社会や人を変えるものとは【書評「メイカーズ」】

読み終わっても実際のところ半信半疑。本当に3Dプリンタが一家に一台の時代がくるんだろうか。ただ「人は『何かを作りたい』という強い欲望を持っている」というのは伝わってきたけど…。

【どんな本?】
「ロングテール」(未読)「フリー」(既読)などの著書がある米版「ワイヤード」編集長の最新刊。デジタル技術の進歩は「ものづくり」にも変化をもたらす、という話で、具体的には(1)パソコン上の3Dデータをそのまま立体化する「3Dプリンタ」による物づくり(2)ウェブを通じた製造委託サービスや資金集めによる物づくりーによって個人が大企業と同じ製造能力を持ちうるのだ、というのが筆者の考えだ。

【よかった点】
読み終わったときには、自分でも何か作りたい、と思わされた。できあがったときの充実感って確かに得難いものがある。…のだけど、自分が「作りたい」と今思っているのは、少なくとも立体物(3D)ではない、と気づいてもしまった。それこそ今書いている書評(文章)とか、ブログとか2Dのものなんだな。

【惜しかった点】
著者は「自分がほしい物を作ってそれを売る」ニッチなビジネスが先進国に広まっていく…と予想する。しかしスミマセン、「一家に一台3Dプリンタ」って世界は全く想像できない。だって使い道がわからないもの。

今の「2D」プリンタが、少なくとも日本で広まったのは「年賀状」があったからではないかな。「これが家で作れれば便利なのに」という立体物がまだ思い浮かばない(それが思い浮かべばビジネスチャンスかも?)。

ウェブを通じた製造委託サービスの成功例として本書で挙げられる「レゴのアクセサリ」「特殊な電子部品」「自動車」、著者が携わっている「飛行機ロボット」…どれも興味がない(重ね重ねスミマセン)。もちろんニッチなビジネスである以上、上記の物に興味がないことが「メイカーズ」ムーブメントが失敗するとイコールではない。「これは欲しい!」と思わせる物がいつかネットにでてくるかもしれないのだから。

【どう読むべきか】
3Dの物を作るのに今は興味がなくても、モニター上に映る2Dのもの(文章、写真、動画など)の創作はすでに一般に開放された。日本でも大手メーカーを飛び出して一人や数人で物づくりをしている若者がメディアで紹介され始めている。3Dプリンタも製造委託サービスも「もっと手軽につくりたい」「自分だけのものを作りたい」という欲望の産物だ。

この本で書かれている未来像はこじつけっぽく理想論的な気もするのだが(というか究極のDIYって感じでいかにもアメリカンな印象)、それは「自分が欲しいものを自分で作るようになると人がどう変わるか」があまり書かれていなかったからかもしれない。自分で体験するしかなさそうだ。「これを3Dプリンタで作りたい」という欲望がわいたとき、自分はどう変わるのだろうか。

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