肩の力は抜いたほうがいい話【書評「里山資本主義」】

「里山資本主義」表紙
「はじめに」からイヤな予感はしたんですがね…

「主義」にしてしまったのが一番の問題だったか。肩肘張りすぎて論調が大きく狂っているのが痛い本だった。

グローバルな経済システムからなるべく独立し、地域社会を中心にした独自の経済圏をつくろうという主張自体、決して古いものではない。そこに「里山」という郷愁を誘うキーワードを振ったのが話題になった理由ではないか。

NHK広島と日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏の共著という形のこの本、NHK広島のスタッフによるルポと藻谷氏の解説という構成なのだが、読んでいて冷めてしまったのが「驚くなかれ」とか「なんと」などルポ中に頻発する前のめり表現だ。伝えられる地域社会の実態もデータ不足で、雇用がどれくらい増えたかなどのデータはない。

そもそもエネルギーや食料を自給する里山のルポの視点が「日本全体の需要はまかなえないだろうが、今の常識は疑ってみる必要がある」ではダメだよな。「日本全体の需要がまかなえるかも」ってとこまでいかないと、疑う必要がないでしょうに。スマートシティも研究段階なんだし。「里山資本主義はマネー資本主義のいいとこどり、サブシステム」と逃げを打ちつつ「経済100年の常識破り」って自賛してはシラケるだけである。

NHK取材陣はリーマンショックを機に発生した経済危機の実態を取材して「マネー資本主義」なる言葉をつくり今の世界経済を「やくざな経済」「マッチョな経済」と評している。けれど、「マネー資本主義」(正確に言うと株主資本主義だろうけど)は、加熱した面は修正されこそすれ、なくなることはないだろう。それをいくら貶しても意味がない。

著者らが紹介した事例を「主義」にしてしまうからおかしくなったのではないか。都会から地方へのライフスタイルの変化、でいいのだと思う。人との絆を大事にするスタイルは里山に限らず、都会でも広がっている。SNSなど普及したのもそれでしょ。それがあたかも世界を変える「思想」のように評するからおかしくなる。

余談だけど先日、藻谷氏の講演を聞く機会があった。そこでも当然、「里山資本主義」について触れていたのだが、そこでは「外貨を稼ぎつつ、エネルギーや食料などなるべく自給して金を地域で回すシステム」と紹介していた。

しかし…地域内に金を溜め込むような思想って「自分たちだけよければいい」という発想であって、現実的とは思えませんでしたね。ちょっと驚くくらいぞんざいな物の言い方に面食らったこともあり、この「主義」にはあまり良い印象を持てませんでした。

ただ「里山資本主義は一人でなんでもやる、一人多役の世界」という分析だけは、同じようにグローバル経済と地方のあり方を論じた本と通じる面がありましたので、次はその本の紹介です。