競争より協働という話【書評「機械との競争」】

紙版も普通の厚さの本に思えたんだけど…
紙版も普通の厚さの本に思えたんだけど…

原題が「Race Against The Machine」とアメリカのラップメタルバンドをもじっているのにニヤッとさせられる。しかしこの本では機械…正確に言うとデジタル技術、だろうか…への怒りはなく、共存を呼びかける。機械と共存し新しい市場を開く方がこれからの時代、望ましいあり方だと説く。

著者はデジタル技術は能力の倍増が短期間で、短い信頼度で実現する「ムーアの法則」はまだ有効で、その結果、これまで人間でないとできないと思われていた分野にも機械が進出し始めている。そのあまりに早いデジタル革命に追いつけない人たちは職や収入を失っている。全体的な労働生産性は向上しているが、世帯所得の中央値(データを順番に並べた際に真ん中に来るデータの値)は伸び悩んでいる。中間層の労働者はテクノロジーとの競争に敗れつつあるのだ。

しかしここで著者は、ラッダイト運動が起こった産業革命も結局は他の分野で労働者が必要になった例を挙げ、コンピュータには備わっていない直感や創造性を人間が発揮すれば、人間とコンピュータは協力関係を築け、新たな市場を開拓できると主張する。そのために組織の革新、個々人のスキル向上を説く。

「毎日上司にやることを指示されるような従来型の仕事に就こうなどと考えていると、いつの間にか機械との競争に巻き込まれていることに気づくだろう」という指摘はドキリとさせられる。

電子書籍で読み始めたら意外に早く読み終えてしまった。本当なら結論として著者が挙げている組織革新と個人のスキル向上のための19の提言の実現性についてもう少し踏み込んでほしかった気もする。

ともあれ機械とは「競争」でなく「協働」。余談ですが、最近見たNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で紹介されたコンシェルジュの言葉「仕事が守りに入ると雑になる」「自分の手の中で仕事をしない」にもドキリとした。もういっぱしの社会人なんで、スキル向上は自分の力でやらないと!