人は走るから人だった話【書評・Born to Run】

あらゆる角度から「走る」ことを伝えた本でした。
あらゆる角度から「走る」ことを伝えた本でした。

最近のジムには「エリプティカル(だ円形)トレーナー」という、足を空中で走るようにだ円状に動かす運動器具がある。ソレで運動しながら読んだのがこの本。ヒトが走る理由を精神、肉体、民族、さらに著者の体験も含め描き切った力作でした。

【紹介】メキシコの山岳地帯に「カバーヨ・ブランコ(白馬)」と呼ばれる謎の米国人がいる。彼は現地にひっそりと暮らす史上最強の長距離ランナー民族「タラウマラ族」と交流を持つ唯一の部外者なのだ。なぜ著者は彼を探したのか。カバーヨの正体、タラウマラ族の実態とは。そして彼らとアメリカ最強のウルトラランナーたちがメキシコの山中で対決するとき、人が長距離を走る肉体的、精神的理由、人の走る能力の極限が現れる…。

海外の著者による本だけあって、話の展開が独特ではある。カバーヨや現在のタラウマラ族の話が続いたと思ったらタラウマラ族の歴史、スポーツ医学の話、アメリカのウルトラレースで活躍するランナーたちの話…。登場人物が多く気がつくと違う話になっていたりして面食らうこともあった。

しかし「走る」行為をありとあらゆる角度から描きつつ、カバーヨが再び企画するタラウマラ族とアメリカ人ウルトラランナーのレースに参加するアメリカ人たちの生き様が実に個性的。社会常識が少々欠けているくせにアレン・ギンズバーグの詩「吠える」を叫びながら走るジェンとビリーの「バカップル」がとくに最高。本の中で何度か描かれるレースも迫力があった。

とまぁ、登場するランナーたちはいろいろな意味で凄い連中なので、長距離を走れるのはそんな選ばれた人間だけと思いたくなる。がしかし、そこでスポーツ医学、生物学的エピソードが意味を持ってくる。この本では「ジョギングで足を痛めるのはなぜか」「高機能ランニングシューズは怪我の予防に役立たないのではないか」「裸足で走れば怪我のリスクが減るのではないか」などの疑問に切り込んでいく。

そして、「人間はなぜ『弱い生き物』に進化したのか。人間の遺伝上の優位性は何か?」という根源的な問いにも到達する。むろん答えは「走る能力」。人間には走る能力—具体的には「遠くまで行く能力」—がある!そしてウルトラランナーたちの見ている世界を追体験すれば、走る喜びも理解できるはず。

この章のあと、タラウラマ族とアメリカ人ウルトラランナーたちのレースがクライマックスになるのだけど、ここまで読むと体を動かさずにはいられなくなる。ウルトラランナーにはなれなくても、走る力、走る喜びは誰にでもあるのだから。

個人的にはあとは体を直すだけかな。実は今、朝起きたら足の裏が痛む「足底筋膜炎」に軽く悩んでおります(苦笑)。「エリプティカルトレーナー」は足底に負担かかからないからいいんだよねぇ(駄目過ぎ)。