善人は善人であり続けられるか?【書評「未来予測」】

517vyfvdIWL._SL160_ついていけない部分も多々あるけれど、著者自身の体験も含め、表題通り長期的な「未来予測」だけでなく短期的なマネタイズの話まで、広い視野で語られた本。

【どんな本?】
「レイヤー化する世界」と同じく、テクノロジーが社会に与える影響を考えた本。「社会は国家化から産業化に進み、情報化に進む」「自分らしく生きる人が増える」など予測する方向は同じなのだが、異なるのは「自分らしく生きる人が増えると目に見えない世界の存在を信じ(!)直感を大事にする人が増える(精神世界的な真理感を持つようになる)」という点か。

著者のいう「精神世界的な真理感」は左脳的、論理的思考の持ち主が右脳的、感覚的な思考も身につけるという意味らしい。

「自分らしく生きる」人は、自身の成功も自分の能力以外の力に助けられたような気がすることがあり、他人と競争する必要がなくなる。他者に寛大になり自分は他人とつながっている真理感を受け入れやすくなる…と著者は考える。現実社会になじめない人がスピリチュアルに頼るのとは違うのだとか。

その上でこれからは、そんな人々が集まるコミュニティに奉仕し、その周辺で発生するビジネスチャンスを掴めば金が儲かると説いている。「コンテンツはコピーできてもコミュニティはコピーできない」という一言は的を射ていると思う。

【良かった点】
総じて「これからは仲間たちとポジティブに生きよう」ということを訴えた一冊。ぶっ飛んだ主張も含まれているのだが断定的ではなく、自分の主張にも懐疑的な面ものぞかせるのが真摯な印象を与えている。

【惜しかった点】
かなり読み返したのだが散漫な印象は残る。著者自身もあとがきでそう認めつつ「自分の葛藤だと思う」と述べているけれど。長い副題も葛藤のあらわれかな。あと、我々は元々一つの存在と考える「精神世界的な真理感」は、理解できるようでなかなか敷居は高い。自分からそんな真理感を持っているとは言い出しづらいですねやっぱ。

【どう読むべき?】
日々を生きる実感、生きる意味。あとがきによると著者はそれを「自分がワクワクする分野で尖っていくこと」と(この本を書きながら)再確認したそう。著者は仲間たちとプラスエネルギーを出し合って尖って生きていくのだろう。

まぁ普通に考えたら、誰だって人の悪口は聞きたくないし言わないに越したことはない。言わない方が人としての評価があがることも分かってる。つまり、普通に善人として生きればいい訳だ。

…でも、人間ってプラスエネルギーばかり出しては生きていけないよね。Facebookでは友達が言う愚痴や批判は表示できなくできるけど、見えなくなったからって愚痴や不満が消えた訳ではない。

レイヤー化する社会」でもそうだったけど、ポジティブな振る舞いや発想だけを良しとするのは、個人の生き方としてはありだろうけど、未来予測としては無しだと思う。

端的に、他者に善人でありつづけるよう求める思想って結構な無理難題ではないのかなぁ。

人は愚痴や誹謗中傷、批判「も」する存在。マイナスエネルギーをプラスに変えるような仕組みができるといいんだけどね。それがつくれたら金儲けのチャンス…なのか?

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