人を殺し、生かす話【感想・かもめのジョナサン完全版】

Kindle版の表紙は味気ないなぁ
Kindle版の表紙は味気ないなぁ

軽い気持ちで読み始めたら、前回同様、あっという間に読了した。

まぁ…完全版になっても短いですからねw。

従来版の感想は五木寛之の1974年版あとがきに酷似している。五木寛之と同じく、ジョナサンの生活感の無さに違和感を覚えた。

【あらすじ】ただ飛ぶだけでなく、「早く」飛ぶことに夢中になるカモメのジョナサン。飛ぶことは生活の一手段でしかない群れの中で彼は孤立し、追い出される。そこで自分と同じように飛ぶことにこだわって生きているカモメたちと出会い、遂に飛ぶ技とその意味を極める。ジョナサンは自分の技を伝えようと再び群れに戻り、若いカモメに自分の教えを伝え、姿を消すのだが…

完全版で追加されたPart4ではジョナサンが消えた後のカモメたちが描かれる。その姿は自分たちで考え、自由を追求しようとする個人たちの集まりではなく、ジョナサンの存在だけを神秘化し、表面的な答えが与えられた世界に安住する怠惰な者たちの群れだった。

逝きし世の面影」でも書いたが、近代は個が尊重された時代だった。個人の生き方を追い求めるのが善。

Part3まではそんな考えを突き詰めたような作品だった。しかし五木寛之が当初のあとがきで書いたように、 個人主義を礼賛するあまりPart3まででは社会に背を向けたような個人主義のいかがわしさも感じさせた。

Part4では個人の可能性を見たはずの組織の変容が描かれる。ジョナサンを学ぶのではなく崇拝に「逃げる」カモメたちが、やはり個人の自由な生き方を殺す。組織の形骸化という形で殺す。

組織がなぜ硬直化してしまうのか、非常にリアルな回答がPart4にはあった。

しかし組織を硬直化させるのが個人なら、それを破るのも個人の力なのだった。

結局、組織より個人の考え、生き方を大事にしろというテーマ自体は変わっていない。しかし個人と組織(社会)の関係は完全版になって深まったのではないか。完全版になって評価は正反対になったかな。

かもめのジョナサン完成版
新潮社 (2014-07-09)
売り上げランキング: 5,850