュニティで活動を継続させるためのアイデアとして家を少しだけ社会に解放する「住み開き」を提唱するようになったのだとか。

「住み開き」は、自分の日常生活の中で区切られてしまっている様々な役割−仕事、学業、家事、趣味−といったものを再編集し、人間同士の関係性を限りなくフラットにする。

と著者は言う。

似たことをしている人が東京、大阪以外にもきっといるはず…
似たことをしている人が東京、大阪以外にもきっといるはず…

そんな暮らしをしている人たちってきっとナチュラルでスローでオーガニックな感じなんでしょ…と思っていたが、紹介されている様子の写真をよーく見ると、改装して雰囲気のいい感じの一室もあったりする一方、ごく普通の家だったりする例も結構多かった。

この本でちょっと残念だったのが、主催者に話を聞いている「だけ」という例が目立ち、実際にその場所で開かれているイベントの雰囲気が文章で伝わりにくかった点。写真も撮り方をもう少し工夫できなかったかなぁ。ごく普通の家であろうと、各場所が持っている「味」をもう少し感じたかった。

著者一人で取材したのだろうから、イベントに参加したりじっくり写真を撮るのも時間的制約があったのかもしれませんが。

とはいえ、著者が提案する「住み開き」というテーマは非常に興味深い。むしろよく31もの例を集めたとも言える。若い夫婦や若者たち、校長先生、66歳の主婦、73歳の教授など主催している人も様々。ある主催者の「僕がここに住んでいるということが、誰かの役に立っていて、そしてそこから仕事が生まれ食べていけるというサイクルを作り出したい」というコメントが印象に残った。

著者の考える「住み開き」9つのコツとは

目玉を用意する
プライベートを確保する
経済的に無理をしない
日時を決める
徐々に輪を広げる
大家さんと仲良くする
なるべく大きな音は出さない
子供とペットを媒体とみなす
困ったときは「ここ私の家ですから」

とのこと。

この本では事例紹介の他に著者と識者の対談も収録されているのだが、その中で著者は「美しく暮らすってことと、徹底的に手をかけて暮らすことは必ずしも同じではない。手をかけずとも気付いたことをパッとその時に程よい体裁でやれるかどうかが重要」とも語っており、これまた非常に印象に残ったのです。

またこういったプライベートな面と対極にある「仕事」も地域に開くべきだともいう。一人のアイデンティティの多様性を確認するためにも、仕事の中に自分の素を適度に獲得しつつ、自らの専門性を地域コミュニティに転用する−僭越ながら「職開き」と(勝手に)命名しましょうw。

そして…「無理して開かなくたっていい」とも著者は言う(前書きでw)。「開いているところに参加するだけでも今まで味わったことのないようなコミュニケーションの回路を手に入れることができるはず」という指摘もまた重要。参加する人がいての「住み開き」なわけですからね。

この著者の最新刊「コミュニティ難民のススメ」も実はもう買っているので、近く読んでみたいと思います。

住み開き―家から始めるコミュニティ
アサダ ワタル
筑摩書房
売り上げランキング: 176,311