日本人でもシンプルの杖を振るえるか【書評「佐藤可士和の超整理術」】

31QpmbhL2VL._AA278_PIkin4,BottomRight,-41,22_AA300_SH20_OU09_

「Think Simple」を読んで「シンプルを獲得する方法に関する記述はなかったな…」と思っていたところに続けてこの本を読んで、「シンプルを獲得する方法ってこれじゃん」と思った一冊。つまり(偶然だったけど)これらの本は2冊で一つのような感じなのだ。

【どんな本か】
TSUTAYA「Tカード」、国立新美術館やUNIQLOのシンボルマークをデザインしたアートディレクター、佐藤可士和氏による「整理術」の本。著者が携わった事例を通じて著者自身の思考法を「整理」という切り口で綴り、モノの整理だけでなく、アタマの中ー考え方の整理まで説いている。英語のタイトルを「KASHIWA SATO’S Ultimate Method for Reaching the Essentials」と謳っていたのに気づいた。「the Essentials」…「基本」ですね。

【良い点】
「整理することで一番大切なことを見つけ、磨き上げてデザインする。それがうまくいけば、見る人にメッセージを限りなく完璧に伝えることができる」と著者はいう。

「目的がフォーカスされて、ビシッと論理の筋道が通った」状態が著者の考える「整理された状態」のようだ。

「Think Simple」との関連で言えば、情報の整理のためには「問題の本質に迫ろうとするポジティブな姿勢を保つことが、整理術の大前提」という一文もあった。情報の整理のため「客観視」「視点の転換」「思い込みを捨てる」など多面的な視点で物事を見ることも重要なのだとか。

「多くの人は、自分の目の届く限られた範囲内で現実を理解し、あまり疑問を持たず、世の中をシンプルに捉えているのではないか」という下りは、「シンプル」を理解しているようで実はそこにある落とし穴を言い当てているようでおっかない。

そしてアートディレクターとして仮説をぶつけながらの対話を通して「相手の思いを整理する」ことの必要性も説く。常に自分を整理し、相手の思いも整理していく。その結果、できあがったデザインが「昔からこのデザインだった気がする」「新鮮だが違和感がない」と評価されているのだな。

「Think Simple」でもシンプルについて「見た目もふるまいも聞いた感じもまったく自然だということ」「知らず知らずに人をうなずかせるようなこと」としていたのに通じる。

自分自身や相手の思いもキチンと「整理」すれば「シンプル」にたどり着く…2冊を読んでそんな感想を持ったのです。

【惜しかった点】
前書きで「スポーツのような爽快感」が整理にあるというけれど、口絵にあるような著者のオフィスは…正直キレイすぎw。著者は外出時にカバンは持たず、普段持ち歩くのは鍵と携帯、小銭とカードケース程度なのだとか。いくらなんでも極めすぎのような気もしないではない。いろいろと詰め込みすぎて「自分のカバンはなぜこんなに重いのだ?」と頻繁に絶望する身としては、その境地に到達するのはいつの日か。

著者はアートディレクターだけど、本を読んで感じる著者や口絵で見る著者の職場には、禅寺のような静謐な雰囲気が漂う。ノウハウも突き詰めると宗教になるのかなぁ(多分違います)。

そういう意味では、著者がデザインを生み出す過程には「仮説をぶつけ修正する」はあったが、「説得」がなかった。「これしかない」という自分の思いを「思い込み」だったとして整理するのが一番難しいかもしれない。

【どう読むべきか】
カバンを持たないのはアレにしても、書評を書こうと読み直せば読み直すほど、考え方のヒントになる箇所が散りばめられていると気づく。片付けの魔法とか断捨離とかあるけれど、モノを整理することは思考、発想を整理することにもつながる…という主張は極めて説得力が高い。

というわけで、自分自身の整理をしてみようか、と思わされる本。それが「シンプル」への第一歩。とりあえず、身の回りの古い書類を処分しようっと…。

佐藤可士和の超整理術 (日経ビジネス人文庫)
佐藤 可士和
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 4,485