弱い力が人をつなぐ話【鑑賞「インターステラー」】

久しぶりの骨太SFキターッ!な一作。科学的にあり得るぎりぎりの線とフィクションを高いレベルですりあわせた充実の作品となっております。

【あらすじ】植物が次々に枯れ、人類が住めなくなりつつある地球。人類は移住できる他の星を探すため密かに探索を開始していた。あるきっかけで探索チームに加わった元宇宙パイロットの男は「行かないで」という娘の願いを振り切り、時間と空間を越えて星々の中へ飛び立つが…。

「2001年宇宙の旅」「コンタクト」などにつながる、最新科学考証をできうる限り盛り込み、エンターテイメントとして見せる「ハードSF」映画。スター・ウォーズのような「スペース・オペラ」とは違い、作品世界は現在考え得る物理法則、宇宙科学に支配されているのです。

空間をつなぐ「ワームホール」の説明などは作品内でもあったけれど、最新の宇宙物理学を解説する、リサ・ランドール「ワープする宇宙」を偶然にも読んでいるので「時間と空間のゆがみ」という概念がうっすら頭に入っていたのが助かった。主人公の家で起こっていた“ポルターガイスト現象”の種をあかすクライマックスでは「その“概念”を映像化してくれたか!」と涙が出そうになりました。本を読んでもわかるようでわかりにくい部分なんだよねー。

頭使うのが楽しい映画でした
頭使うのが楽しい映画でした

先述した2作と比べると、人間ドラマに比重が置かれているのもポイントか。父と娘の心のつながりを描くのに重力を用いるというアカデミックさ!重力って科学者の間では自然界にある4つの力のうち、非常に弱い力とされているそうなのだが(詳しくは検索してください)、その弱い重力と親子「愛」という、これまた強さがあやふやな力が組み合わさって大きな奇跡を成し遂げるのが実にドラマチックでした。

けれど、作品の核となる概念、いわゆる「ウラシマ効果」はどこまで知られているんだろう。知らない人からすると、「星の上での1時間が7年って?」となりそう。

そして「2001年」「コンタクト」同様、この作品でも、作劇上避けられないのかもしれないが、登場人物間の対立が描かれてしまう。特に今作では人類救済計画としてA案、B案が提示され、A案を成立させる候補に3つの星がある…という前提でさらにそれを転換させていくのでややこしい。なおかつそれを主人公のいる宇宙と主人公の娘がいる地球の話を交互に描きながらすすめるので、「この人はなぜ反対しているの?」と少々混乱してしまう。

まぁ今考え直すと、今作で描かれる対立とは「未来を信じるか否か、人間の力を信じるか否か」に帰結するように解釈できますが。その視点でクライマックスは、科学で解明できうる世界から一気にフィクションの世界へ飛び込むわけです。しかしそんなフィクションの世界で効果的に使うツールが先述の「重力」なわけで。この使い分けが実に絶妙で「ハードSFだなぁ!」と思うわけですよ。

そしてエピローグ。劇中で繰り返される詩の一節が実に胸に迫るのです。進め、進もう。科学の面白さをもう一度思い出し、未知の世界へ。SF(サイエンス・フィクション)という、よく考えると矛盾しているこの言葉の意味がよくわかる作品でした。