人生と旅の共通点【映画「ゼロ・グラビティ」】

中身は予告や事前の情報通り。それ以上のことは何も起こらない。だけど見終わったとき、感動し興奮している自分に驚かされる一作。

無重力の宇宙空間で突然起こった事故。助かった宇宙飛行士は地上とも連絡が取れない状況の中、地球への帰還を目指す、という話。

こんなあらすじなので当然帰還できるに決まっているわけだし(全員死んで終わったら意味がない!)、舞台も現代なので宇宙飛行士が突然超能力に目覚めるだの異星人に会うだのと観客の予想を裏切ることも起こらない。こうなるだろうなということがそのまま起こり、それを切り抜けて飛行士は帰還する。

それでもこの映画が観客を捉えて離さないのは、圧倒的な映像美と音楽、登場人物の心理描写が巧みだから。この映画はストーリーでは勝負していないのだ。冒頭、画面の奥の点がシャトルと宇宙飛行士になり、事故発生まで一連の長回しの緊迫感!映像、音楽、演技と映画はストーリー以外にもこんなに観客に訴える要素があるのか、と再認識させられた。

ストーリーは単純だけど、いっぽうで話の構造は、中盤で地球までの脱出ルートが提示される(結末の提示)、一度はくじけ死を覚悟した飛行士が再び立ち上がる(王道的展開)などあって、取っ付きにくい作品にもしていない。わかりやすさも組み込んでいる巧みな作品だった。

(まだ一度しか見ていないのでちょっとあやふやだけど)ついに大気圏に突入する飛行士が「人生は旅だ!この旅に私は後悔していない!」と叫ぶのには、人生を書道に例えた本を読み直したばかりでもあって一度きりの人生を生き切る大切さを感じグッと来ましたね。そしてついに自分の足で大地を踏みしめ立ち上がったときに画面いっぱいに出る「GRAVITY」(重力)という原題。

邦題は「ゼロ・グラビティ」。無重力空間でのサバイバルを描いた映画なのでこれでも間違いではないんだけど、なぜ原題は「重力」なのか—。思うに、この映画が描きたかったのは「重力のある世界に『帰る』」話かな、と。

登場人物も二人だけ。文章で読んだら面白くもないような単純なストーリー(構造は巧みだけど)。それでもきっちり作れば勝負できると踏んだこの映画の関係者たちはすごい。映画の可能性を広げた作品だと思いました。

さて次回は、この映画の劇場観賞後も余韻を味わいたくて自宅のテレビで米版予告編を見ながら考えたことについてです。