思考力は2種類あった話【書評「評価経済社会」】

51LJYadud2L発想は面白く、論の雑さは極めて残念。これからの社会は貨幣を交換する「貨幣経済社会」から、評価と影響を交換し合う「評価経済社会」に移行する、と考察した本。

将来のことはわからないんで著者の主張を無下に否定するのもなんなんですが、過去はともかく、前提条件となる現在社会の認識が極めて雑なので「そんなカンタンに貨幣経済がなくなるわけない」と思ってしまう。

どう雑なのかというと、具体的なデータを提示することなく「今の社会はこうだ」「今の若者たちはこう考えている」としてしまうから。一箇所でも著者の主張に「そうだっけ?」と思ったが最後、もうその先は読めなくなってしまう。前提が納得できないのだから、結論に納得できないのも当然でしょ?

著者は、オカルト番組を見る「私たち」はインチキなら科学の力で暴けとか考えず、「ふぅーん、そんなこともあるかもしれない」と考えながら見ているのだ…というけれど、この本全体が「ふぅーん、そんなこともあるかもしれない」程度の議論でしかない。この本の表現からまた借りれば「本質ではなく著者自身の気持ちでのみ値打ちを計ろう」としている。

「いつまでもデブと思うなよ」は著者自身の体験を元にした本だったし、最初に読んだ「オタク学入門」は斬新だった。だけど、今にして思えば「オタク学入門」は著者の視点や発想が面白いだけで済んでいた。未来予測に論の中心を移した時点で、視点や発想と言った瞬発力的思考でなく自説の正しさをどう証明するかという持久力的思考も必要になる。

扱う語の定義もきちんとしてほしいし。著者が「科学主義は死んだ」というときの「科学主義」とは「民主主義、資本主義、西欧合理主義、個人主義と言った価値観を含む一つの世界観のこと」なのだそうだ。それ曖昧過ぎて何を指してるかわかんないんですけど!orz

未来予測」も結論はトンデモナイところまで行ってしまっていたが、著者の逡巡まで含まれていた分、読者には誠実さを与えた。

この本の結論は頭の片隅に置いておくとして、個人的な感想は「頭の良さにもいろいろある」ってところでしょうか。

評価経済社会・電子版プラス
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