W杯、日本代表苦戦してますね…。オシムの言う「判断と行動のサイクルを早くする」ってのは練習しててもなかなか発揮できないもんだなぁ。
ところで、社会的に「判断と行動のサイクルを早くする」必要性が最近もっとも問われたのは東日本大震災だった。この本は震災時に「私設帝国企業」Googleが日本でどんな震災対応をしたかを振り返ったもの。Yahoo!の震災対応やGoogleらの震災対応サービスが被災地でどう使われたかまで、IT技術が震災時にどう生かされたかを幅広く取り上げている。
Googleには米本社に常設の災害対応チームがあり、東日本大震災発生から1時間46分後には特設サイト「クライシスレスポンス」を立ち上げ、被災者検索サービス「パーソンファインダー」をスタートさせた。日本側スタッフは日本語化や携帯電話への対応、入力件数を増やすためボランティアに避難所の名簿を撮影してもらい「パーソンファインダー」への入力を依頼。また被災地の衛星写真の公開やニュース番組のネット配信、避難所情報の地図へのマッピング、義援金呼びかけなどを次々に行った。
これらのサービスは社員の誰かが勝手に着手し協力者を社内に呼びかけて始まった一方(この辺がいかにもGoogleらしい)、内容が社内外でかぶったり優先順位などに問題がないかなど「交通整理役」も社内に設けていたそうだ。
「正しいかどうかでなく、統一した見解を誰かが出す」ことで全体のスピードも上がったのだ。
また緊急時とはいえ、Google米本社との承認プロセスに懸念が残るまま走り出したサービスもあった。その際、判断を求められたGoogleの日本側法務担当は「僕の判断でOKだ」と言い切った—というエピソードがちょっとグッときましたね。
こうして取り組んだ各種のサービスの中には他社、公共団体などと連繋しないといけないものもあり、Googleと相手との「スピード感」に違いが生じた例も紹介されている。そんな件について著者らは、スピード感があったGoogle側の肩を一方的に持つのではなく「相手側は『Google側の連絡が途絶えた』という認識だった」と平等な視点で取り上げ、なおかつGoogle側の反省点として「平常時からの必要情報の洗い出しと事前のプロセス策定が重要」という言質を引き出している。取材対象に肩入れしすぎない著者らの絶妙のバランスを感じた部分だ。
そうはいっても、Googleによる取り組み—災害時の情報提供プラットフォームの構築—はボランティアを含めた自発的な支援活動を呼んだことは間違いない。この本の中ではYahoo!の取り組みも紹介されている。Yahoo!では災害発生時、当時の社長がメールで社員全員にこう伝え士気を高めた。
「今こそ、ライフエンジンとしての力を発揮する時だ」
…この「ライフエンジン」という言葉にもグッときた。Yahoo!、Googleに限らず今やIT技術自体が『ライフエンジン』なのだなとも思わされた。
さてそんな様々のサービスだが、著者らの調べでは必ずしも被災地で活用されたとは言いがたかった。電力や通信インフラが途絶したのもあるが、とくに高齢者にはIT技術に長けた人のサポートがないと利用できなかったようだ。今後はそういったリテラシーの差が大きくなる一方、ボランティアには高齢者を精神的にケアするため普段からの信頼関係構築も必要なのだそうだ。
その他、一般ユーザーは信頼できる情報源を見極めること、情報を扱う企業は多様なメディアを連携させること(パソコンで読み取りやすい書式で情報をやり取りすること)などを挙げている。
著者が結論として述べる「いざという時は普段やっていることしかできない」は重い指摘だ。災害対応サービスをGoogleが次々に手掛けられたのも普段の積み上げによるものだし、Twitterで震災直後おかしなデマが飛び交ったのも(広めてしまった利用者は)SNSをその程度しか使えていなかったからだ。
日程が決まっているスポーツの試合でも「普段できていること」を発揮するのが簡単ではない。ましてや、いつ来るか分からない非常時では?
企業から個人のレベルまで、災害時に何ができるか、普段からどう対処すべきかまで取り上げた労作でした。
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