発想を転換する話【書評「無印良品は、仕組みが9割」】

51LneCdUKkL企業が帝国化する」でも仕組みを作る側になることの重要性に触れられていたけれど、実際に仕組みをつくる側になるためのヒントになりそうな本。一時の低迷からV字回復を成し遂げた無印良品(良品計画)の会長が「マニュアルの重要性」を説く。

無印良品には店舗で使う「MUJIGRAM」、本部の業務用の「業務基準書」の2種類のマニュアルがあり、売り場の商品陳列から接客、商品開発、出店の判断などの経営までマニュアル化されている。「MUJIGRAM」はなんと2000ページ。いずれも「個人の経験や勘に頼っていた業務を仕組化する」ためなのだそうだ。

新規出店の際、応援に駆けつけたベテラン店長たちが、各々勝手に「これじゃ『無印らしさ』がない」といって商品を並び替えていくので開店準備がちっとも終わらなかった―というエピソードを著者は紹介しているが、確かにこれは「業務が個人の経験や勘に頼っている」例だろう。

著者はマニュアルを「守ること」の重要性を説くのではなく(いやもちろん守らないといけないのは当然として)、「つくる人になる」重要性を訴える。マニュアルを作り、マニュアル通りに実行しながら、絶えずマニュアルを磨き上げていく組織が著者の理想だ。著者にとってマニュアルとは「仕事の最高到達点」でもあるのだ。

その対極が「上司の背中を見て育つ文化」なのだという。

背中を見せるのが上司の仕事ではなく、マニュアルを作り、改善し続けるには全員で問題点を見つけ定期的、かつリアルタイムに改善する必要があるのだから、様々な意見を検証してまとめるのがリーダーの役割なのだそうだ。

またマニュアルからは離れるが、会社を強くするために必要なことに「ヒントは他社から借りる」を挙げ、その理由を「同質の人間同士が議論をしても新しい知恵は出ない」と言い切ったのも印象的だった。閉塞感を打破する当たり前のことですよねこれ。

仕事に徹底的にマニュアルを取り入れるという、ともすれば一番閉塞的な手法が実は会社を活性化させうるという、一見矛盾を感じさせる著者の主張は興味深かった。

ただ、あまりページを割かれてはいないのだが、著者自身は結構「実行力」のあるタイプのよう。

売れ残った商品はアウトレットなどにせず社員の目の前で焼却してみせて在庫管理を徹底させるよう仕向けたり、それでも在庫管理に失敗すると在庫管理を現場から本社に強制的に移す。「MUJIGRAM」作成に反対する社員を「MUJIGRAM」作成委員に任命してやる気を出させる一方、なかなか「MUJIGRAM」に従わない店長には「多少の強制力」を発揮した—とさらっと書いているのがちょっとコワい。

いずれにしろ「マニュアル」はリーダーの指導力、実行力を適切に促し、かつ、部下の意見を吸い上げる仕組みでもあるということで、双方にやりがいを生じさせる仕組みなのだ。発想の転換が興味深い本だった。