世界の分岐点は今だった話【書評「イスラーム国の衝撃」】

イスラム世界について理解を深められた本でした
イスラム世界について理解を深められた本でした

日本人2人殺害などで急速に国内でも関心が高まっているISIL(イスラム国)について分かりやすくコンパクトにまとまった本。これぞ新書!(Kindleで読んだけど)。おすすめです。

…で終わってはアレなので、印象に残った箇所を取り上げますと、ISILの主張はイスラム教の正当な大義や理念にある程度合致しており、現状、イスラム世界の中で適切に論破できないのだそうだ。宗教規範の人間主義的な立場からの批判的検討…すなわち宗教改革…が求められる、という著者の主張が重い。

宗教改革って他の主要宗教では行われてきた過程で、少なくとも現代では歴史上の出来事になっている。だからこそ主要宗教では規範を基にした過激派が仮に現れてもそれが広く支持されることはないのだ。しかしアラブを中心としたイスラム世界では過激思考を一定程度受け入れる思想がまだ残っており、これからそれを排除する試みが起こってもらう必要があるのだ。もちろんこれは内部から自発的に発生しないといけないわけで、そもそもそんな自己改革が起こるかどうかもわからん…。

これまでISILのような過激派を抑えてきたのは各国の独裁政権だった。しかしその統治の不正義が過激派を生む土壌にもなってきた。このジレンマにアラブ世界は疲れている。さらに民主化運動「アラブの春」によって独裁政権の足場が弱まり、過激派の抑制も困難になってきている。米国の覇権も希薄化し、新たな秩序を描く主体も国際的にも存在しないのが現状なのだとか…厳しいなぁ。

今は国際社会の分岐点に差し掛かっていると改めてわかった本でした。繰り返し読むことになりそう。