ネットは広く、作品世界は狭まる話【鑑賞「攻殻機動隊 新劇場版」】

このシリーズも閉じてきたなぁ。ネットは広大なのに。

士郎正宗原作のSFコミック「攻殻機動隊」の新シリーズアニメーション。主人公・草薙素子をリーダーとする「公安9課」配下の攻性独立部隊が発足するまでを描く。

サブタイトルは本当、考えてほしかった…
サブタイトルは本当、考えてほしかった…

全4作のアニメシリーズ「攻殻機動隊ARIZE」、それをテレビ版に置き換え、今回の劇場版につながる新エピソードを追加した「攻殻機動隊ARIZE ALTERNATIVE ARCHITECTURE」を経ての今作。制作を聞いたときは「『新劇場版』ってのは仮題なんだろうな」と思っていたら、まさかそのままのタイトルで公開されておりました。うーむ、そこはちゃんとネーミングをしてほしかった。やっつけ感が拭えません。

原作コミックのテーマに向き合った、押井守監督の劇場版アニメーション2作、原作コミックの世界観に薬害問題、移民と戦争、高齢者問題などを混ぜたテレビシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」3部作を経て、今回「ARIZE」はキャラクターに向き合ったシリーズにした…と制作者側は考えたよう。

しかし「ARIZE」でやっていることはこれまで同様、電脳犯罪の捜査だし、キャラクター描写もこれまでとそう変わらない。主人公・素子の髪が短いくらい。

もともと「始まりの物語」といっても、登場する主要キャラクターはみないい年した大人でプロフェッショナルぞろい。あまり成長や心境の変化はないし、「ARIZE」シリーズを通じて素子は仲間を増やしていくんだけど、仲間になった連中は「ほとんど」裏切らないので(それっぽい場面はあったけど)、話が進むにつれこれまでのシリーズとの違いがわからなくなった。

で、新劇場版はエピローグでまさかの原作コミック冒頭の某場面をやってみせるんですが、違和感が半端ない…。

原作コミックでは素子やバトーが変顔をするところもあるんだけど、それは漫画としてのデフォルメ表現でありコミック世界の中でちゃんと統一性があった(そう考えると原作コミックの表現の幅広さはすごいな)。新劇場版の話を見た後では、素子が、原作コミックのように出動命令を拒否しても「?」という感じ。

「ARIZE」は原作コミックの中でアニメ化していない部分を探してきた、という感じで、この世界観を使って何か普遍的なものを描こうっていう志を感じなかったなぁ。個人的には、そここそがこのシリーズの魅力だったんで。